商品開発・販路開拓
標準化(JIS、ISO等)活用支援制度
2025年 3月 14日
標準化(JIS、ISO等)活用支援制度とは、中小企業が標準化によって、新たな市場の開拓等を目指している場合に、日本規格協会(JSA)やパートナー機関が支援する制度です。新市場創造型標準化制度と標準化活用支援パートナーシップ制度が主な柱です。
注1)JIS(Japanese Industrial Standards)……産業標準化法に基づいて制定される日本の国家規格。日本産業規格
注2)ISO(International Organization for Standardization)……国際標準化機構という団体のことで、この団体が全世界で統一された規格を制定している。
標準化とは
標準化とは、製品の品質等の標準を作ることです。市場に製品がたくさん出回っており、既にJIS、ISO等の基準が存在している場合に、メーカーが新たに製品を投入するには、JIS、ISO等の基準に合わせて作らないと売れません。基準を満たさない製品は粗悪品と判断されてしまうためです。
一方、JIS、ISO等の基準がない新製品は、基準を考慮する必要がないため、各メーカーが自由に開発できます。しかし、ユーザー側は製品を選ぶ基準がないため、購入時に迷ってしまいます。また、メーカーも基準を根拠に優良品であるという説明ができないため、売りづらいという問題があります。
このような場合に、標準化が検討されます。

つまり、メーカー自身が製品の品質等の標準を作ることで、この標準をクリアしていることをアピールし、ユーザーに選んでもらうわけです。
標準化による売上向上、市場拡大例
標準化を行った場合に得られる効果を解説します。
(1)粗悪品の排除
例えば、市場に低品質の製品が数多く出回っており、その製品の基準(JIS)がない場合です。自社で高品質の製品を開発しても、低品質の製品に埋もれてしまい、ユーザーに選んでもらえないという問題が生じます。
このような場合は、基準(JIS)を導入し適切な製品を選べる基準と評価方法を設定することで、粗悪品を排除することができます。同時に、自社の製品が基準(JIS)をクリアしていることをアピールし、売上向上、市場拡大につなげられるわけです。
(2)技術優位性のPR
例えば、自社で高品質の製品を開発しても、その品質を客観的に示す基準(JIS)が存在しないために、ユーザーにアピールしづらい場合です。
このような場合は、基準(JIS)を導入することで、自社製品がユーザーの求める性能を保有していることをアピールしやすくして、売上向上、市場拡大を図ることができます。
(3)新たな価値の提案
例えば、自社で新たな技術やコンセプトの製品を開発した場合です。こうした製品は基準(JIS)が存在しないため、ユーザーは購入に二の足を踏みます。
そこで、新たな技術やコンセプトを評価するための基準(JIS)を作ることで、ユーザーに安心して選んでもらえるようにします。
(4)性能の客観的証明
例えば、自社で開発した測定機器等により計測して得られるデータの評価方法が統一されていないために、ユーザーから信頼を得られていない場合です。
この場合は、計測方法等について基準(JIS)を定め、測定機器等の性能を客観的に証明することにより、自社の測定機器等の信頼性を向上させ、売上向上、市場拡大を図ることができるようになります。
中小企業が標準化を目指すには?
