業種別開業ガイド
アウトドアショップ
2024年 1月 31日
トレンド
コロナ禍において感染リスクの低いレジャーとしてアウトドアが注目されたことをきっかけに、アウトドア業界全体が成長している。
大阪税関がまとめた資料によると、テントの輸入が2019年は24年ぶりに過去最高を記録、2020年は11,573トン(前年比112.7%)、129億7,200万円(前年比109.5%)でさらに過去最高を更新した。
アウトドアブームとしては、1990年代にオートキャンプブームがあった。企業が週休2日制を導入し、山道や雪道などの悪路に強い四輪駆動(4WD)が一般の乗用車に定着したことで、週末にキャンプに出掛けるレジャーが流行した。
1990年代後半にはブームも落ち着き、キャンプをする人は減少した。しかし、2010年代に新しい野外音楽フェスティバルが各地に登場し、若い世代を中心に再びキャンプに注目が集まった。SNSの普及で、おしゃれなキャンプ用品や料理などの情報が徐々に拡がったことや、アニメやテレビドラマ、YouTubeといったメディアにもキャンプが取り上げられ、2020年には幅広い層にアウトドアが浸透した。
一般社団法人日本オートキャンプ協会によると、1年間に国内でキャンプをした日本人一人当たりの回数は、5.4回、泊数は7.2泊で、過去最高となった。オートキャンプは特別なレジャーではなく、気が向いたときに出掛ける身近なレジャーになったと言える。
ここ数年のアウトドアアクティビティは多様化している。1人でゆっくり楽しむ「ソロキャンプ」や快適なコテージで過ごす「グランピング」、閑散期の冬に行う「冬キャンプ」、自宅の庭やベランダで楽しむ「おうちキャンプ」、都市公園を活用した「アウトドアフィットネス」、屋外でビジネスミーティングを行う「キャンピングオフィス」などさまざまだ。
また、余暇だけでなく、仕事をしながらキャンプを楽しむノマドワーカーもいる。コロナ禍を経て、日常にアウトドアを取り入れやすくなった。
デジタル化が進み、人々の自然回帰の意識が強まっていることが、アウトドア需要の根底にあると考えられる。アウトドア業界で開業するなら、こうした人々の意識の変化を捉え、常に新しい提案をしていくことが重要だ。
近年のアウトドアショップ事情
キャンプブームにより、アウトドア関連の衣料やキャンプ用品の販売が好調となっている。
民間調査によると、2021年度の国内アウトドア用品・施設・レンタル市場は前年度比9.6%増の262億1,000万円と推計、2022年度は同6.5%増とさらに拡大継続を見込んでいる。
2020年度はコロナ禍の外出制限や小売店休業により、アウトドアアパレル市場(全体の65%)が縮小し、業界全体に影響を及ぼした。しかし時間が経つにつれ、キャンプは三密を避けられる安心・安全なレジャーとして再注目され、キャンプ関連用品(アパレル・用具)の販売も回復基調に転じている。
アウトドア市場の活況により、他業種からの新規参入が相次いでいる。例えば、作業服専門店や家電量販店、ホームセンター、スポーツ用品店、メーカーなどが参入し、大きく業績を伸ばしている。逆に、アウトドアブランドが食品業界やインテリア業界に進出した例もある。
前述のようにアウトドアが余暇から日常に近づいていることもあり、汎用性の高いアイテムが人気だ。防水性や耐久性、虫よけ、防寒といった優れた機能性とデザイン性を合わせ持ったアパレル商品は、アウトドアだけでなく、普段着としても使え需要が伸びている。また、アウトドアでも家庭でも使える家電や、余熱で調理できる保温調理鍋など、各社商品開発に工夫を凝らしている。
これらは、アウトドア用品の収納場所問題の解決という要素もある。最近では、キャンプ道具の管理・レンタル・メンテナンスを代行するサービスも登場し、人気を集めている。
アウトドアショップでは、日常使いもできる汎用性の高い商品を揃え、収納問題を解決できる方法や手軽にアウトドアを楽しめる情報の提供など、顧客に寄り添った仕組みをいかに提案していくかがポイントになりそうだ。顧客の志向と各業界の動きに、常にアンテナを張っていたい。
アウトドアショップの仕事
アウトドアショップの仕事は主に「接客販売・商品管理」「セールやイベントの企画立案」「イベントサポート」に分けられる。それぞれの具体的な仕事内容は次のとおり。
(1) 接客販売・商品管理
- 商品が入荷されたら店頭に品出しし、来店した顧客の買い物をサポートする
- EコマースやSNSで商品を探す人も多いため、定期的に配信・更新を行うようにする
(2) セールやイベントの企画立案
- アウトドア用品メーカーからの新商品発売などに合わせて、商品入れ替えのためのセールを立案
