業種別開業ガイド
インテリアコーディネーター
2023年 6月 28日
トレンド
住まいの内装や照明、家具選びやレイアウトに関する専門的な知識を持ち、さらにデザイン的なセンスを発揮して、理想的なライフスタイルを提案するのがインテリアコーディネーターの仕事だ。「ニューノーマル」と呼ばれる時代に、日々変化し続ける私たちの日常生活にも対応した提案が、この職種には求められている。
ライフスタイルの変化
コロナ禍を経て、リモートワークや宅配サービスなどの便利で効率的な一面は定着した感がある。それと共に在宅時間が長くなり、より「くつろぎ」や「癒やし」が求められる傾向が強まった。バスルームやベッドルームのカラーコーディネート、階段下やロフトなどのすき間空間を活用した「パーソナルスペース」の提案も人気がある。ワーク・ライフ・バランスにあわせてフレキシブルに使い分けるスペース活用もアイデア次第だ。
商品ニーズの変化
「イケア」「ニトリ」「無印良品」といったコストパフォーマンスが高く、センスの良い商品を提供するブランドが依然として人気を集めている。これらの商品を限られたスペースに効果的に組み合わせて快適空間を作り上げるのが、コーディネーターの腕の見せ所だ。「ミニマリスト」や「断捨離」ブームの影響もあって、シンプルで機能的なレイアウトも好まれている。木材や綿素材といった天然素材や再生素材に対する意識も高まっており、エコロジーや循環型製品というキーワードも商品選びのポイントとして重視すべきだ。
デジタル化の浸透
IoTの実用化が急速に進み、スマート家電や操作のためのアプリケーションも種類が豊富になってきた。セキュリティ管理などの実用面と、人感センサーを使った室内調光や温度管理などによって、室内環境はより人体と一体化し、生活者の行動や心理にあわせて変化する空間が実現しつつある。インテリアコーディネーターは、工学的・心理学的側面からもアドバイスが求められる時代になりつつあるのだ。
郊外への転居と住居のリノベーション
リモートワークをきっかけに、都心の狭小住宅から郊外の一戸建てへと引っ越すケースが増えている。中古の住宅でも専門家にリノベーションを依頼することで、備え付けの調度品もそのまま活かして味わいのある住空間へとリフレッシュすることができる。緑の多い開放的な環境で、子育てと仕事が両立できるのも人気の理由だ。
近年のインテリアコーディネーター事情
経済産業省が発表する「住宅・リフォームに関連する現状及び社会環境の分析」によれば、住宅の新築着工数が2030年に向けて減少傾向なのに対して、住宅ストック(売りに出されている中古物件)数は年々増加傾向にあり、2030年には総住宅戸数6,000万戸の2割・1200万戸がストックとなる見込みとしている。
一方で、住宅の購入において消費者が新築にこだわる傾向は薄れ、中古物件でも周辺環境や広さを重視する志向に変化しつつある。ただし、省エネや耐震性の観点からみれば強化が必要で、高齢者のためのバリアフリー対応が必要など課題も多いのが実情だ。
このような状況に対して地方行政では、移住者やUターン者らへの空き家の紹介やリフォーム補助制度を行っているケースも多くみられる。また、空店舗や廃校になった校舎を活用して企業誘致を行ったり、インキュベーション施設としてスタートアップ向けに提供したりする事例も増えている。
そんな中で、リノベーションに関する専門家やインテリアコーディネーターの役割はますます重要度を増し、自治体が主導して人材育成に力を入れている事例もある。このような状況を踏まえると、地域社会に軸足を置いて、街作りや地域振興の枠組みの中でインテリアコーディネーターの職能を活かす、という発展性も考えられる。
インテリアコーディネーターの仕事
- 居住者の好みやライフスタイルを考慮して、部屋のレイアウトや色彩計画、家具やファブリックの選定・組合せ提案を行う。
- 業務内容には、顧客へのヒアリングとコンサルティング、デザイン案や図面の作成、家具などインテリアの調達、施工管理までが含まれる。見た目の印象だけでなく、生活動線を考慮した使い勝手の良さ、時間の経過や四季の変化に対する配慮、心理的な演出まで意識したコーディネートを提供する。
- 居住者の構成に応じて、高齢者向けのバリアフリー対応、乳幼児向けのインテリア選びやレイアウトなど、専門的な知識が求められる。最近では「猫好き」の家庭に特化したコーディネートがメディアでも採り上げられ話題となっている。
活躍の場は、リフォーム会社や建築設計事務所、住宅関連雑誌の編集部など、施工会社に所属したり、メディアを通してさまざまなアドバイスを行ったりと、多種多様だ。コーディネートのアドバイスや設計の支援を行う際には、クライアントの好みだけでなく、家族構成やライフスタイル、建築基準法・消防法・環境関連法などの法律、インターネット回線を含む各種配線、照明や設備といったさまざまなことを考慮する必要がある。
