業種別開業ガイド

トラック運送業

2020年12月28日

トレンド

(1)トラック運送業の市場規模

1990年の貨物自動車運送事業法施行以降、トラック運送業者は、規制緩和により新規参入事業者が急増した。こうして、2007年度にはトラック運送業者は施行前と比べて1.5倍の約6.3万社に達したが、その後は横ばいの推移となっている。市場規模に関しては2015年度に約16兆円で、国内の物流業界で最も大きな市場となっている。(出所:全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2019」)

(2)急成長のネット通販が業界牽引

近年のネット通販市場の拡大に加え、フリマアプリによる個人間取引も増え宅配便の取扱個数が急増、2018年の国内における消費者向けネット市場規模は18兆円(前年比9%増)となっている(「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」出典:経済産業省」。

このようなネット通販による需要の高まりが、運送業界の新たな牽引役となっている。ネット通販市場は今後も成長が期待され、宅配便需要は今後も伸びると予想される。

(3)人手不足

ネット通販市場が拡大する一方、ドライバーや荷物を取り扱う作業員不足は深刻化しており、運賃の値上げやドライバーの労働環境改善等が進んでいる。こうした背景もあって、運送業界では同業他社や異業種間での業務提携が活発になり、業務効率化や省人化が進んでいる。近年では運送会社と共に過疎地などの路線バスやタクシー、電車などの交通機関が宅配便を輸送する「客貨混載」を開始。2020年3月には、宮崎県の村営バスとヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社が初の共同配送を開始している。

ビジネスの特徴

規制緩和もあって、個人事業者でも新規参入が容易になっているが、荷主や同業大手の下請的な性格が強く依存度が高い。近年では、宅配便の取扱個数が急増しており、多頻度小口輸送の需要が高まっており、これらの需要への対応力が求められている。

開業タイプ

(1)個人開業

規制緩和により個人での開業ハードルも低くなっており、また、開業資金を抑えられるというメリットがある。

(2)法人開業

ある程度の人員や車両等を確保したうえで開業する場合には、法人で開業した方が、メリットが大きいと思われる。個人と比べ開業資金は高くなる半面、社会的信用も得やすく銀行等の融資を受けやすくなる。

(3)フランチャイズ

フランチャイズ本部による開業時のサポートやノウハウの提供を受けられるなど、個人で開業するよりも大きなメリットがある。また、フランチャイズ本部の信用を借りて銀行等の融資が受けやすくなったりする。

開業ステップ

(1)開業のステップ

一般貨物自動車運送事業の開業にかかるステップを記す。

開業のステップ

(2)必要な手続き

1.税務署等への各種届出

2.地方運輸局への一般貨物自動車運送事業許可申請
 …申請から許可を取得できるまで4ヶ月から5ヶ月の期間を要する。

3.法令試験の受験
 …運送事業許可申請の翌月または翌々月に受験する。

4.金融機関にて登録免許税納付

5.地方運輸局への運輸開始届等の提出

必要なスキル

(1)資格

運行管理者、整備管理者の設置は開業の必須要件である。運行管理者は、運行管理者資格の取得が必要。整備管理者は、トラック等の点検・整備の実務経験があるか、整備管理者専任前研修を修了しているか、自動車整備士技能検定のうち1級から3級のいずれかを取得していることが要件となる。運行管理者は整備管理者との兼任は可能だが、ドライバーとの兼任は不可。

(2)Gマーク

貨物自動車運送事業安全性評価事業(Gマーク)は、公益社団法人全日本トラック協会がトラック運送事業者の交通安全対策などの取組を評価し、利用者が安全性の高い事業者を選定しやすくするとともに、事業者全体の安全性の向上に対する意識を高めるための環境整備として実施している制度である。Gマークの認定により、利用者の増加が見込めるだけでなく、国土交通省や全日本トラック協会、損害保険会社から優遇措置を受けることができる。

開業資金と損益モデル

開業費用は、トラックの数や大きさ、事務所・駐車場の立地によって大きく異なる。ここでは、事務所と駐車場の賃貸料合計が月50万円、2~4tトラック4~5両、ドライバー4~5人のトラック運送業を想定する。

(1)開業資金

【一般貨物自動車運送事業を開業する際の必要資金例】

一般貨物自動車運送事業を開業する際の必要資金例

(2)損益モデル

a.売上計画

公益社団法人全日本トラック協会の「経営分析報告書-平成27年度決算版-」における1社平均売上高及び1社平均輸送トン数を参考に売上高を算出した。

1社平均売上高及び1社平均輸送トン数を参考にした売上高

b.損益イメージ

売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例

※標準財務比率は一般貨物自動車運送業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

一般的に運転資金需要がさほど大きい産業ではないが、典型的な労働集約型産業であり、経費の大半は人件費が占め、固定費の割合が高い。また、経費は燃料費の価格動向に左右されやすい。

近年トラック運送業は、多頻度小口配送や時間指定配達の増加しており、こうした動きはコロナの影響により加速することも考えられ、輸送効率の改善が課題となっている。そのため、車両1台では輸送効率を上げることが難しいため(1輸送を往復で考えた場合、帰りの便でカラ便が発生しやすい)、保有車両を予め一定台数以上確保したうえで開業することが望ましい。そのうえで、実働率(延べ実働稼働車両数÷延べ実在車両数)、実車率(実車キロ÷総走行キロ)などを挙げていく取組が必要となる。

大手業者では3PL(サードパーティロジスティック)などの業態があるが、中小でも同業者で共同配送を行うなどの取組により輸送効率を上げていく必要がある。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)