ビジネスQ&A

特定株主への利益供与とはどのようなケースが該当するのでしょうか。

特定の株主に利益を供与した取締役は、罰則が科されると聞きましたが。具体的にはどのようなケースが利益供与に該当し、どのような罰則が科されるのでしょうか。

回答

利益供与とは、会社が株主の権利行使に関して、株主などに財産上の利益を与えることです。取締役は当該会社に対して、利益を受けた者と連帯して供与した利益に相当する額を支払う責任を負うだけでなく、刑罰も科されます。

利益供与とは、会社が株主の権利行使に関して、株主などに財産上の利益を与えることです。会社法では、何人に対しても、株主の権利の行使に関して、財産上の利益を供与してはならないと定められています。この規定は、株主として株主総会に出席資格を有することを利用し、総会の議事進行に関し、会社がお金をくれれば会社に協力し、会社がお金をくれなければ会社を攻撃するという行動に出ることにより、会社から株主配当金以外の金銭を収得しようとするような者を排除することで、会社財産の浪費を防止するために設けられたものです。

しかし、会社法では、このように金銭を取得しようとする者だけに対してではなく、利益供与に応じた会社側の役員に対しても罰則を規定していますので、注意が必要です。

具体的な利益供与のケースとしては、経営者や社員の個人的な不祥事に関する情報を得た者が、その情報を株主総会などの場で公にしないことの見返りとして、会社が口止め料と称して金銭を供与することがあげられます。

また、事業の失敗により巨額の損失を計上した会社が、株主総会の場で特定の株主に質問を控えてもらうことや、逆にほかの株主の追求を妨害してもらうことで、円滑に議事を進めることを目的に、特定の株主に対して金銭を供与することなどがあげられます。

会社法では、このような利益供与を禁止していますが、この規定に違反して会社から財産上の利益を受けた株主は、その利益を当該会社に返還する義務を負います。また、利益を供与した取締役本人も、当該会社に対して利益を受けた者と連帯して供与した利益に相当する額を支払う責任を負います。会社が、利益供与を受けた者から返還を受けている場合は、その分だけ取締役の責任は減少します。

このように、利益供与を行った取締役本人は責任を負いますが、本人以外にも利益供与に関与した取締役(委員会設置会社においては執行役も含みます)も責任を追及されますので、注意が必要です。ただし、利益供与を行った取締役本人と違う点は、注意を怠らなかったことを証明すれば、責任を免れる過失責任という点です。

これらの義務は、総株主の同意がないと免除されません。

最後に罰則に関してですが、会社法では取締役が、その会社またはその会社の子会社の資金でもって、特定の株主に対して利益を供与した場合、利益供与の罪として3年以下の懲役または300万円以下の罰金のどちらか、もしくは両方が科せられるとしています。さらに、罰則の範囲は、違法な利益を供与した取締役だけではなく、取締役の行為を見逃した監査役や実際に利益を受け取った者などにもおよぶと規定されています。

また、利益を得るために取締役などを脅迫した場合については、特に悪質であると判断できることから、5年以下の懲役または500万円以下の罰金のどちらかまたは両方が科せられることになっています。

会社からの直接の供与ではなく、取締役のポケットマネーからの供与であっても、供与した金額分の金銭が、交際費や賞与など名目に関わらず会社から取締役に実質的に与えられていれば、会社の財産から供与されたと判断されます。

なお、利益を供与した取締役などが、捜査機関が事実を把握する前に自首した場合は、刑が軽くなるか、場合によっては処罰されない場合もあります。

以上のように、利益供与に関しては、利益を受けた者だけではなく、利益を供与した取締役本人、利益供与に関与した取締役、見逃した監査役にも重い責任が課せられますので、利益供与ととらえられるような軽率な行動をしないよう、注意が必要です。

回答者

中小企業診断士
大石 幸紀

同じテーマの記事