業種別開業ガイド
家具職人
2022年 3月25日
トレンド
(1)家具・装備品製造業の事業所数・個人事業主数は減少傾向
経済産業省の2020年工業統計表によれば、全国の家具・装備品製造業の事業所数は2019年時点で4,578件となっており、2014年の5,550件から17.5%減少。個人事業主においても664人と2014年の1,306人から半減している。これは職人の高齢化による廃業や景気低迷により安定志向の学生が増え、知名度のある大手家具メーカーへの人気が集中していることが要因として考えられる。また修業期間が長く、技術力を磨くのに時間の掛かる家具職に若者が挑戦しづらく、次の担い手が育ちにくい現状もあると考えられ、今後もこの傾向は継続するものと思料される。
また、一般社団法人日本家具産業振興会によれば、2018年時点での木製及び金属製家具製造業の製造品出荷額はそれぞれ8,097億円、5,351億円となっており、市場規模では木製家具の方が大きいが、個別にみると近年においては金属製家具の出荷額が増加傾向となっている。
そして家具業界に限らず、消費者がSNSなどでトレンドを把握し、必要なものをピンポイントで検索してECで購入するする流れはこのコロナ禍で更に加速し、今後もその傾向は顕著になっていくものと推測される。
つまり今後起業をする際には、ECを活用し、これまでの様に店舗を構えることなく、少ないインフラ投資や経費で済む方法もある為、既存の事業所よりも収益に対する優位性は高い。
(2)新設住宅着工戸数は減少するも住宅リフォーム市場は好調
国土交通省の「住宅着工統計」によれば、2019年の新設住宅着工の総戸数は88.4万戸であり、前年比8%の減少。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によれば2065年には日本の総人口は8,808万人とされており、人口減少に伴い今後も新設住宅の件数は低下していくことが見込まれる。
また矢野経済研究所調べによれば、2021年第1四半期(1~3月)の住宅リフォーム市場規模は1兆5,074億円(速報値)、前年同期比で12.4%増と推計。コロナ禍による巣ごもり需要の拡大やリモートワークの普及等により、住空間の改善に対する支出である「設備修繕・維持関連」が大きく伸びており、住宅リフォーム市場には追い風となっている。住宅リフォーム時には家具の入替も併せて行うケースも多く、内装のテイストに合ったオーダーメイド家具の需要増加も見込まれる。
(3)新生活様式の定着
コロナ禍による自宅時間の増加により、日常生活に快適性を求める傾向が強くなり、ワークチェアや寝具、インテリア雑貨等の購買意欲の向上につながった。また2020年5月以降全国民に配られた一人当たり10万円の定額給付金も消費者の購買意欲を後押ししたとみられる。
(4)ウッドショック
2021年に入り、世界的に木材価格が急騰している。これはコロナ禍において経済を支える為、莫大な規模の財政出動や低金利政策が取られた結果、アメリカや中国を中心に住宅バブルが起き、木材の奪い合いが起きたものと考えられている。
林野庁の発表によれば、2019年の日本国内の木材自給率は37.8%。木材需要の6割強を外材に頼っている日本への影響は大きく、国産材の高騰にもつながっている。
材料価格の高騰は、家具職人にとっても販売価格に直結するため影響が大きく、家具以外のインテリア販売で採算が取れる大手と比べると単純な価格面での競争は難しいことから、家具単体での利益確保には、より付加価値のある商品の提供が求められる。
例えば、最近需要が増えていると言われるのが「家具のリメイク」である。今持っている家具を「材料」として活用することで費用を抑え、新たなデザインに蘇らせる。職人としても必要以上に在庫を抱えない為、価格の安定化が図れ、技術力で勝負をすることが出来る。
ビジネスの特徴
家具デザイナーが設計した図面に基づき家具を製作するのが、家具職人の仕事である。
家具職人がデザイナーを兼務するケースも多く、家具のデザインから製作まで手掛けることで、顧客の要望に寄り添った商品が提供出来る。
現在大手では機械化による大量生産が進んでいるが、家具職人の場合、オーダーメイドにより全てを手作業で製作することが多い。
オーダーメイドで木製家具を作成する場合には、顧客とのやり取りを重ねながら図面を完成させ、一通りの作業工程を手作業でこなす必要がある為、高度な技術が求められ、制作にも時間を要する。
開業タイプ
家具製造の仕事には、主材料である木材の性質や刃物、機械、工具、塗料、接着剤、椅子張り布、工作法、家具の構造などについての知識が必要である。また、必要な技能としては、刃物の研磨と調整、加工段取り、機械工具の操作、傷の補修などがある。
また家具デザイナーの仕事では、モノを創造する為に必要な造形能力や形の美しさを見極める能力が求められ、それには既存の家具の知識やデザインの流行を理解し、取り入れていく必要がある。そして頭でイメージしたものが実際どの様に見えるかが非常に重要であり、スケッチやCG等の専門スキルを用い図面を仕上げていく。
これらの技術を習得するために、家具メーカーや工房での経験を積んだ後に独立開業というパターンが多い。
(1)個人事業主として開業
自宅を工房兼事務所として開業すれば、初期投資を削減できる。メーカー・工房勤務時代の元請企業や顧客からの受注を中心に営業。経営が軌道に乗れば、法人化も検討。
(2)法人として開業
同業の職人や技術者、インテリア設計士等と組んで、法人として開業する。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
