業種別開業ガイド

ハウススタジオ

トレンド

(1)遊休住宅活用策としてのハウススタジオ

日本の世帯数全体は人口減少の影響を受け、2025年の4,999万世帯をピークに減少に転じることが予想されている。このうち、2人以上世帯数は2020年の3,025万世帯をピークに減少に転じ、その後、減り続けていくことが予想されている。その結果、住宅(特に核家族向けマンションや戸建住宅)の供給が過剰となり、空き家の増加が社会問題として懸念されている。この状況を背景に、遊休資産の有効活用策として、ハウススタジオ事業を始める人が増えている。

(2)多様なニーズに対応できるハウススタジオ

ハウススタジオとは、写真撮影や映像制作などのために、撮影用住宅を貸し出す事業である。大規模な撮影スタジオは昭和の映画全盛時代から、大船撮影所や太秦撮影所などにあったが、ニーズの多様化やコスト削減を目的に、小規模な貸しスタジオの需要が増えてきた。特に洋風・和風を問わず、センスの良い建物の内観・外観は、多くの制作者に好まれ、ドラマ、CM、写真撮影、アーティストのプロモーションビデオなどに利用されている。

ハウススタジオの特徴

  • ハウススタジオは、住宅を撮影スタジオとして貸し出す事業である。住宅の形態は、撮影のための多くの機材やスタッフなどが収容できる余裕があり、近隣住民からの苦情やトラブルも防ぎやすい戸建て住宅が多い。
  • ハウススタジオ内には、家具や調度品、日用雑貨など、住宅のイメージにあったものなどが備品として備わっているところも多い。また、機材(ストロボ照明スタンド、カラーライト、反射板、バック用壁紙など)が備え付けられているところもある。
  • ハウススタジオは、一般的な日常生活の雰囲気を打ち出しているスタジオ(住宅街の戸建住宅)から、非日常な雰囲気を打ち出しているスタジオ(洋館、郊外のペンションなど)まで多岐にわたる。利用者は撮影内容に応じて、特徴あるハウススタジオを使い分けている。

ハウススタジオ業態 開業タイプ

ハウススタジオとしての開業は、スタジオの建物の所有形態により2つのパターンに分けることができる。

(1)自己所有物件を改造・改築するタイプ

自社または経営者などが所有する物件をハウススタジオに改造・改築して開業するタイプである。住宅の内観、構造、外観を自らの望むような理想的な形に自由にアレンジできるメリットがある。一方、住宅のメンテナンスや固定資産税支払いなどの義務を負うことになる。

(2)賃貸物件を流用するタイプ

ほかの所有者から物件をハウススタジオ用に賃借し、それをハウススタジオ事業に転用するタイプである。住宅の日々の清掃や簡易な補修は借主が行うが、通常の補修や塗装などのメンテナンスは所有者がやってくれる。また、壁紙の張替えなど大掛かりな部屋の模様替えに際しては、所有者の理解を得なければならない。特に古い建造物の場合、全フロア禁煙、ガムテープ使用の禁止など、細かな条件が付くこともある。

開業ステップと手続き

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。

(2)必要な手続き

住宅をハウススタジオとして使用するには、建築基準法に則って、原則、用途変更の確認申請を行わなければならない。
また、消防法の適用も受けるため、火災報知器の設置や消火器の設置、災害時の待避ルートの確保なども必要となる。具体的な手続きは所轄消防署の予防課などへ問い合わせるとよい。

サービスメニュー作り

  • ハウススタジオに必要なのは、外観と室内の見栄えや美しさ、使いやすさであろう。ハウススタジオを利用する人たちの利用目的を鑑みれば、やはり、見た目の美しさ、そして調度品のセンスにもこだわりたい。ほかに、立地の良さ、地方であれば交通の便のよさ、駐車場スペースがあることも重要なポイントとなる。
  • 一戸建て住宅であれば、部屋ごとに家具などを配置して、さまざまな日常生活の場面を撮影できるようにするなど、利便性にも配慮したい。
  • 撮影用機材の持ち込みと設置ができるスペース、自由なカメラワークを可能にする広い室内スペースも必要である。このほか、住宅全体に防音機能を取り付けることができれば、楽器演奏の用途にも対応できる。
  • 物件のメンテナンスにおいては、年1回は専門の清掃・害虫駆除業者に依頼して、内外装の本格的なクリーニングを入れるとよいだろう。それ以外でも定期的にこまめな掃除を行うことで、クリーンな印象を保ちたい。
  • 回転率を上げるための工夫も必要である。日単位ではなく時間単位での貸し出しにし、空き時間を減らす工夫なども行いたい。また、一度利用した顧客に対しては、メールなどで空き室状況やキャンペーンのお知らせを送るなど、リピーター化の取り組みも重要である。

必要なスキル

  • 利用者は、テレビ局、制作プロダクション会社、レコード会社、広告代理店、フリーカメラマンなどが多い。また、最近では、YouTuberが撮影に使用するケースや、個人が結婚の記念として、ウェディング撮影のために利用するケースなどもある。ハウススタジオの主な営業先としては、上記の機関の広報や制作担当者などが有望である。また、ウェディング撮影の受注を得るには、地元の結婚式場に営業をかけるのもよいだろう。
  • 営業に際しては、担当者にDMなどを送った後で、アポイントを取って直接訪問し、ハウススタジオの詳細を説明する。自社ホームページは必ず作成し、ハウススタジオ情報の比較サイトにも登録する。そのほか、利用顧客への割引やキャンペーン情報の提供などの努力も行うべきである。
  • 利用者が皆、写真撮影や動画撮影に精通しているとは限らない。利用者に対応する社員自らも、撮影に関する最低限の知識や技術をもつようにし、利用者からの各種要求や問い合わせに対しては的確に応えることができるようにしておくと、他のハウススタジオとの差別化要因にもなり得る。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

開業時には、物件取得費のほか、家具や調度品、日用雑貨などの調達も必要である。
以下は、30坪の物件を借りてハウススタジオを開業する場合の例である。

【参考】:ハウススタジオ(30坪)を開業する場合の必要資金例

(2)損益モデル

■売上計画
自身の技能や活動範囲の特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。

(参考例)ハウススタジオ(30坪)

■損益イメージ
(参考例)ハウススタジオ(30坪)

  • 開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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