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親族内承継の方法と注意点

2023年 8月 25日

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親族内承継は早めの行動と準備が必要、節税対策など有利な事業承継を目指そう

中小企業にとって事業承継は重要なテーマだが、その選択肢の一つとして親族内承継がある。しかし、適任者の選定や教育など、成功させるためには慎重な準備と対策が必要だ。本記事では、事業承継を考える経営者の方々に向けて、親族内承継の方法と注意点、メリット・デメリットなどについて解説する。事業承継を支援する税制や補助金も紹介するので、ぜひ参考にしていただきたい。

事業承継「親族内承継の方法と注意点」のポイント

  1. 親族内承継とは
  2. 親族内承継のメリット
  3. 親族内承継のデメリット
  4. 親族内承継の方法
  5. 親族内承継の注意点

1.親族内承継とは

親族内承継は、経営者が自身の親族(子供、孫、甥、姪、兄弟など)に会社の経営を引き継ぐことだ。この方法は、日本では最も一般的な事業承継手法だが、親族内承継には適任者の選定や教育を含む複数年にわたる準備が必要なため、現経営者が健康なうちから計画を立てることが重要だ。

親族内承継は、経営者が直接的に後継者を指名できるため、経営理念や企業文化の継承が比較的スムーズに行われることが特徴である。

この形態の事業承継を実現するためには、遺言書作成や各種税金対策などを事前に考慮することが重要となる。

後継者不足が問題化している現在では、親族内承継の割合も年々減少している。このような背景もあり、事業承継や親族内承継は、早めの準備と対応がポイントとなる。

▼近年事業承継をした経営者の就任経緯

近年事業承継をした経営者の就任経緯
※同族承継(親族内承継)、内部昇格(従業員承継)、外部招聘(第三者承継)

▼経営者年齢別、後継者不在率

経営者年齢別、後継者不在率
参考:中小企業庁2021年版「中小企業白書」より

2.親族内承継のメリット

(1)早めの準備や後継者の育成が可能

親族内承継では、経営者本人の子供や兄弟などの親族が後継者となるため、早い段階で育成や事業の引継ぎ準備を始めることができる。

(2)従業員や取引先などの理解や協力を得やすい

円滑に事業承継を進めるためには、あらかじめ従業員や取引先に後継者を周知していくことが必要だ。日本では、現経営者の子供が会社を引き継ぐケースが一般的であり、その点で社内外の関係者を納得させやすい利点がある。周囲に明確な説明を行い、後継者が事業を引き継ぐことについての納得を得ることで、得意先や金融機関との取引を円滑に引き継ぐことが可能となる。

(3)相続・贈与などの節税対策がしやすい

親族内承継では、経営者が生前に相続や贈与の計画を立てることができる。これにより、相続税や贈与税の節税対策をすることができ、事業の継続性や財務面においてメリットを享受できる。

3.親族内承継のデメリット

(1)適切な後継者の不在

親族内承継では、経営者の子供や兄弟など親族が後継者となるが、必ずしも経営能力や意欲があるとは限らない。適任者が不在の場合、事業の継続と成長が困難になる可能性がある。

(2)後継者以外の親族とのトラブル

親族内承継では、後継者以外の親族との関係が事業に影響を及ぼす可能性がある。相続や遺産の分配に関するトラブルが生じる場合もあり、経営者としての判断や意思決定に制約が生じることがある。

(3)現経営者の借入に対する個人保証の問題

親族内承継では、現経営者が過去に行った借入に対する個人保証や、契約などの責任も後継者に引き継がれる。これにより、後継者に負担がかかり、事業の安定性に悪影響を与えることがある。また、個人保証を引継ぐには、金融機関の承諾が必要だが、変更が認められないケースもある。

4.親族内承継の方法

親族内承継の流れは下記のような手順で進められる。事業の継続や相続税の負担軽減に向けて、遺言書作成や税金対策などをしっかりと考慮し、専門家などの適切な指導を受けながら進めることが重要だ。

