業種別開業ガイド

ハンター

2022年 4月15日

トレンド

(1)野生鳥獣増加による農作物の被害

野生鳥獣増加による農作物の被害が、問題視されている。農林水産省によると、令和元年度の農作物被害は、被害金額が約158億円にもおよんでいる。主要な鳥獣種別の被害金額については、シカが約53億円、イノシシが約46億円、サルが約9億円で、これら3つで全体の7割近くを占める。

鳥獣被害が増加する背景としては、農山漁村の過疎化や高齢化の進行、里山等における住民の活動が減少したこと等が挙げられる。また、狩猟者の減少・高齢化に伴い、狩猟による捕獲圧が低下したことや、里山、森林管理の粗放化等により、野生鳥獣の生息環境が変化したこと等も考えられる。

さらに、鳥獣被害は農業者の営業意欲を低下させ、耕作放棄地を増加させる一因となっているが、耕作放棄地の増加が更なる鳥獣被害を招くという悪循環を生じさせ、被害額として数字に表れる以上に農村の暮らしに深刻な影響を及ぼしている。

これらの鳥獣被害対策として、鳥獣被害防止特別措置法(平成24年3月)の改正や鳥獣被害防止総合対策交付金※1がある。野生鳥獣被害の深刻化・広域化に対応するため、捕獲活動の根本的強化やジビエフル活用に向けた取組等が支援されている。
※1 令和3年度予算額は約110億円(農林水産省)

(2)ジビエブーム

ジビエとは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉(フランス語)で、ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化である。日本では鳥獣被害防止対策としてジビエ振興が重視され、捕獲鳥獣を地域資源(ジビエ)として利用することで、農山村の所得に変えるような取組が図られている。令和元年度に処理されたジビエ利用量は2,008トンであり、平成28年度と比べて1.6倍に増加している(農林水産省)。利用量の増加の背景にはジビエの外食産業での利用拡大・定着や、ペットフード等の新用途の開拓がある。

野生鳥獣を駆除したとしても、使い道がなくそのまま山に捨ててしまう場合、鳥獣が共食いをする。肉は栄養価が高いので、食べた鳥獣は繁殖力が上がり子供が増加、それがまた鳥獣被害の増加に繋がる。そのため捕獲した野生鳥獣は利用可能な個体のフル活用が重要である。

ビジネスの特徴

日本国内で野生鳥獣を捕獲するためには、狩猟制度、捕獲許可制度、特定鳥獣保護管理計画制度のいずれかに従う必要があり、これ以外で野生鳥獣を捕獲すると密猟者になる。個別に契約を結ぶ「プロハンター」、市町村の実施隊に属する「対象鳥獣捕獲員」、鳥獣捕獲等事業者を立ち上げる・または「捕獲従事者」として契約するというビジネスモデルが考えられる。これらのビジネスに運送業や古物商のような「営業の許認可」は必要ないが、使用する猟具に応じた狩猟免許を所持しておく必要がある。

開業タイプ

(1)狩猟制度

野生鳥獣の被害に困っている個人や法人と、捕獲や防除に関する契約を結ぶビジネス。広大な農地をもつ個人農家・農業法人、リゾートホテルを運営する観光業者や不動産会社などに需要がある。このように契約を結んで報酬を得る狩猟者は、プロハンターと呼ばれる。ただし、狩猟制度では猟期や狩猟鳥獣といった縛りが多い。

有害鳥獣駆除の報奨金としてはイノシシやシカが17,000円、アナグマが1,000円、アライグマでは5,000円が相場である。その内訳は鳥獣被害防止総合対策交付金(国)、有害鳥獣駆除事業報奨金(各自治体)でまかなわれている。

(2)捕獲許可制度

狩猟許可制度では、市町村の被害防止計画をもとに組織された鳥獣被害対策実施隊員に入ることでも収入が得られる。各市町村に実施隊が設置されているか確認する必要があるため、まずは市町村役場の鳥獣被害対策窓口(農林課や地域振興課など)に問い合わせる。

プロハンターがこの制度を利用する場合は、契約を結ぶ個人・法人に捕獲許可の申請を出してもらい、その捕獲方法に自身の氏名を指定してもらうことで実行できるようになる。

(3)特定鳥獣保護管理計画制度

特定鳥獣保護管理計画制度では、鳥獣捕獲等事業者になれば都道府県の実施する公共事業を請けることができる。さらに認定鳥獣捕獲等事業者制度の認定を受けることができれば、ビジネスの幅が広がる。

しかし、初めから法人を立ち上げるのはハードルが高いため、ひとまずは既存の鳥獣捕獲等事業者と労働契約を結び、捕獲従事者として報酬を得る道を考えるのが現実的である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

※2 狩猟を行うための免許であり装薬銃と空気銃の第1種、空気銃のみの第2種がある。狩猟免許は「狩猟という行為」に対する免許であり、狩猟で使用する銃を所持するためには、住所地の公安委員会(都道府県警察)から許可を受ける必要がある。

(2)必要な手続き

狩猟の開業に際しては狩猟免許を取得し、狩猟するためには、出猟したい都道府県ごとに「狩猟者登録」を行い、狩猟税を納める必要がある。狩猟者登録を行った人には、「狩猟者登録証」、「狩猟者記章」、「鳥獣保護区等位置図(ハンターマップ)」等が配布される。
また、狩猟を行うには、3,000万円以上の共済または損害賠償保険(または同等の賠償能力を証明)に加入することが必要。

主に以下に掲載する関連法規が存在し、それぞれの管轄する機関に届出が必要となる。
(1)鳥獣保護管理法(環境省)
(2)銃刀法(警察庁)
(3)火薬類取締法(経済産業省及び警察庁)
(4)地方税法(総務省)
(5)電波法(総務省)

必要なスキル

狩猟を行うための狩猟免許試験では、狩猟に関する「鳥獣保護管理法」、「銃刀法」、「火薬類取締法」等の法令知識が出題される。また、視力・聴力・運動能力等の適性検査や、鳥獣判別、猟具の取扱、目測等の技能検査が出題される。これらの基本的なスキルだけではなく、野生鳥獣の「命」に最大の礼を尽くす、といった狩猟者としてのマナーは身につけておく。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

自宅で開業することを前提として、必要な資金例を記載する。

【参考】自宅で開業する場合の必要な資金例

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

ハンターの平均年収を参考に、以下に売上モデルを掲載する。

売上計画表

b.損益イメージ(参考イメージ)

損益イメージ表

※標準財務比率はその他の林業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

(3)収益化の視点

特に開業に際して資金が必要になるわけではなく、個人でも比較的容易に開業が可能であるが、典型的な労働集約型産業であり、ハンターの平均年収をみてもそれほど収益性の高い業種であるとはいえない。

したがって、ある程度の収入を得たい場合、ジビエ産業なども手掛ける必要があろう。ジビエの活用事例は農林水産省などにも事例集が掲載されており、そうした事業モデルを参考にするのが望ましいと考えられる。

ただし、こうした事業は開業できる地域も限定され、地域の獣肉処理業者や調理師、行政など、事業を展開するうえで関わってくる関係者も多くなるだけに、こうした関係者と信頼関係を築き事業を展開する必要がある。

事業内容が狩猟にとどまらず、獣肉処理や流通、商品・メニュー等の開発、販路の開拓など多岐にわたってくるため、単にハンターとしてのスキルだけではなく、事業運営全般にわたる知見が求められる。また、自身に足りない知見については、関係者との連携により補っていく必要もあろう。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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