新規事業にチャレンジする後継者

“秘境育ち”のチョウザメからキャビア ブランド化で事業が拡大【株式会社キャビア王国(宮崎県都農町)鈴木宏明氏】

2024年 7月 25日

キャビア王国代表取締役の鈴木宏明氏
キャビア王国代表取締役の鈴木宏明氏

1. 事業概要を教えてください

鈴木氏がブランド化した「平家キャビア」。日本人の舌に合う味わいが人気だ
鈴木氏がブランド化した「平家キャビア」。日本人の舌に合う味わいが人気だ

日本三大秘境と呼ばれる宮崎県椎葉村産のキャビアを製造・販売する株式会社キャビア王国を2021年に設立した。実家の有限会社鈴木組が2005年から村でチョウザメの養殖に取り組んでおり、チョウザメから採取したキャビアを「平家キャビア」というブランド名で販売している。飼育法に工夫を凝らし、独自の技術で加工したキャビアは独特の臭みがない。鮮度もよく、日本人の味覚に合った味わいに仕上げており、地元の高級旅館やレストランなどに提供しているほか、多くのお客様から高い評価をいただいている。

キャビアを養殖する鈴木組は1978年に祖父が創業した建設会社で、河川や道路など地域の土木工事を現在も請け負っている。キャビアの養殖を始めたのは、2代目の父が2002年に宮崎県水産試験場と共同でヤマメの養殖を始めたのがきっかけだった。しかし、ヤマメの養殖はなかなか採算をとるのが難しく、試験場のアドバイスを受けてチョウザメの養殖にチャレンジした。

建設業のノウハウを駆使して山の中に養殖施設を整備。幼魚からキャビアが採れるまで8年以上かかるといわれているが、2015年になってようやくキャビアの採卵に成功した。現在は1500平方メートル規模の養殖場で約1万匹のチョウザメを養殖しており、年間で1トン近くのキャビアを生産している。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

自然豊かな宮崎県椎葉村に養殖施設がある
自然豊かな宮崎県椎葉村に養殖施設がある

2021年2月に行われた第1回「アトツギ甲子園」にファイナリストとして出場し、最優秀賞をいただいた。アトツギ甲子園に出場したのは、宮崎県椎葉村という山奥で、チョウザメの養殖に取り組んでいることをまず多くの人々に知ってもらいたいという思いからだった。

2014年に実家に戻り、チョウザメの養殖の仕事を手伝っていたが、当初、鈴木組では養殖したチョウザメを地元の組合に卸し、組合がキャビアの加工を手掛けていた。ただ、これでは単なる養殖業者で終わってしまう。「自分たちでキャビアまでつくりたい」と考え、製造方法を独学で学び、試行錯誤の末、自社製造を可能にした。平家の落人伝説がある村でつくられたキャビアなので、「平家キャビア」という自社ブランドを立ち上げた。アトツギ甲子園に出場してから半年ほどたったころに「キャビア王国」を起業し、本格的な事業展開をスタート。チョウザメの養殖は鈴木組、キャビアの加工・販売はキャビア王国という役割で事業を展開している。

キャビアを取り巻く国内外の状況について調べてみると、キャビア市場は世界的に伸びているが、200億~500億円程度しかないといわれている。正直規模が小さく、夢のない市場だと感じた。振り返って、日本の魚卵市場は、イクラやタラコをはじめ、1兆円規模に上っているそうだ。だが、日本人の中でキャビアを食べたことがある人は3人に1人くらい。それを考えると、日本のキャビアのマーケットは大きなポテンシャルを持っていると感じた。魚卵市場の4分の1を取れれば、世界市場にも匹敵するマーケットになる。

世界的にも養殖の動きがあるが、一方で、天然のチョウザメが乱獲されている。養殖に真剣に取り組まないとチョウザメが絶滅しかねない状況になっている。事業を通じて、日本人の舌に合うキャビアをつくるとともに安定供給できる仕組みを構築する。事業を大きく広げることで、天然のチョウザメを絶滅から救うことにもつながる。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

