業種別開業ガイド
アパレルショップ
トレンド
アパレルとは本来、衣服を指す言葉であるが、アパレルショップという場合は、主にファッション性の高い洋服や靴、アクセサリーなど複数種類の商品を販売するショップを指す。
(1)国内市場規模は、約5.5兆円で減少傾向
総務省統計局「家計調査」によると、1世帯あたりの洋服・履物類にかける金額は年間総額で10万円~12万円の間で推移しており、直近の動きを見ると若干の減少傾向にある。
また、同支出額に世帯数を加味した国内市場規模は、2018年で5兆5,240億円であり、本市場規模も家計支出同様、直近の動きを見ると減少傾向にある。
家計支出額減少の背景には、後述するファストファッションの台頭もあると考えられる。
(2)業界を牽引しているのはファスト・ファッション
ここ数年、アパレルメーカーの売上ランキングは、ユニクロを運営するファーストリテイリングや、カジュアルウェアのしまむらが上位を占めている。海外勢も含め、低価格帯のいわゆるファスト・ファッションが人気を集めている。
そのほか、近年の健康ブームを背景に、運動時に着用するスポーツウェアやシューズなどが中高年齢層を中心に人気であり、スポーツ・アパレルという分野も注目されてきている。
(3)EC取引の拡大とAI活用
経済産業省の公表資料によると、アパレル業界におけるBtoC向けEC取引は拡大を続けており、2018年のEC市場規模は17.7兆円、EC化率は13%程度にまで達している。
また、EC取引で収集蓄積される消費者の購買情報の分析もAIの登場によって飛躍的に進んでいる。それによって、個々の消費者が購入したいと思うであろう商品の分析(お勧め情報の精度の向上)、将来の流行ファッションの予測なども可能になってきている。AIによる消費者動向の分析は、不良在庫発生の防止にもつながるため、業界内からも期待が高まっている。
アパレルショップの特徴
アパレルショップで扱う商品は、メンズ、レディース、キッズのファッションまで幅広く、トップス、シャツ、ジャケット、パーカー、スーツ、ボトムス、パンツ、スカート、ワンピースなどさまざまである。また、洋服だけでなく、アクセサリー、ベルト、鞄、財布、名刺入れ、靴などの周辺商品まで揃えているショップもある。
アパレルショップの品揃えは多岐に渡るのが一般的であり、仕入と在庫の管理が重要となる。
仕入れは、シーズン前に開催されるアパレル関連メーカーの総合展示会に参加するなどして決定する。このほか、メーカー各社のホームページも常にチェックしておき、流行しそうな新商品やセンスの良い商品があれば、随時仕入れを行う。このため、常に仕入れ資金が手元にあるよう資金繰りにも気を配っていることが求められる。
売るタイミングも重要なポイントである。シーズン前、シーズン途中のセールで不良在庫が発生しないようにしなければならない。販売は、リアル店舗だけでなくネット通販でも行い、機会損失の発生を防ぐ。シーズン途中であっても、消費者の明確なニーズが確認されたら、素早く仕入れを行い追加販売していく柔軟な対応も必要である。
販売される商品によって、店舗は、「ブランドショップ」と呼ばれるものと、「セレクトショップ」と呼ばれるものに分けられる。「ブランドショップ」は、特定のブランド商品や、自店のスタッフがデザインを手掛けて作成したオリジナル商品を販売するショップである。一方、「セレクトショップ」は、独自のコンセプトで選び仕入れた商品を販売するショップであり、複数ブランドの商品を取り扱うことになる。
客単価は、カジュアルショップで数千円、高級店では数十万円のところまであり、幅広い。
アパレルショップ業態 開業タイプ
あらかじめコンセプトを定め、それに沿って店舗タイプを選定することが重要となる。
(1)ブランドショップ
自店でデザインしたオリジナル商品を販売するタイプである。店内にデザイナーを抱える必要があり、店主やデザイナーのセンスが店舗の業績を大きく左右する。 また、特定ブランド商品を独占的に販売する場合もブランドショップと呼ばれる。この場合、メーカーとの間で販売代理店契約を結ぶことになる。ショップの商行為はあくまでもメーカーの販売代理であるため、価格決定権はなく、販売実績に応じて手数料をメーカーから受け取る仕組みが一般的である。
(2)セレクトショップ
