初心者層の取り込み
コミュニティの構築と運営の難しさ
開業のステップ
登山用品店を新しく開業するには、計画的な準備に加えて、ターゲット層を取り込むための施策が必要になる。以下に、開業までの主なステップをまとめた。規模や地域、コンセプトによっては追加で作業が必要になることもある。
STEP1:コンセプトとターゲットの明確化
どのような登山用品店を目指すのか、ターゲットとテーマ(例:スポーツ/レジャー、初心者向け/経験者向け、特定ブランドを強くプッシュする、など)を決める。
STEP2:市場調査と競合分析
店舗の立地やターゲット層に関する調査を行う。エリア内の同業他社の品揃えや価格帯などを分析し、販売戦略を立案。差別化のポイントを明確にする。
STEP3:事業計画書と資金計画の作成
開業資金と運営資金の計画を立案。事業計画書には、収支計画、運営方針、マーケティング戦略を詳細に記載する。資金調達の方法は、自己資金や銀行ローン、補助金・助成金を検討する。
STEP4:物件の確保と改修
物件選びには、新築、既存物件の改修、賃貸のいずれにもモデルケースが存在する。ターゲット層に合わせた立地条件を選び、内外装工事を進める。
STEP5:商品の仕入れ
開業に向けた商品の選定と仕入れを行う。登山用品は季節によって需要が異なるため、年間を通した在庫計画を考えることが重要。メーカーや卸売業者との交渉も進める。
STEP6:人材の採用と研修
接客の質は、売上に直結する。そのため、山岳ガイドや登山ガイドなどの資格を持つ人材を一人は確保したい。サービスの品質を高めるための教育やマニュアルを整備する。
STEP7:マーケティングと集客計画
ホームページの制作に加えて、販売開始前からSNSや広告を活用したプロモーションを行う。開業時のキャンペーンもこの段階で準備。
STEP8:開業届などの手続きや条例の確認
開業に伴う法人設立や個人事業主の登録、各種許可申請も並行して行う。近隣県も含めた登山安全条例・遭難防止条例などの確認も行う。
STEP9:オープン
宣伝を強化し、本格的な営業を開始。定期的に運営状況を見直し、顧客満足度向上を図る。
登山用品店に役立つ資格
登山用品店の開業・運営にあたっては、法律や条例で定められた必須の資格はないが、コンセプトによっては取得しておくことが望ましい資格や検定がある。一部を紹介する。
登山ガイド(ステージ1、2、3)
日本山岳ガイド協会が認定している6種類の資格のひとつ。登山ガイドの資格には3つのステージが用意されており、それぞれのステージでガイドできる範囲が異なる。本格的な登山ガイドになりたければ最低でもステージ2以上が望ましいが、登山用品店として信頼を獲得することが目的ならばステージ1でも良いだろう。
山岳ガイド(ステージⅠ、ステージⅡ)
日本山岳ガイド協会が認定している6種類の資格のひとつ。ステージⅠでは通年の国内山岳と縦走路のある岩稜コースを対象とする。岩壁登攀(とうはん)、雪稜バリエーション、積雪期の岩稜バリエーション、フリークライミングなどのインストラクター行為も可能になるのが、ステージⅡになる。
国際山岳ガイド
国際山岳ガイド連盟(IFMGA/UIAGM/IVBV)の認定資格。各国の山岳ガイド協会の国際的な連盟組織で、日本国内においては日本山岳ガイド協会がライセンスの認定を行っている。取得すると世界の山をガイドできるようになるため、憧れの資格と言えるだろう。難易度は非常に高い。
山の知識検定(ブロンズ、シルバー、ゴールド)
登山や山のことをどれだけ知っているか、知識を総合的に証明できる検定。標高などの一般的な知識だけではなく、マナーや山の植物についての問題が出題されるなど、出題範囲は非常に広い。
開業資金と運転資金の例
登山用品店の開業資金や運転資金は、立地、規模、コンセプト、グレード、ECサイトの有無などの条件によって大きく変動する。ここでは一例として、以下の条件の登山用品店を開業する場合の開業資金と運転資金の目安を見積もる。
〈地方中規模都市、土地・建物は賃貸(駅前ビルテナントのケースと郊外の駐車場付き賃貸物件のケースを想定)、中級から高級グレード製品がメインのセレクトショップ、それに伴う内装とディスプレイ、販売および事務とSNS発信を担当する常駐スタッフ1名にアルバイト数名を雇用、ECサイトはなし〉
開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)などが利用できる。銀行よりも有利な条件で借り入れができるため、まずは相談してみることをおすすめする。
また、各地方自治体が独自の融資制度を用意しているケースもあるため、都道府県庁や市区町村役場に確認してみるとよい。
売上計画と損益イメージ
前項「開業資金と運転資金の例」で取り上げた登山用品店の、1か月あたりの売上計画と損益イメージの一例を挙げる。追加する想定条件は以下の通り。
※仕入率:60%
月間の売上見込みから支出見込み(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
登山用品店の開業には資格が不要のため、独学で学び、「好き」を仕事にできるジャンルだ。店長のセンスや個性を活かし、セレクトショップとして開業するケースが多い。商品のセレクトはもちろん大切だが、「なぜ、その商品を選んだのか」という根拠を周知する工夫があればファンを増やしやすくなる。店員の解説、店内のポップ、ホームページやSNSを活用した発信など、見込み客にアプローチする手法はいくつもある。
最初のハードルは、仕入れ先の確保だろう。人気商品になるほどライバルが多く、新規参入者が好条件で仕入れることは困難だ。また、店舗を運営し始めて最初の数年は売れ行きの傾向が読めないため、最適な仕入れが難しい。できるだけ早く、自らの店舗の傾向を見抜く必要がある。
登山用品店は、リピート顧客を作りやすいことが大きな魅力。ファンとのつながりを深め、顧客の人生を豊かにできる職業のひとつと言えるだろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)