業種別開業ガイド

スポーツクライミング(ボルダリング)ジム

2024年 2月 28日

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムのイメージ01

トレンド

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)では、新たな種目としてスケートボード、サーフィン、スポーツクライミング、バスケットボール3人制、自転車のBMXフリースタイルが採用された。これらは「アーバン(都市型)スポーツ」と呼ばれ、若者に人気のスポーツだ。

アーバンスポーツは「ストリートスポーツ」や、極限のパフォーマンスを演じる「エクストリームスポーツ」とも呼ばれ、従来の体育の枠組みに縛られない遊びの要素を取り入れたアクティビティだ。スポーツの側面を越えた都会的文化要素が強く、音楽やファッション、アート、フード、ICT(情報通信技術)などが融合し、若者を中心に広がりを見せている。スポーツ産業を支える新たな分野として期待が高まっている。

日本では2015年にスポーツ庁が設立され、スポーツを成長産業として「日本再興戦略 2016」に組み込み、2025年の市場規模を約15兆円まで拡大させる目標を掲げた。

我が国スポーツ市場規模の拡大について(試算)

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う影響はあったものの、中長期的なスポーツ産業の市場規模は拡大傾向にあるため、2022年に文部科学大臣が策定した「第3期スポーツ基本計画」においても当初の目標を維持している。

スポーツ庁は「スポーツの成長産業化」(2022年)において、スポーツ市場規模を拡大するために、今後伸びる見込みのある分野を見定めて、重点政策として反映していく方針を表明している。

中でもアーバンスポーツは、事業としてさまざまな可能性が広がっている。アーバンスポーツは若者や子どもを引き寄せることもあり、競技者や観戦者のツーリズムを生み出す可能性がある。アーバンスポーツ単体での発展ではなく、「見る・行く・来る・見せる」の4要素を上手く循環させていくことで、全国都市の観光特性と結び付いたツーリズムとして展開したい意向だ。

東京2020大会の跡地には、アーバンスポーツや多種多様なスポーツを誰もが楽しめるよう整備が進んでいる。スポーツを起点に新たな事業の創出が期待できる。

そんなアーバンスポーツのひとつであるスポーツクライミングは、「リード・スピード・ボルダリング」の3種から成り立っている競技だ。6分の制限時間で12メートル以上ある壁をどこまで登れたかを競う「リード」、高さ15メートル、前傾斜95度の壁を一番早く登り切った人が勝者になる「スピード」、そして、制限時間内に4メートルの壁に取り付けられたホールドを使って、どれだけのコースを登れたかを競う種目が「ボルダリング」だ。

公益社団法⼈ ⽇本⼭岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)の「中・⻑期経営計画(中期編)2021年〜2025年」によると、日本国内のスポーツクライミング愛好者は約279万人にのぼり、全国に約800店舗ものクライミング・ジム(営業施設)が展開されていると言う。スポーツクライミングの中でもボルダリングは初心者でも挑戦しやすいことから、昨今、商業施設などを中心によく見かけるようになった。屋内なら天候や季節にかかわらず楽しめ、1回1,000円~2,000円ほどで体験できることが多く人気が高まっている。

近年のスポーツクライミング(ボルダリング)ジム事情

東京2020大会でアーバンスポーツが採用された背景には、国際オリンピック委員会(IOC)が若者のオリンピック離れに危機感を抱いたためと言われている。

日本においても、子ども達が興味のあるスポーツに接する機会が減っている状況だ。少子化が進む中、スポーツ少年団や部活動では人数が集まらず、これまでのような活動が維持できなくなったところもあると言う。

スポーツ少年団数・スポーツ少年団登録団員数の推移
運動部活動参加率

若者のスポーツ離れはスポーツ産業の衰退につながる恐れがあるとして、スポーツ庁と文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定、公表した。部活動の地域連携・地域移行を目指し、2023年度からの3年間を改革推進期間としている。

部活動の複数種目制やシーズン制、アーバンスポーツの取り入れ、レクリエーション志向の活動、ICT(情報通信技術)の活用など、子どもたちがスポーツに触れられる機会の創出を促す。

そのような中、ボルダリングは子どもの習い事としても注目されている。期待できる効果は、バランス感覚、チャレンジ精神、集中力、考える力、判断力などだ。難題や難関をクリアする過程で鍛えられる柔軟な思考力、創造性、協調性も身につく。全国のボルダリング施設では、子ども向けの体験教室やクラスを設けて参加を促している。

また、ボルダリングとAR(拡張現実)を組み合わせたアミューズメント施設が続々とオープンしている。フィンランド発のARボルダリングは、プログラミングされた映像を壁に映し出し、ゲーム感覚でボルダリングを楽しむというものだ。映像と現実空間が融合したARボルタリング施設では、新感覚のクライミングゲームが楽しめると人気を呼んでいる。

