業種別開業ガイド

衣服リフォーム・サービス

2024年 4月 5日

衣服リフォーム・サービスのイメージ01

トレンド

サステナブル(持続可能な)社会を実現するために、衣料リフォーム・サービス業は貢献できる業態だ。

環境省によると、持っている服を1年長く着るだけで、日本全体として約4万トン以上の廃棄量削減につながるという。国や自治体も環境への取り組みには力を入れており、ごみを減らすための行動「3R」は進化して、自治体によっては4R~7Rまで考えられるようになった。

例えば「7R」は、Reduce(リデュース:発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再生利用)の3Rに、Refuse(リフューズ:断る)、Reform(リフォーム:改善)、Repair(リペア:修理)、Rental(レンタル:借りる)を加えている。

下図は、国内衣類の供給から廃棄までの工程である。年間約73万トンの衣類が使用後に手放され、約65%は廃棄されている状況だ。

衣類のマテリアルフロー(2022年版)

「大量生産・大量消費・大量廃棄」の要因としては、ファストファッションの影響が大きい。1990年代から国内の衣服供給数は増加する一方で、衣服1枚当たりの価格は低下している。低価格で頻繁に品ぞろえが変わるため、消費者は短期間で衣服を買い替えるようになった。

「適量生産・適量購入・循環利用」という循環型モデルへ変えていく必要があり、世界中で廃棄物削減につながる取り組みが行われている。改めて注目されているのが、使えなくなったものに手を加え、愛着を持って長く使えるようにする修理・修繕だ。

人や環境に優しいものを選ぶエシカル(倫理的)志向が衣服にも浸透し、「エシカルファッション」「サーキュラー(循環型)ファッション」という言葉も生まれている。

消費者庁のデータでは、10~20歳代の若い世代はサステナビリティ(持続可能性)への意識が高い傾向にあることがわかる。しかし、SDGs(持続可能な開発目標)やエシカル消費に興味はあるが、どうやって参加して良いか分からず「現在取り組んでいない」と回答する人が多い。

SDGsやエシカル消費に関する興味や取組状況(年齢層別)

環境配慮に興味を持つ層が選びやすいサービスや仕組みを作ることが、今後の衣服リフォーム・サービスの事業拡大につながるだろう。

近年の衣服リフォーム・サービス事情

無駄な消費を避け、物を循環させる社会の意識は、ファッションリユース市場規模にも反映されている。民間の調査によると、ファッションリユース市場は拡大を続けており、2022年には2016年の2倍以上の9,900億円になると見込まれている。

ファッションリユース(中古)市場規模推移・予測

消費者庁の調査によれば、10代後半~20代の若者が「古着を購入する」「着なくなった衣服を家族や友人にあげたり、寄付したりしている」といった項目で、全体平均より高い割合となった。

また、10代・20代が衣服購入時に重視している点として「環境や人・社会に配慮した製法や素材を使っているか」「リサイクルやリメイクがしやすいか」の比率が、他の世代と比べ相対的に高いことが分かっている。別の民間調査では「自分らしさ」や「人と被らない」が上位にきており、「流行・トレンド」よりも自分に似合い、自分を表現できる服を選んでいることがうかがえる。

衣服を購入するときに重視する点

このような消費者の価値観の変化や、適量生産・適量購入・循環利用の仕組みを構築するために、企業は新たな取り組みに挑んでいる。

生産工程での環境配慮を行うとともに、廃棄させない商品の開発や仕組み作りに力を入れるようになった。再利用しやすい素材やデザイン、色落ちしにくい染色技術やほつれにくい縫製技術などの開発、衣服回収の仕組み作りやリサイクル技術の開発、付加価値を持たせた別製品に再生させるアップサイクル(*1)への取り組みや、リペア(修繕)サービスの拡充などを行っている。

国内大手のアパレル企業では、リメイクコーナーを併設した店舗をオープンし、着用済み商品の修理、既存商品の作り替え、不用商品の寄贈、新しい衣料材料への再生などを展開している。

別の企業では、自社ブランドのリユースショップを展開、店頭や催事で衣料品を回収し、自社ショップで再販売したり、別製品に再生させたりしている。

いくつかの企業がタイアップして、循環型ファッションの実現に向けたファッションコミュニティを作った例もある。国内外の有名ブランドから提供される衣服や雑貨、残布をリメイクし、付加価値を持たせた魅力ある製品に作り替える「アップサイクル」に取り組んでいる。

多くの業態でオンラインプラットフォームの普及が進んでいるが、衣料リフォーム・サービス業でも、お直し相談をオンラインで受け付ける店舗は増えている。ビデオ接客で実際のお直し箇所を確認しながら見積もりサービスを行ったり、宅配お直しサービスにも対応したりしている。

また、そのままでは買い手が付かない古着をリメイクして販売している衣料リフォーム・サービス店も出てきている。1点ものの価値を生み、環境とおしゃれを両立させたい消費者にとっては魅力ある商品となり得る。従来であれば廃棄する服であるため仕入代を抑えられ、廃棄を減らして環境に貢献できる循環型ビジネスとなっている。

