業種別開業ガイド
建設業
2021年 1月 8日
トレンド
(1)建設業許可事業者数及び国内建設市場規模
建設業許可業者数は、2019年は約46.8万社となっており、ピーク時(1999年)の約60万社から大きく減少している(出所:国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について」(平成31年3月末現在))。一方、国内建設市場の規模を示す建設投資見通しでは、2019年度は約62.9兆円となっており、20年前と比べると約20兆円増加している(出所:国土交通省「令和元年度 建設見通し」、「平成23年度 建設見通し」)ため、深刻な人手不足が生じている業界である。
(2)耐震防災工事
我が国では、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」を集中的に実施するための臨時・特別処置を2019年度から推進している。国土交通省の2020年度の予算決定概要によると、防災・減災対策や老朽化したインフラ対策を中心に前年度を上回る予算が投入されることとなり、建設市場の需要は引き続き高くなっている。
(3)AI・ドローン・ICT
業務効率化や高度化の観点から様々な業界でIT化が進展しているが、建設業界でもIT機器の導入で大幅な作業時間短縮が期待されている。その例として、AI地盤解析ロボやドローンが挙げられる。AI地盤解析ロボは、これまで高度な知識を持つ限られた技術者が解析していた地盤データを大量かつ正確でスピーディーに処理することができる。
またドローンは、人間が行っていた測量時の写真撮影や距離の測定の作業を、空中からの撮影やレーザースキャンにより効率化することができる。人間が入ることのできない危険な場所であっても測定が可能になり、測量に伴う作業の安全性が高まることも期待されている。
(4)大阪万博、リニア中央新幹線
これまでも2020年に開催を予定していた東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設ラッシュが進んでいたが、今後も大規模な建設プロジェクトの継続や新規立ち上げが続く見込みである。その大きな要因が、2025年の大阪万博に向けたインフラ需要の増大や2027年開業予定のリニア中央新幹線の整備である。これらを起爆剤とした、周辺地域の新たな建設プロジェクトも期待されており、建設業界の需要は引き続き高いと予想される。
ビジネスの特徴
建設業の特徴は様々であるが、最も特徴的なのは、重層下請構造であることが挙げられる。このように多重下請けが何層にもなる理由としては、受注量の変動が、繁忙期と閑散期で大きいことがある。繁忙期は人手が必要となるが、受注量が一定ではないため、安易に人を雇うことができない。閑散期に余剰人員が発生し、固定費の負担が増えるためである。このため、案件ごとに外注業化する方が効率的となる。ただし、多重構造の下に位置する事業者ほど利益率は低くなり、中小事業者への負担が問題になることも多々ある。
開業タイプ
建設業者が建設工事を請け負うためには、軽微な建設工事※のみを請け負う場合を除き、建設業法第3条に基づき建設業の許可を受けなければならない。
※○建築一式工事については、工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事または延べ面積が150m2未満の木造住宅工事。
○建築一式工事以外の建設工事については、工事1件の請負代金の額が500万円未満の工事。
建設業許可は、業種区分が29種類に細分化されており、自社の行う建設工事が該当する建設業許可をすべて取得する必要がある。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
- 法務局への法人登記申請
…事業形態を法人とする場合は申請する。 - 税務署等への各種届出
- 建設業許可の申請
…開業する事務所が1つの都道府県内に限定されている場合は都道府県知事免許、2つ以上の都道府県にわたる場合は国土交通大臣免許を申請する。- 一般建設業許可…許可を受けた業種の建設工事が受注可能となる。
- 特定建設業許可…元請として経営し、下請に工事を依頼する場合に必要となる。
- 労働者災害補償保険(労災)への加入
…建設業に限らないが、特に事故の危険性が高い業種のため、労災の加入の有無は会社の信用を大きく左右する。
必要なスキル
(1)地震に対する知識・危機管理能力
2019年から政府は「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」と称し、災害対策に取り組んでいる。民間の建設業者においても同様で、耐震基準に関する正しい知識を身につけ、さらに建設工事中の地震被害も最小限に抑える備えを行うことが求められる。
(2)人材の確保・育成能力
建設業界は業界全体が深刻な人材不足となっており、人材の確保や育成は事業存続に必要不可欠である。
(3)技術・特殊工法やサービスの差別化
建設工事の受注を増やし、仕事量を確保していくためには、技術・特殊工法やサービスの差別化を図り、営業していく必要がある。また近年は特に、差別化の内容として環境対策やIT化の側面も重視されやすくなっている。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【一般建設業許可(要件の1つに500万円以上の自己資本金が必要)を取得し、社員3人、アルバイト3人の小規模工務店を開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
工事の種類ごとの単価、月々の件数を以下の通りとして、年間の売上計画を算出した。
b.損益イメージ
上記a売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は一般土木建築工事業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
土木建築工事業では1つの工事で数日から数ヶ月の期間を要するため、日単位や週単位での売上目標を立てることは難しく、長期で安定的に工事を受注し続けることで売上が安定する。代金回収は工事完了後となるが、それに先立ち多額の人件費や資材費の支払いが発生するため、資金繰りについては注意が必要となる。技術・特殊工法やサービスによる差別化を図ることも必要だが、開業時は人脈を生かして受注を増やす体制づくりを行うことが重要である。
また工法等によって変わってくるが、大型の機材を購入するには数百万円という多額の費用がかかってくる。このため現場での作業のみならず、企画・設計、コスト管理、など実務からマネジメントまでを担えることが重要である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)