a.開業届の提出
個人事業主として開業する場合は、開業届と青色申告承認申請書等を税務署に、個人事業開始申告書を都道府県県税事務所に提出する。
法人として開業する場合は、法務局へ法人登記申請を行う。また必要に応じて、健康保険・厚生年金関連は社会保険事務所、雇用保険関連は公共職業安定所、労災保険関連は労働基準監督署、税金に関するものは所轄税務署や税務事務所にて手続きを行う。併せて、消防署への防火管理者の届出も行う。
b. 木材加工用機械作業主任者の選任
労働災害を防止するため、木材加工用機械(丸のこ盤、帯のこ盤、かんな盤、面取り盤及びルーターに限るものとし、携帯用のものを除く)を5台以上(自動送材車式帯のこ盤が含まれている場合には、3台以上)有する事業場において行う作業については、「木材加工用機械作業主任者」を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他厚生労働省令で定める事項を行う必要がある。(労働安全衛生法第14条、同施行令第6条第6号)
大手メーカーとの差別化及びECサイトの導入
大量生産・低価格帯に強みを持つ大手メーカーとの差別化を図るためには、使いやすくデザイン性に優れた家具づくり、つまり職人としてのこだわりが大切な要素となる。また、今どのような家具が求められているかに目を光らせ、海外ブランドの情報収集を行い、加工法や質感・素材選びを探求するなど、顧客のニーズを的確に判断する力も求められる。
また、経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、令和2年の生活雑貨・家具・インテリア部門におけるBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、2.1兆円(前年1.7兆円、前年比22.3%増)に拡大。また、生活雑貨・家具・インテリアのEC化率は26.3%(前年比2.7%増)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展している。
実店舗を持たずに営業出来ることから、特に個人事業主として開業する場合は、UI(ユーザーインターフェイス)にも力を入れ積極的に活用していきたい。
必要なスキル
(1)技術力
家具製造の仕事を行う上で資格等は必ずしも必要ではないが、だからこそ大手メーカーとの差別化が重要となる。手先の器用さ、形態知覚が優れていることが望ましく、高級家具の分野では高いデザイン性やオリジナリティが求められる。機械では出来ない細かな作業など人の手によるところも多く、一つ一つの作業に熟練の技が要求される。
また技術力のアピール・人材育成の基準として、厚生労働省が定める技能検定の「家具製作技能士」があり、資格を取得すると技術の証明として評価される。
家具デザイナーについても特別な資格は必要ないが、2D・3Dデザインをする為のCAD利用技術者資格やデッサン技術を磨く為のパース検定等がある。また家具を空間デザインのひとつと捉え、オーダーメイドとして付加価値を高める為にはインテリアコーディネーターの資格があるとよりオリジナリティのあるデザインにすることが可能といえる。そしてインテリアとしてオシャレなだけでなく、機能性や使いやすさも考慮して設計する技術も重要となる。
これらの技術は一朝一夕で身につくものではなく、工房へ弟子入りし修行を積み、インテリアの専門学校や美術系の大学で専門知識を学び、家具デザイナーとしての創造力を培う為に知見を広げ、スキルを習得することが求められる。
(2)マーケティング力
商品のPRにおいてもブランディングの向上は必要であり、既製品にはない商品のオリジナリティを追求した演出(商品だけでなく、職人も一つのブランド)をすることで他のECサイトの差別化を図る。
マネジメントやマーケティングの知識を深める為には、プロダクトデザイン検定といった資格取得やWEBマーケティング・SEO対策等について学び集客力の確保に繋げていきたい。現在ではデジタルワークショップやアナリティクスアカデミーといった無料のオンライン講座も多数ある為、費用を抑えながらも初心者の方でも分かりやすく基礎を学ぶことができ、スキルの習得に励むことが出来る。
また営業の機会も多いことから、一般的なマナーやコミュニケーション能力、折衝力等も求められる。
開業資金と損益モデル
【20坪程度の工房にて開業する際の資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下のとおりとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
なお、売上原価には製造にかかわる人件費を含めている。
※標準財務比率は木製家具製造業(漆塗りを除く)に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
安定した受注基盤を築くことが重要であり、業績の蓄積と人脈作りにより継続的な受注を確保する必要がある。
家具の入替は頻繁ではなく大量生産は難しいことから、ECを活用した新規先の開拓、メンテナンス等アフターサービスの拡充によるリピーターの確保など、顧客との接点を増やし、顧客単価をいかに上げるかも大切な要素となる。
また業界動向やトレンド把握に努めるためにも、勉強会への参加や同業者間のネットワークを広げることも有効である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)