(*1)アップサイクル:これまで廃棄する予定であったものに手を加え、新しい価値を付けて商品とする方法。「クリエイティブ・リユース(創造的再利用)」とも呼ばれる。

衣服リフォーム・サービスの仕事

衣料リフォーム・サービスの仕事は「商品受け渡し対応」「縫製業務」に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下のとおり。

(1) 商品受け渡し対応
お客様からリフォームする商品を預かり、どのようなリフォームを希望するのかなど聞き取りを行う。リフォームが終わりお渡しの際には、針やほつれが残っていないかなど検品を行う。リフォーム内容の説明も行う。

(2) 縫製業務
お客様の希望に沿って、リフォームを行う。多くの衣料リフォーム・サービス店では研修や技術指導の制度が整っており、未経験者でもゼロから技術を学ぶことができる。まずは簡単でニーズの多いパンツの裾上げなどから担当し、ミシンの扱いに慣れていく。

衣服リフォーム・サービスのイメージ02

衣服リフォーム・サービスの人気理由と課題

人気理由

  1. お客様から直接感謝の言葉を聞ける
  2. 裁縫技術を活かせる
  3. 衣料再生の一翼を担える

課題

  • 技術がいる仕事のため、人材不足に陥る可能性がある
  • 時代にあったサービス内容や価格設定の見直しが必要になる

少子化傾向にある日本では人手を確保するのは難しい。技術者を確保する方法として、シニアや海外からの人材確保を検討しても良いだろう。また今後のアパレル業界は、低価格志向と高級志向の二極化になる可能性がある。ターゲット定め、それぞれの層にあったサービス内容を考える必要がある。

開業のステップ

衣料リフォーム・サービスの開業のステップは、以下のとおり。

開業のステップ

衣料リフォーム・サービスの開業方法は、主に2パターンある。個人で0から開業するか、フランチャイズ契約を結び開業するかだ。すでに縫製技術があり、自由に店舗運営をしたいなら個人で始めるのが良いだろう。ただ縫製技術もなく、集客など開業後の店舗運営に不安があるならフランチャイズという選択もある。経営方針など一部制限はされるが、研修制度といったフォロー体制も万全のため起業初心者にはメリットが多いだろう。

衣服リフォーム・サービスに役立つ資格

衣料リフォーム・サービスを開業するにあたって必須の資格は特にないが、以下のような資格を持っていると実務能力の証明になるため役立つ。

○技能士(*2)
技能や知識を証明する国家資格で、服飾に関する資格には「婦人子供服製造技能士」「紳士服製造技能士」「布はく縫製技能士」「和裁技能士」などがある。実技試験だけでなく、学科試験や実務経験が必要なものもある。

○パターンメーキング技術検定(*3)
アパレル業界で職種を問わず必要とされる内容で、筆記と実技試験がある。3級から1級までスキルにあわせて検定を受けることができる。

(*2)技能士の詳しい情報は、こちら(中央職業能力開発協会)をご確認ください。

(*3)パターンメーキング技術検定の詳しい情報は、こちら(⽇本ファッション教育振興協会)をご確認ください。

開業資金と運転資金の例

開業するための必要な費用としては、以下のようなものがある。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内装工事費:電気工事、看板設置や内装工事など
  • 什器・備品費:ミシンやミシン台、付属品など
  • 広告宣伝費:SNS広告、近隣へのチラシ投函など
  • 商品仕入費:手芸キットなど

また、フランチャイズの場合には、別途加盟金や研修費がかかる。

以下、開業資金と運営資金を表にまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

衣料リフォーム・サービス業を行う上で重要なのが、リフォームを行う技術者だ。経験豊富な洋裁師を雇うとなると、ある程度の給料を提示しないといけない。

自治体によっては、ハローワークの求職者支援訓練コースに「洋服ファッションリフォーム科」というものがあり、例えば大阪のハローワークでは4カ月で13名の訓練を行う。

経験豊富な技術者ばかりを採用せず、一部の求人をハローワークで賄い、求人広告費や人件費コストを抑えるという方法もあるので検討してみよう。

もしくは衣料リフォーム・サービスを展開する大手企業が提供する、フランチャイズチェーンでのスタートも初期コストを抑えられる。

売上計画と損益イメージ

衣料リフォーム・サービスを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

サステナブルな意識の高まりとともに、良いものを長く大切に使いたいという人も増えている。消費者の価値観にあわせたサービスや価格を設定していく必要がある。

衣料リフォーム・サービスといっても、顧客の洋服の寸法を直すだけでなく、古着をリメイクして販売する方法もある。古着販売業など他業種とつながりを持ち、組織を強くしていくことも大切だ。

他業種と連携して新しいサービスを作り出せる可能性がある。人や社会や地球に貢献できる職業であることを自負し、技術を活かした事業を展開していきたい。

衣料リフォーム・サービスのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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