(1)親族内から後継者を選んで育成する

事業を継続的に成功させるためには、後継者の選定と育成が重要だ。適切な資質を備えた一族のメンバーを選び、新しい役割を担うための適切なスキルと知識を身につけさせることが重要である。後継者は、必要なトレーニングや能力開発を行えるよう、早い段階で選定することが望ましい。また、後継者をどのように親族や従業員、その他の利害関係者に周知するかを検討することも重要である。

(2)株式など会社資産の承継準備をする

親族内承継を行うためには、自社株などの資産を移転する必要がある。事業承継の早い段階で、所有割合などを明確にしておくことが望ましい。そうすることで、将来の意思決定や経営管理が明確になり、トラブルの予防にもなる。さらに、会社資産の譲渡による法的・税務的問題から、後継者を保護するための対策を講じることが可能になる。

(3)従業員や取引先に事業承継を周知する

従業員・株主・取引先に、事業承継について、周知するタイミングや方法も重要だ。事業承継のプロセスを早期に開示することで、利害関係者は経営者の交代に対応するために必要な調整を行うことができる。また、懸念事項があればそれに対処し、円滑な移行のために必要な措置を講じることができる。

(4)実際の株式や会社資産の承継手続きを行う(相続・生前贈与・遺言など)

親族内承継の場合、慎重に遺言などを作成する必要がある。遺言によって、重要な会社資産や株式を後継者に譲ることができる。また、生前贈与によって株式などを引き継ぐ場合には、節税対策を検討する必要がある。

(5)借入などの個人保証を後継者に変更する

現経営者が会社の借入の個人保証や、個人資産を担保に入れている場合には、金融機関と交渉をして保証や担保を外し、後継者に替える必要がある。変更がスムーズに行えるように、事前に交渉しておくことが重要だ。

5.親族内承継の注意点

後継者不足が社会問題化している現在においては、事業承継を希望する場合には、早い段階から計画的に対策を講じることが重要だ。特に親族内承継は、親族だからこそ注意すべき点を考慮して行うことが求められる。

(1)後継者を早めに決めて対策を講じる

親族内承継を成功させるポイントは、後継者を早期に決定し、その育成に必要な対策を講じることだ。誰が経営者に最も適しているかは、意欲・野心・経営センスといった、個人の資質や適性に基づいて判断すべきである。事業承継の準備や、後継者選びが原因で、事業が衰退するケースも多いので、十分にご注意いただきたい。

(2)公正証書遺言を作成する

事業を親族に引き継ぐことを決めたら、遺言書の作成を行う必要がある。遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があるが、事業承継においては、公的な証明性の高い公正証書遺言を作成することが重要だ。公正証書遺言があれば、不測の事態に備え、現経営者の希望に沿った承継手続きを行うことができる。まだお持ちでない場合は、専門家に相談して遺言書を作成することをおすすめする。さらに、事業や状況に変化があった場合は、その都度遺言書を更新することが重要である。

(3)相続税や贈与税などを考慮して承継方法を決める

相続時には相続税が、贈与時には贈与税が課されることがある。例えば、株式の相続の場合、経営者に退職金を支払うなどして株式の評価額を抑え、生前に贈与することで節税できるケースもある。

(4)有利な税制や補助金の最新情報を入手しておく

事業譲渡に伴う節税のためには、状況に応じて有利な税制や補助金などの、最新情報を事前に入手することが重要だ。現在は、事業譲渡に関する特例措置などが用意されており、関連する税金を最小限に抑えることが可能になる。また、事業承継や後継者育成のための補助金もあるので、最新情報の把握は非常に重要である。

1.事業承継税制(特例措置)

非上場の株式等の承継に伴う贈与税・相続税の負担を実質ゼロとする特例措置だ。
2024年3月までに特例事業承継計画を提出し、2027年までに事業承継を実施する必要がある。

参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定」

2.事業承継・引継ぎ補助金

専門家活用費用や事業承継・引継ぎ後の設備投資や販路開拓、設備廃棄費用等の支援

参考:事業承継・引継ぎ補助金公式ホームページ

3.事業承継・引継ぎ支援センター

全国47都道府県で、事業承継全般に関する相談対応や事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援などを原則無料で実施

参考:事業承継・引継ぎ支援センター公式ホームページ

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