業種別開業ガイド
スーパー銭湯
2024年 3月 29日
トレンド
スーパー銭湯とは、一般的な銭湯と健康ランドとの中間規模の公衆浴場のことを言い、厚生労働省の「公衆浴場法概要」では「その他の公衆浴場」に分類される。
スーパー銭湯は、ジャグジー、サウナ、露天風呂、岩風呂といった入浴施設の他に、マッサージ、理髪店、レストラン、フィットネス施設などが併設され、アミューズメント感覚で楽しめる。多くは駐車場完備で気軽に車で来店でき、自宅では味わえない入浴施設を低料金で楽しめるため、ファミリー層や若い世代を中心に人気が高い。
近年では、書籍やマンガ、ドラマの影響もあり、全国的なサウナブームが続いている。スーパー銭湯にもサウナの設置が増えてきた。
民間調査会社による銭湯・スパに関する意識調査によると、男性の48.4%がサウナを「入浴施設で利用する(利用したい)サービス」であると回答している。特に、男性の30~50代と70代以上の利用が多くなっている。一方女性は、70代以上を除いた全ての年代で「岩盤浴」が人気という結果となった。
また、コロナ禍を経てリモートワークが一般化してきたこともあり、特に都市部のスーパー銭湯においては、コワーキングスペースを設置した施設の人気が高まっている。疲れを癒す目的だけでなく、「ストレスフリーな環境で仕事をする」という新しい施設利用のスタイルも加わった。リモートワークとサウナを掛け合わせた「サウナワーク」や「サウナワーケーション」といった言葉も誕生している。
近年のスーパー銭湯事情
温泉施設業界は、コロナ禍の影響により大打撃を受けた。民間の調査によると、2020年のリラクゼーション・温浴ビジネスの市場規模は、前年比73.0%の2,759億円となった。市場の構成比は、リラクゼーション市場33.7%(929億円)、温浴施設市場66.3%(1,830億円)。しかしながら、行動規制が解除された2021年以降は、売り上げも回復傾向だ。
さらに施設数に注目すると、厚生労働省のデータでは「一般公衆浴場」に分類される銭湯は、2020年から2021年にかけて3.4%減っている。それに対して、スーパー銭湯を含む「その他の公衆浴場」の減少は0.3%に留まっており、減少率が少ないことが分かる。
スーパー銭湯は安定経営が望めるとして、他業種からの参入も多い。宿泊施設や宴会場などの設備投資は不要で、自動発券機や温度管理システムを導入すれば人件費を抑えることができる。また、一般的な銭湯とは異なり、物価統制令の制約を受けずに自由に料金設定ができるのも経営上の強みだ。さらに近年の健康志向の高まりもあり、温浴事業を営む環境は追い風と言える。
競争が激化する中で、いかに独自性を出していくかが重要になってくる。近年では、前述のコワーキングスペース付き銭湯の他に、お洒落なカフェが融合した温浴施設、深夜滞在できる都市型スパ、アニメとのコラボイベント温泉、観光帰りの客を取り込む駅前温泉施設なども登場した。また、癒しの空間となるようプロジェクションマッピングで光の演出をしたり、ラウンジに数万冊のコミックを取り揃えたりと、各社工夫を凝らしたサービスを展開している。
一方、円安や世界情勢の影響を受けて、ガス・重油・電気などのエネルギーコストが高騰している。経済産業省のデータを見ると、LPガスの価格はコロナ禍の最低価格と比較して約1割の上昇となっていることが分かる。定期的なイベント開催や、入館料の改定・シーズン料金の設置など、集客と収益アップの施策を打ち出す必要があるだろう。
スーパー銭湯の仕事
スーパー銭湯の仕事は、「フロント」「アメニティ」「キッチン」「ホール」「運営管理」に分類できる。具体的な仕事内容は以下のとおり。
- フロント:受付、会計、案内など
- アメニティ:浴場・脱衣場の清掃、浴場の温度管理や水質チェックなど
- キッチン:飲食スペースにおける調理、片付け、清掃など
- ホール:飲食スペースにおける接客(案内、注文、料理提供、会計など)
- 運営管理:シフト管理、イベントの企画・運営、経理など
スーパー銭湯の人気理由と課題
人気理由
- 土地と資金が確保できれば、異業種からでも参入がしやすい
- 入浴料金を自由に設定できるため、経営戦略を立てやすい
- 設備導入や経営設定によっては比較的少人数で運営が可能
課題
- 初期投資が大きく、回収までに時間がかかる
- 立地に大きく左右されるため、条件が整わないと開業が難しい
開業のステップ
スーパー銭湯の開業には、「個人事業主として開業」「法人設立」という方法がある。それぞれの開業ステップを、以下の表にまとめた。
スーパー銭湯に役立つ資格
スーパー銭湯を開業するためには、以下の許可や資格が必要になる。
(1) 公衆浴場営業許可(必須)