大学を卒業して東京に本社がある大手通信会社に就職し、ゆくゆくはIT関連の会社を東京で始めようと考えていた。もともと田舎の生活が嫌で、実家の家業を継ぐ考えは全く持っていなかった。2013年に実家に戻ったが、それは次のステップに向けて留学準備をするためだった。だが、実家にいる間、チョウザメ養殖の手伝いをしているうちにだんだんチョウザメに愛着がわいてくるようになった。ブランド開発などに取り組む中、養殖の仕事が面白くなり、2014年に鈴木組に入社することを決めた。

事業承継では、結構よくある話だが、事業の進め方などをめぐって、父親である社長とぶつかりあうことが多かった。まだ、会社に貢献するほどの実績がなく、なかなか認めてもらえない面もあったのだと思う。「それならば」と、「キャビア王国」を起業した。いわゆる「出島戦略」だ。会社本体と事業を切り離して、自分が自由に活動して新規事業を推進できる。今は鈴木組の取締役とキャビア王国の代表取締役を兼務しているが、父とぶつかり合うこともなくなり、仲良くやっている。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

絶滅の危機にあるチョウザメを救う取り組みでもある
絶滅の危機にあるチョウザメを救う取り組みでもある

後継者の「魅力」としてはゼロからでは100%できないこと、自分が最初から始めると、かなり現実的でないことが実現できることだ。チョウザメの幼魚から飼育してキャビアを取り出すまでの1サイクルが10年かかる。キャビアのビジネスは、ゼロから始めようとしてもなかなかできることではない。規模の拡大も自分の代からのスタートでは難しい。3回サイクルを回すのに30年かかってしまう。だが、時間をかける産業も家業を継いで家業のリソースを使うことで可能になる。

また、もう一つは会社組織がすでにできあがっていることも新たな事業を進めるうえで心強い。人が必要になったとき、ほかの部署から手当することが可能で、人的なリソースを活用しやすい。これはスタートアップとの大きな違いだ。

5. 今後の展望を聞かせてください

災害を乗り越え、平家キャビアの生産量は右肩上がり
災害を乗り越え、平家キャビアの生産量は右肩上がり

2022年9月に襲来した台風14号で、養殖施設が大きな被害を受けた。養殖施設が土砂で埋まり、チョウザメの80%を失ってしまった。この時は、もう正直終わりだと思った。

事業を再建するには1億円の資金が必要だった。だが、このまま事業を終わらせたくなかった。幸い支援者から4000万円の出資を受けることができた。クラウドファンディングでも支援を募った。これまで得た利益もすべてつぎ込み、養殖施設の再建にこぎつけ、新たに8000匹のチョウザメを調達して養殖を再開。翌年には、キャビアの加工が可能になった。売り上げは順調に回復し、23年、24年と2倍ペースで売り上げが伸びている。

同じ宮崎県内の日南市などで、事業に賛同する養殖業者がチョウザメの養殖を始め、5万匹規模を養殖できるようになったほか、都農町に新たにキャビアの製造工場を設けることになった。チョウザメのオーナー制度を作って、当社に関係がある人を対象にオーナーになってもらう取り組みを始めている。これは、資金を集めるという考えよりもオーナーたちに「平家キャビア」を知ってもらい、そこからさらにブランドの知名度を広げてもらおうという狙いがある。この取り組みで仮に会社の利益が半減したとしても、知名度を上げるための広告費と考えれば得になると考えている。

宮崎県都農町にあるキャビア王国の本社
宮崎県都農町にあるキャビア王国の本社

これからのキャビア業界は、いかに多くの人にブランドを認知してもらうかが重要だ。まずは国内でのシェアを取りたい。日本でキャビアといえば、平家キャビアといわれるくらいにブランド価値を高めていきたい。また、海外展開の話もあり、海外への輸出の検討も始めた。海外での評価が高まれば、天然チョウザメの保護という大きな目標にも近づいてくると期待している。

企業データ

企業名
株式会社キャビア王国
Webサイト
設立
2021年7月
資本金
4050万円
従業員数
20人
代表者
鈴木宏明 氏
所在地
宮崎県都農町大字川北3626-6
 
有限会社鈴木組 宮崎県椎葉村大字下福良1819
Tel
0985-32-2110