業種別開業ガイド

人材派遣

2019年 12月 11日

トレンド

(1)市場は回復基調

一般社団法人日本人材派遣協会「労働者派遣事業報告書集計結果」によると、派遣事業の市場規模は、2008年度にピークとなる7兆7,892億円に達したものの、リーマンショックなどの影響もあってその後縮小した。2013年度に底を打ってからは改めて回復基調に乗せ、2017年度で6兆4,995億円まで戻している。

(2)法規制変更への対応必須

1986年に施行された労働者派遣法は段階的に改正されており、それら法規制の変更にいち早く、適切に対応することが求められる。近時では2015年9月の労働者派遣法改正において、常時雇用者のみを対象としていた特定労働者派遣事業者の「届出」制が廃止され、一般労働者派遣事業者としての「許可」制に一本化された。これによって、一定の資産要件クリアを全事業者が求められることとなった。また、この改正では、派遣元事業主が雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、段階的かつ体系的な教育訓練や希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施することを義務付けている。これらの改正により、新規参入のハードルはやや上がった。

(3)派遣労働者の確保

業界大手を中心に派遣労働者の教育・訓練体制のほか、福利厚生の充実が図られており、優秀な人材をより多く確保することが重要な経営課題として掲げられている。一方、専門分野に特化する人材派遣会社などでは、大学院や大学、専門学校などとも連携し人材確保のルートを確立することが鍵となってこよう。

ビジネスの特徴

材派遣すなわち労働者派遣は、雇用契約を結んだ労働者を顧客企業に派遣し、その顧客企業の指揮命令のもと労働に従事させることで対価を得る業態である。

派遣労働者への給与に20~30%程度のマージンを上乗せして顧客企業に派遣料を請求する。そのマージンから派遣労働者の社会保険料、有給費用などの他、営業スタッフ人件費、労働者の能力開発費用などを賄う。

人材確保の観点において知名度に勝る業界大手が有利ではあるが、新規参入組も業界、地域などを絞ることで特色を出すことも可能である。また、頻繁な法改正によって新たなビジネスチャンスが創出されるケースもあろう。

なお、派遣対象業務は原則自由化されているが、以下のような適用除外業務もある。

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業務
  • 病院・診療所等に於ける医療関連業務
  • 弁護士・社会保険労務士などのいわゆる「士」業

開業タイプ

(1)地域特化型

全国展開する業界大手と違い、一定のエリアに絞った事業展開を図るべく開業。地元での就職を希望する層をターゲットとして派遣労働者を募りつつ、営業面では地域ネットワークを生かした密接なフォローなどで顧客獲得を狙う。

(2)業種特化型

人手不足が顕著なIT業界など、専門的な技術を要する部門に特化して開業。専門性が高いほど派遣労働者への給与が高く、それにつれマージン収入も増す傾向がある。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業のステップ

(2)必要な手続き

人材派遣を営むには、「労働者派遣事業者」として厚生労働大臣より許可を受けるべく、都道府県労働局に申請する必要がある。許可を得るには、禁錮以上の刑または一定の労働法等に違反して罰金刑以上に処せられて5年を経過しないなどの欠格事由に該当しない上で、次の要件を満たす必要がある。

(a)当該事業がもっぱら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるものでないこと。
(b)申請者が当該事業の派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うに足りる能力を有するものであること。
(c)個人情報を適正に管理し、派遣労働者などの秘密を守るために必要な措置が講じられていること。
(d)申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有すること(財産的基礎*に関する判断、組織的基礎に関する判断、事業所に関する判断**、適正な事業運営に関する判断)。

*(d)の財産的基礎とは以下の資産要件を指す。

  • 財産総額から負債総額を控除した額が、2000万円に事業所数を乗じた額以上
  • 上記の基準資産額が、負債総額の1/7以上
  • 現金預金>1500万円×事業所数であること

**(d)の事業所に関する判断とは、面積がおおむね20平米以上あることを指す。

なお、申請状況によっては許可証の受領まで3ヶ月以上を要することもある。

また、民営職業紹介事業を兼業する場合、あるいは海外派遣を予定する場合についても、許可を受けるためにそれぞれ所定の要件がある

サービス内容の工夫・差別化など

派遣している労働者の実数が売上に直結する仕組みである以上、顧客ニーズに合致した派遣労働者をいかに用意できるかが鍵である。業界大手は知名度、厚みのある福利厚生、キャリア形成支援、コンプライアンス徹底による信頼感などを前面に出して、人員抱え込みを図る。

また、専門性の高いIT技術者などは顧客企業のニーズも高く、単価も高いため、安定して人員確保さえできれば、中小規模でも独自の存在感を出すことも可能であろう。

必要なスキル

人材派遣を行うにあたり、社内に1名以上の「派遣元責任者」が必要となり、人数の要件は以下の通り。

  • 派遣労働者100人につき1人以上
  • 派遣労働者101人以上200人以下では2人以上
  • 派遣労働者201人以上は、100人ごとに1人以上ずつ選任することが必要
    また、労働者派遣事業をする際には、以下の事務所設置の条件がある。
    • 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律で規制する風俗営業や性風俗特殊営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと
    • 事業に使用し得る面積がおおむね20m2以上あること

なお、「派遣元責任者」は、全国の主要都市にて定期的に実施される「派遣元責任者講習」を受講するだけで資格を取得できる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

派遣スタッフのマネジメントが主な業であり、事務所さえあれば開業可能であるため、初期投資負担はさほど大きくはない。

ただし、立地に関しては、登録スタッフの確保に有利な駅の近くなどが望ましいため、賃貸料なども多少高くなることを想定しておく必要があろう。

【地方都市に83平米程度の事務所を擁して地域特化型を開業する際の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間の売上計画のイメージ例を示す。

売上計画例の表

b.損益イメージ

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は、職業紹介・労働者派遣業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

公開されている業界大手の「マージン率」は25~30%程度、東京商工リサーチ「中小企業経営指標」による売上総利益率は27.3%とほぼ同位である。その粗利から派遣労働者の社会保険料、有給費用などの他、本社スタッフ人件費、セミナー経費などを賄った上で営業利益率3.7%を確保する。

セミナーや研修会用に若干大きめの事務所が必要とはいえ、貸会議室などの利用も可能であるため、初期投資はそこまで多大ではない。早い段階で損益分岐点を上回る派遣実績をあげることさえできれば、企業運営を軌道に乗せることも可能であろう。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討すう際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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