複数ブランドの商品を取り扱う店舗タイプである。複数のデザイナーやブランドと販売店契約を結んで商品を販売するのが一般的である。このほか、商社や衣料品専門の卸売業者から無名のブランド商品を仕入れるケースも多い。
(3)専門店
取扱い商品について「シャツ」「Tシャツ」「靴下」など、絞り込んで取り扱う店もある。
開業ステップと手続き
(1)開業ステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の8段階に分かれる。
(2)必要な手続き
アパレルショップ開業に際しては、規制される法規や行政上の許認可は特にない。
品揃え・サービスの工夫
- 自店の得意分野は何で、誰にどんな商品を売りたいのか。店のコンセプトを明確にしてターゲットを絞り込むことから始める。コンセプトとターゲットが明確になったら、ショップにふさわしい商品の仕入れに着手する。
- 店舗立地は、一見(いちげん)の顧客も取り込めるよう、商店街や繁華街など、人通りの多い場所が適している。店構えは、強く印象付けられるよう、存在感をアピールできる看板や、ショーウインドウの演出が求められる。そして、店内ディスプレイは、顧客の動線を考慮して視認性のよい陳列を心がける。また、定期的に陳列内容をリニューアルし、新鮮さをアピールすることも大事である。
- 店舗での売上は、立地条件に大きく左右される。立地条件の良い店舗は地代家賃が高く、利益を圧迫する。このため、立地に関係ない販売チャネルとしてネット通販は、積極的に考えるべきだろう。その場合は、単独での通販サイトの開設なのか、既存のモールへの出店なのか、メリットデメリットを考えて決定したい。
必要なスキル
- 少量でも取扱い可能な仕入ルートの確保やファッションセンスの良い服を数多く製造出荷しているセンスの良いメーカー、卸売業者とのコネクションづくりが必要である。どのメーカーがどのような服を作り、ファッションセンスの良い服を扱っている卸売業者はどこかといったことの把握のためにも、独立前に、一度アパレルショップで働き、業界の状況や商習慣などを把握しておくと、独立後の仕入ルート確保や実務に役立つだろう。
- ファッションの流行の変化は激しく、かつ、そのサイクルは年々短くなっていると言われている。ショップオーナーのセンスが売上を左右するため、常に、時代の動きやトレンドを読み取り、流行に素早く対応できるスピードと先見性を磨く努力が求められる。国内外のファッション雑誌の購読、あるいは、実際に海外へ視察に出かけるなどして情報収集をしておくことも重要である。例えば、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ロサンゼルス、バルセロナ、ローマなど、ファッションに敏感な人が多いといわれる街などである。
- 顧客に対しては、服装だけでなくアクセサリーやバッグ、靴などの小物もコーディネイトに付け加えると、より購買意欲を高め、売上高アップに貢献することができる。そのため、スタッフには、顧客を不快にさせない接客技術だけでなく、全身のファッションに対するトータル・コーディネイト能力も求められる。
- 購入者については、顧客名簿を作成・整備し、各顧客の状況(誕生日や好みなど)に則した案内状を作成・配送し、再来店に結び付けていく。販売促進は、メールマガジンとDMなど、いくつか組み合わせることで集客効果を上げることができる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
アパレルショップは、好立地であれば10坪程度の狭い店舗でも開業は可能である。好立地での出店の際は、地代家賃が高めになることにも留意しておく必要がある。以下は、繁華街好立地における店舗面積約20坪のアパレルショップの例である。
【参考】:店舗面積約20坪のアパレルショップ(セレクトショップ)を開業する場合の必要資金例
(2)損益モデル
■売上計画
店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。平日、土曜、日曜で来客予想数を変えるなど、細かく作りこむことが重要である。
(参考例)アパレルショップ(セレクトショップ)
■損益イメージ
(参考例)アパレルショップ(セレクトショップ)
- ※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)