スーパー銭湯を含む公衆浴場を開設する場合には、保健所に公衆浴場営業許可を申請して許可を受けなければならない。設置場所の基準や、施設の構造基準などを満たす必要があるため、事前に保健所に相談の上、添付書類を準備する。
(2) 防火管理者(必須)
収容人が50人以上であるスーパー銭湯には、防火管理者を選任しなければならない。施設が500m²以上の場合には甲種防火管理者、500m²未満の場合には乙種防火管理者を選任する。防火管理講習を受けて、修了試験(効果測定)に合格すれば取得できる。
(3) 食品衛生責任者(飲食スペース設置の場合は必須)
飲食スペースを設ける場合には、食品衛生責任者を設置しなければならない。食品衛生責任者になることができるのは、調理師、栄養士、製菓衛生師の資格を持つ者だ。資格者がいない場合は、食品衛生責任者資格者養成講習会を受講する。
(4) 飲食店営業許可(飲食スペース設置の場合は必須)
飲食スペースを設ける場合には、飲食店営業許可の取得が必要となる。店舗の規模や形態により必要書類が異なるため、事前に保健所に相談の上、申請する。
以下の2つの資格は、必須ではないものの、近年のサウナブームの中では有益な資格になるだろう。
(5) サウナ・スパ健康アドバイザー(*1)
サウナ・スパ健康アドバイザーは、公益社団法人日本サウナ・スパ協会による認定資格である。サウナやスパに関する正しい知識を身につけ、顧客へのサービス向上を目指して設立された。受講料5,000円を支払い、通信教育を受けると取得できる。
(6) サウナ・スパプロフェッショナル(*2)
サウナ・スパプロフェッショナルは、公益社団法人日本サウナ・スパ協会による認定資格である。サウナ・スパ健康アドバイザー資格者のみ受験できるものであり、サウナ・スパ施設の適切な管理を目的として、専門的な知識を習得する。受講料15,000円を支払い、通信教育を受けると取得できる。
(*1)サウナ・スパ健康アドバイザーの詳しい情報は、こちら(日本サウナ・スパ協会)をご確認ください。
(*2)サウナ・スパプロフェッショナルの詳しい情報は、こちら(日本サウナ・スパ協会)をご確認ください。
開業資金と運転資金の例
スーパー銭湯開業にあたっては、次のような費用が必要である。
- 物件取得費:土地取得、施設建設など
- 内外装工事費:内外装、看板など
- 什器備品費:券売機、イス、アメニティ、リネンなど
- 広告宣伝費:ホームページ制作費、チラシ制作費など
- 求人費:求人媒体の利用費など
開業資金と運転資金の例として、以下の表にまとめた(参考)。なお、個人事業主・法人に関わらず従業員の雇用は必要であるため、開業・運転資金は同様である。
なお、初期投資額を4億円として、5年間で回収するために毎月700万円ずつ減価償却していく想定を踏まえている。
スーパー銭湯開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)が利用できる。銀行よりも有利な条件で借り入れができるため、まずは相談してみることをおすすめする。
売上計画と損益イメージ
スーパー銭湯を開業した場合の1年間の売上のシミュレーションは、以下のとおりである。
- 入浴料:800円
- 平均客単価:1,200円(軽食コーナー、入浴セットなどを利用)
- 1日の利用者数:1,000人
- 日商:約120万円
- 月商:約3,600万円(月間営業日数/30日)
- 年商:約4億3,200万円
次に、損益イメージを算出してみよう。
年間支出:約1億7,760万円(人件費160万円、施設減価償却費700万円、水道光熱費・諸経費600万円、広告宣伝費20万円の合計1,480万円×12カ月)
初年度売上高:約4億3,200万円
売上総利益:約2億5,440万円
となる。ただし、この中から施設の修繕費をプールしておかなければならない。また、ある程度リピーターが確保できた場合に見込める売上であるため、オープン当初から達成できるとは限らないことにも注意したい。
深夜営業が可能で来店確率の高い地域での開業が、まずは需要なポイントになる。来店者数を増やすためには、定期的なイベントの開催、サービスデイの設定、コワーキングスペースやサウナといったオリジナリティのある設備、特色ある高品質の飲食店など、複数にわたる工夫が効果的だ。
さらに客単価を上げるために、付帯設備の利用を別料金として設定したり、魅力ある飲み物やグッズを販売したりするのも戦略のひとつだろう。話題性のあるものはSNSで拡散される可能性が高く、集客に直結しやすい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)