基本的には住宅・インテリアメーカーやアトリエ系(デザイン)設計事務所などでインテリアコーディネーターとして勤務した後、独立・開業するパターンが多い。トレンドや最新のアイテムについての知識、建築・設計・空間デザインに関する学問的な専門知識、パースやCGの技術を身につけ、センスやコミュニケーション力、ヒアリング力、プレゼンテーション力、交渉力も磨き続ける必要がある。
また、インテリアコーディネーターの仕事には、多様な分野が含まれる。何か自分の強みとなる得意分野を見つけておくとよい。
インテリアコーディネーターに求められる専門力
- 販売・コンサルティング
- 家具デザイン
- 施工・請負
- トータルコーディネート
- 照明プラン
- 設計・プランニング など
インテリアコーディネーター開業の人気理由と課題
人気理由
1. 自分のセンスや個性を活かして仕事ができる
- 素材や色彩・バランスなどの感覚を仕事に活かせる
- 商品選びや仕入れルート次第で個性を打ち出せる
2. 顧客とコミュニケーションをとりながら仕事ができる
- 顧客をライフスタイルやメンタル面からサポートできる
- 転居や転勤、就職・結婚など、顧客の晴れの舞台の演出に関わる事ができる
3. サステナブル社会の実現に貢献できる
- 中古住宅のリノベーションを通して建材・資材の再活用に貢献
- リサイクル素材や断熱材の使用を通して環境負荷低減に貢献
課題
- 個人営業の場合でも明確な契約に基づいた施工を行わないとトラブルにつながる
- 施工会社や設計会社とのコネクションがないと規模の大きな仕事につながらない
インテリアコーディネーター開業の4ステップ
基本的には住宅・インテリアメーカーやアトリエ系(デザイン)設計事務所などでインテリアコーディネーターとして勤務した後、独立・開業するパターンが多い。最近では、やはりホームページやブログ、SNSなどを活用した集客が拡大している。インテリア関連のコラムが投稿され、動画共有サービス『YouTube』ではインテリアコーディネーター志望者への情報発信や業務内容の説明、コーディネート事例や流行のテイストに関する紹介、アイテムの選び方など、多様なコンテンツが展開されている。
「ミニマリズム」や「エコロジー」、「中古住宅のリノベーション」「ネコと暮らす部屋」など、テーマを明確に打ち出したほうがファンは集まりやすい。
インテリアコーディネーターに役立つ資格
インテリアコーディネーターとして独立・開業するにあたり、必要な資格は特にない。ただし、資格をもっていれば質の高い提案をし、クライアントの信頼を得るのに役立つ。
代表的なものが冒頭に挙げた公益社団法人インテリア産業協会が資格認定する「インテリアコーディネーター資格試験」で、歴史・計画・インテリアエレメント(要素)・構造・構法・仕上げ・環境・設備・インテリアコーディネーションの表現・インテリア関連の法規・規格・制度に関する出題がなされる。
「インテリアコーディネーター資格試験」に合格したら、一般社団法人日本インテリアコーディネーター協会に入会するのもよいだろう。セミナー・イベント・交流会への参加、相談窓口の活用、文芸美術国民健康保険組合への加入、賛助会員・特約企業からの特典・優待サービスの活用、特約企業との取引・口座の開設、ホームページ制作支援サービスの活用などが可能となる。
また、公益財団法人建築技術教育普及センターが資格認定する「インテリアプランナー」では、建築物の構造や設備との関係、安全性、快適性、環境等に配慮したインテリア空間の計画・設計、インテリアエレメントのコーディネート、リフォーム、維持・管理に関する知識や技能が問われる。ただし、こちらは登録者の80%が建築士となっているのだ。
もちろん国家資格である建築士のほか、文部科学省後援の「色彩検定」、「インテリア設計士 資格検定試験」など、各種の資格がある。
インテリアコーディネーターの収入イメージ
インテリアコーディネーターとして独立開業した場合の年収イメージだが、住宅メーカーやインテリア販売店・施工会社などと契約をして毎月一定数の案件をこなす場合、400万から600万の売上が見込める。また最近では、動画共有サイトやSNSなどを通してファンを獲得し、Webメディアやインテリア雑誌などで活躍するインフルエンサーもおり、そうした活動もあわせれば年収1,000万を越える収入も実現可能だ。
まず自宅で、自身の思い描くコーディネートをかたちにして、オンラインで紹介したり知り合いを招いて、オリジナルのセンスを披露しよう。気に入ってもらえたら、友人の自宅もコーディネートしたり、美容室やカフェを営業する知り合いがいればインテリア選びを手伝わせてもらってもよいだろう。評判がよければ、口コミで依頼が集まるようになるし、インテリアやリノベーションの専門誌では常にそうしたモデルケースを探しているので、採用されて注目を集めれば、さらに多くのファンを獲得することが出来るだろう。
※売上イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)