- イベントを実施するアウトドアショップの場合、定期的なイベント開催をプランニングする
(3) イベントサポート
- 立案し承認されたイベントの実施
- 店頭での勧誘や現地への同行など、参加者が安全にイベントを楽しめるように準備やフォローを行う
アウトドアショップの人気理由と課題
人気理由
1. 好きなことを仕事にできる
- 好きなアウトドア用品に囲まれて仕事ができる
- 新商品の情報をいち早く手に入れられる
2. アウトドアを楽しむ仲間が増える
- 休日は同僚と共通の趣味であるアウトドアを楽しめる
- 経験していなかった別のアウトドアも挑戦できるきっかけができる
3. アウトドアの知識が深まる
- アウトドアに関する研修を社内で受けることができる
- イベント同行スタッフになる場合など、必要に応じてアウトドア関連の資格を取得できる可能性がある
課題
- アウトドアの種類が増えているため、スタッフのアウトドア知識をいかに底上げしていくか
- アウトドアに興味が薄い人に向けてアウトドアの魅力を発信する
- 安全で楽しいイベントの企画をする
- 顧客情報のデータベース化
開業のステップ
アウトドアショップの開業のステップは、以下のとおり。
アウトドアショップに役立つ資格
日本キャンプ協会が主催する「キャンプインストラクター」や「キャンプディレクター1級・2級」がある。まずキャンプインストラクターを取得し、それからディレクターへステップアップしていくとよい。キャンプインストラクターやキャンプディレクター1級・2級の詳しい情報は、こちら(公益社団法人日本キャンプ協会)を確認のこと。
キャンプに関する知識やリスクなどを身に付けられて、楽しく安全にキャンプを楽しめるようキャンパーをサポートすることができる。また公認指導者が行う事業で万が一重大な事故が生じた場合、日本キャンプ協会が指導者賠償責任保険から賠償にかかる費用を支払ってもらえる(支払いには一定の条件あり)。
資格を持つスタッフがいることで、ただアウトドア用品の販売やレンタルをするだけでなく、キャンププログラムの提案やサポートを行える。客単価アップだけでなく、アウトドア未経験者を囲い込むことができるので、自社の強みにもなる。
アウトドアショップで役立つ資格はほかにもある。より自然に近いキャンプを楽しむのに必要なノウハウを知ることができる「ブッシュクラフトアドバイザー資格」や、車で行くオートキャンプに特化した「公認オートキャンプインストラクター」なども、キャンプ未経験者や初心者へのアピールになるだろう。
開業資金と運転資金の例
開業するための必要な費用としては、以下のようなものがある。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内装工事費:電気工事、看板設置や内装工事など
- 什器・備品費:レジや棚、その他商品ディスプレイ用品など
- 広告宣伝費:SNS広告、近隣へのチラシ投函など
- 商品仕入費:アウトドアアパレルやアウトドア用品・用具など
以下、開業資金と運転資金の一例を表にまとめた(参考)。
各自治体には開業や起業、創業者を支援する「企業支援金」や「創業助成金」が設けられている。使える制度は自治体によって異なるため、開業する地域の各機関に問い合わせると良いだろう。
売上計画と損益イメージ
アウトドアショップを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
アウトドアアパレルやアウトドア用品の原価は、ブランドによっては仕入率が高くなり、商品の販売だけでは収益は心許ない。新規参入が相次ぎ競争が激化する中で事業を拡大させるためには、他社と差別化できる品揃えや販売方法などの戦略、仕組みを構築することが不可欠だ。
例えば、ライトアウトドアを楽しむ初心者を主なターゲットとして設定し、安価で気軽に買え、しかも普段使いもできて無駄にならないような品揃えにするのも方法だろう。実店舗では、実際に商品を試せたり、疑問や相談に寄り添って応えられる店員を配置するのも、信頼を得るために有効だ。WEB販売では、チャットで質問に答えるシステムを設けると良いだろう。
また、年に数回イベントを企画し、顧客の生の声を聞きながら今後の事業のヒントにするのも重要である。キャンプ用品を販売するだけでなく、キャンプ料理教室やマルシェなど体験型のイベントを実施している店舗や、中古品を専門販売するポップアップストアを設置する店舗も出てきている。いかに顧客との接点を生み、関係構築と維持を図るかが、事業成功の鍵を握る。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)