他には、ボルダリングと街コンを掛け合わせたボルダリングコンも登場した。ボルダリングに興味がある男女が集まり、ボルダリングの体験を通して交流を深めるというものだ。

アーバンスポーツはビジネスとの相性が良く、事業として発展の可能性が高い。ボルダリングもこのようにアトラクションや出会いのきっかけとして楽しむなど、事業発展しやすい業種と言えるだろう。

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムの仕事

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムの仕事は、主に「接客・受付」「インストラクター」「施設運営」に分けられる。

(1) 接客・受付

電話対応や施設へ来店した人への対応が主な仕事になる。初心者も多いため、ケガや事故がないように注意事項などを丁寧に分かりやすく伝える必要がある。

(2) インストラクター

多くの施設では体験クラスや子ども向けのボルダリング教室を設けている。専門知識を持ったインストラクターは、利用者のレベルに合わせて指導を行う。

(3) 施設運営

施設の清掃やホールドのメンテナンスなどを行う。ボルダリングは滑り止めにチョークを利用するため、ホールドやマットにチョーク粉が付着する。定期的に取り外し、汚れを取る必要がある。また集客のためのSNS発信やイベントの開催立案なども重要な業務だ。

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムのイメージ02

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムの人気理由と課題

人気理由

  1. ボルダリングやクライミングの経験を仕事に活かせる
  2. 年代や性別に合わせてコミュニケーション能力を発揮できる
  3. 同じ趣味の仲間が作れる

課題

  1. 経営的な観点で物事を見られるスキル
  2. 競合との差別化、集客
  3. 安全の徹底
  4. スタッフの育成
  5. 顧客管理

開業のステップ

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムの開業のステップは、以下のとおり。

ビルや商業施設内で開業する場合、ビル内部の耐床荷重を確認する必要がある。着地や落下時の騒音に対しての確認も怠らないようにしたい。

開業のステップ

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムに役立つ資格

クライミングに関する資格には、フリークライミング・インストラクター資格(*1)がある。中でもインドアクライミング・インストラクターは、国内にある人工壁でのボルダリングを有償で指導できる能力があると認められた資格だ。屋内のみに限られているが、その分低コストで取得しやすい。書類審査後、実技適性試験などいくつかのステップを経て、約5日間(総日数)で取得できる。

(*1)フリークライミング・インストラクター資格の詳しい情報は、こちら(公益社団法人 日本山岳ガイド協会)をご確認ください。

利用者をけがのリスクから守り安心安全に利用してもらうためにも、ボルタリング施設を運営するならインストラクターの資格は持っておきたい。

民間機関による調査では、「スポーツを実施する場所を選定する上で重視すること」として、ボルダリングは「専門トレーナー・インストラクターがいること」が1位にきている。スポーツクライミング施設を運営するにあたって、専門のトレーナーやインストラクターがいることが利用者から選ばれる重要なポイントとなる。

開業資金と運転資金の例

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムを開業するには、まずは施設探しが重要になる。騒音問題や衝撃、そして何よりウォールに必要な高さが必要だ。中級者程度まで対応できるように5mの高さは欲しい。おすすめは倉庫だ。テナントに入るという方法もあるが、今回は倉庫で開業するシチュエーションで算出した。

開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内装工事費:ウォール設置や防音工事など
  • 什器備品費:マットやレンタルシューズ、チョークなど
  • 広告宣伝費:SNS広告や近隣に配布するチラシなど
  • 商品仕入費:商品販売も行うなら必要

以下、開業資金と運転資金を表にまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムは、開業時に多額の費用がかかる。開業後は「クライミングウォール」「ホールドリセット」「ルートセット」などの基本メンテナンスが半年~1年に1回程度必要だ。国や自治体で開業支援などを行っているため、上手に活用したい。

売上計画と損益イメージ

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

※別途、登録料やイベント収入を得られる可能性あり。

クライミングジムの運営にかかる費用は、主に固定費である。利用者が増えるとホールドやマットの劣化も進み交換頻度も増えるが、飲食店のように変動費が大きく左右するビジネスではない。そのため、固定費をうまく抑え、集客を図るマーケティング戦略がポイントとなってくる。

固定客を飽きさせないためには、定期的なルートセットやイベントの開催なども必要だ。また、ボルダリング初心者にも興味を持ってもらう工夫が求められる。

さらに固定収入として会員制度を導入し、月額収入を得られるようにするのも良いだろう。

開業時の初期費用や固定費がかかる業種だが、どれだけ集客しても変動費に影響がない分、いかに多く集客できるかが鍵となる。

スポーツクライミング(ボルダリング)ジムのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)