標準化はメーカーが単独で行おうとしてもできるものではありません。多くの場合、業界団体に業界全体で活用できる基準の開発を提案することになります。
業界団体に顔が利く大手企業でしたら、規格原案開発を主導したうえで、JISC(日本産業標準調査会)の審議を経て国内の標準化、さらに、ISO、IECといった国際標準化を目指すことができます。
一方、中小企業の場合は、業界団体に基準の開発を提案しても、協力を得にくいために標準化を目指すのは無理なのではないかと思われるかもしれません。このような場合は、経済産業省の支援制度「新市場創造型標準化制度」を活用しましょう。
(注3)JISC(Japanese Industrial Standards Committee)……日本産業標準調査会のこと。経済産業省に設置されている審議会。
(注4)IEC(International Electrotechnical Commission)……国際電気標準会議という団体で、電気及び電子技術分野の国際規格を担う。
新市場創造型標準化制度とは
新市場創造型標準化制度は、JSA(日本規格協会)が中小企業等相談窓口となってJISCにつなぎ、要件を満たしている場合は、原案作成委員会を立ち上げて、規格原案開発を行い、国内の標準化さらに、ISO、IECといった国際標準化を目指すという制度です。

新市場創造型標準化制度に採択されるためには次の要件を満たす必要があります。
- 標準化提案の内容が、新市場の創造や産業競争⼒の強化といった政策目的に合致すること。
- 標準化提案の内容が、JIS又はISO/IECの規格として適切に取り扱われるものであること。
- 当該技術等に関係する団体が、以下のような場合により、原案作成団体又は国内審議団体を引き受けることが困難であること。
- 制定しようとする規格の内容を扱う業界団体が存在しない場合
- 制定しようとする規格の内容を扱う業界団体は存在するが、その規格作成の検討が⾏われていない、⾏われる予定がない場合
- 制定しようとする規格の内容が複数の業界団体にまたがるため調整が困難な場合
新市場創造型標準化制度の利用例
新市場創造型標準化制度に採択された案件は、2015年5月から2025年1月までの時点で、63件となっています。提案企業は、従業員数十人から数百人程度の中小企業が多く、中には、従業員数人といった規模の企業もあります。
経済産業省の「標準化活用事例集【新市場創造型標準化制度活用案件】」に挙げられた主な事例を以下に紹介します。
【株式会社Y 所在地:埼玉県、従業員35名(2021年5月時点)】
交通事故や⽔害などで⾃動⾞に閉じ込められた時に確実にガラス破砕・シートベルトを切断できる脱出⽀援ツールを開発。「ガラス破砕機能、シートベルト切断機能などの試験⽅法と性能」を標準化し、⾃動⾞メーカーにメーカー推奨商品として採用されるなど販路拡大につながった。
【株式会社T 所在地:東京都、従業員36名(2021年5月時点)】
⽕⼒発電所や清掃⼯場から排出される低濃度ダスト濃度を⾃動測定する機器を開発。「排ガス中のダスト濃度を、⻑期間にわたり連続・安定的に測定する⾃動測定器の性能評価⽅法」を標準化したことで、規格を⽤いた説明ができるようになり取引が拡大した。
【株式会社M 所在地:東京都、従業員8名(2021年5月時点)】
⾷品加⼯⼯場や調理現場で、汚れや菌を簡易・即時に確認できる携帯形微⽣物観察器を開発。「携帯形微⽣物観察器の解像⼒や堅牢性(耐衝撃性、耐⾼温、耐⾼湿性)の基準」を標準化したことで、装置の性能を客観的に評価できるようになり、市場が拡大した。
【株式会社A 所在地:大阪府、従業員10名(2021年5月時点)】
精密部品等における接着剤の硬化状況を連続的に測定する装置を開発。「接着剤の硬化状況を連続的に測定する⽅法」を標準化したことで、装置の性能が客観的に証明され、信頼性が向上し、取引先が拡⼤した。
新市場創造型標準化制度の相談窓口
新市場創造型標準化制度の相談窓口は、JSA(日本規格協会)です。
JSAでは次のようなサポートを行っています。
- JISとは何か?といった規格開発の基礎の説明
- 新市場創造型標準化制度の詳細の説明
- 規格開発の⽅針や規格の書き⽅についての支援
- 標準化を活用した事業の進め⽅の相談
- 新市場創造型標準化制度の申請支援
- 新規の原案作成委員会等の⽴ち上げ支援
- 規格開発予算への申請支援
標準化活用支援パートナーシップ制度とは
標準化の相談は、JSAだけでなく、パートナー機関として登録された全国の自治体、産業振興機関、地域金融機関、大学、公的研究機関でも行うことができます。
パートナー機関は、標準化だけでなく、中小企業の課題の把握や専門的な支援を行ってくれます。また、JSAとも連携しているので、JSAから専門家を派遣して、標準化を戦略的に活用するための専門的な支援を行ってもらうことも可能です。
標準化についてパートナー機関に相談するメリット
JSAの支援は、主に標準化に向けたものになりますが、パートナー機関に相談すれば、標準化の活用に関する専門的な⽀援だけでなく、経営⽀援なども含めて⼀体的・相互補完的な支援を受けられます。
また、中小企業基盤整備機構やジェトロ(日本貿易振興機構)等の政府関係機関からも標準化を活用した販路開拓・拡大等の⽀援を受けることができます。
まとめ
- 標準化(JIS、ISO等)活用支援制度は、中小企業による標準化を日本規格協会(JSA)やパートナー機関が支援する制度
- 標準化により新市場の創造、売上向上、販路拡大が見込める
- 標準化は大企業だけでなく中小企業が主導することも可能
- 新市場創造型標準化制度を利用することで、標準化に成功した中小企業が少なくない
- 中小企業が標準化を目指すなら、JSAやパートナー機関に相談するとよい