業種別開業ガイド
キャリア・カウンセラー
2021年 3月25日
トレンド
(1)上昇傾向にある転職率
総務省統計局の労働力調査によると、直近の転職率は2015年が4.7%、2019年は5.2%と緩やかではあるが上昇傾向となっている。終身雇用制度や年功序列の慣行が失われつつある中、2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されたことで個人の仕事観に変化が生じ、自らキャリアを形成していくことが求められてきていることが、一つの要因として考えられる。
(2)ニーズが拡大しているキャリア・カウンセリング
先述した背景から、キャリア・カウンセラーの質の向上が重要視されてきている。2008年に国家検定であるキャリア・コンサルティング技能検定が制定され、2016年4月には、新しい国家資格キャリア・コンサルタントが誕生した。また、厚生労働省は「キャリア・コンサルタント養成計画」でキャリア・コンサルタントを2024年度末までに10万人に増やす計画を立てており、今後も需要は高まっていくと考えられる。
(3)国家資格キャリア・コンサルタント試験結果の推移
国家資格である「キャリア・コンサルタント」は名称独占資格として法制化されており、資格取得後は5年毎に更新となる。2016年4月に誕生した国家資格キャリア・コンサルタントの試験は年に3回開催されており、受験者数は増加傾向にある。平均合格率は学科より実技が高く、学科実技同時試験では単独で受験するよりも合格率がやや低くなっている。
ビジネスの特徴
キャリア・カウンセラーは仕事を中心とした、個人のキャリア開発や職業選択の支援を行う。活躍の場は、企業内の人事・労務・教育関連部門、人材紹介・派遣会社のコンサルタント、需給調整機関(ハローワーク等)、教育機関など多岐にわたる。
ニーズの高まりはあるものの、現状では個人に対するコンサルティングの文化はまだ根付いていないといえる。厚生労働省が行った「平成30年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、相談できる相手は「家族・友人」が 最も多く、次いで「上司・同僚」となっており、「カウンセラーや相談窓口」はわずか3%となっている。このため、独立後も教育機関や一般企業などと業務委託契約や顧問契約を結び、カウンセリングに携わるのが一般的となっている。また、専門性が高いため未経験者がいきなり独立というのは難しい職種と言える。独立し事業を継続するには、経験やスキルはもちろんのこと、信頼性の高い資格を取得することや、専門性を磨き、得意分野を持つことが求められる。
開業タイプ
事業免許などは無く、資格さえ取得していればどこでも働くことができる。
(1)自宅で開業
初期費用や家賃がかからずコストを抑えて開業できるが、名刺には自宅の住所を載せることになるので注意が必要となる。また対面で話す頻度が多い場合には、打合せ場所や会議の場所を探す必要がある。
(2)レンタルオフィスや事務所など賃貸オフィスで開業
貸店舗、賃貸マンションを借りて開業するため、立地を選べるメリットがある。
(3)シェアオフィスで開業
仕事場を複数の会社でシェアするオフィスのこと。レンタルオフィスとは違いフリーアドレス形式で、特定の個室を借りるものではなく自分専用の場所がないオフィス。レンタルオフィスよりコストを抑えて開業できるが、個室ではないため機密性が低い点に注意が必要となる。
(4)オンラインで開業
初期費用を抑えるためには、オンラインカウンセリングも有力である。インターネットを通してカウンセリングを行うため、場所を選ばずに始めることができる。
開業のステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
税務署へ開業届を提出。原則として開業後1ヶ月以内に最寄りの税務署に提出する。同時に白色申告もしくは青色申告の場合、青色申告承認申請書を提出する。
ターゲットとなる顧客層
キャリア・カウンセリングにおける自身の得意とする分野を明確にし、ターゲット(女性、学生、若年層、シニア、障害者など)を絞りこんだ上で、そのターゲットに最も訴求できる集客手段を活用することが重要である。
また、キャリア・カウンセリングの対象は個人の求職者だけでなく、企業やそこで働く従業員も含まれる。企業に対しては社員の離職防止やワーク・ライフ・バランスの向上などより良い職場環境構築のための提案、従業員に対してはキャリア支援、モチベーション管理、メンタルヘルス対策などがある。
必要なスキル
求められるスキルには面談やネットワークを構築するスキル、職種・業界についての知識、労働関係法令・労働関係施策等についての知識や理解など、幅広いスキルが求められている。また、産業カウンセラーといった心理学系の資格取得も業務に役立つとされる。
国家資格キャリア・コンサルタントの試験は年に3回開催され、近年では6~7月、11月、3月に開催している。
キャリア・コンサルタント試験は、次のいずれかの要件を満たした者が受験できる。
- 厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了した者
- 労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力開発及び向上のいずれかに関する相談に関し3年以上の経験を有する者
- 技能検定キャリア・コンサルティング職種の学科試験又は実技試験に合格した者
- 上記の項目と同等以上の能力を有する者
開業資金と損益モデル
自宅開業なら、電話とファクス、パソコン、携帯電話があれば開業できる。開業資金10万円以下でも可能。ただし、資格を取得するための費用として、受講料20~25万程度。通信講座は4万円程度が目安。別途、資格試験受験料が2万5000円程度かかる場合もある。
(1)開業資金
【月額10万円のレンタルオフィス(2人用個室、什器・備品付き、初期費用として2ヶ月分を前払い)で開業する場合の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
b.損益イメージ
上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率のうち、売上総利益率は該当する業種の財務データがないため、推定値を掲載。営業利益率は、他に分類されない専門サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
(3)収益化の視点
労働集約型の業種であり、開業資金の負担は比較的少なく売上総利益も高位であるが、集客のための営業活動、広告・宣伝などへの投資は不可欠であり、それらを吸収できるだけの受注を継続して得ていくことが当初の課題となる。実績と人脈の蓄積を順調に進めていく一方で、カウンセリング以外にも講師としての仕事を得るなど業務の幅を広げていくことも収益化に必要である。
※開業資金、売上、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)