業種別開業ガイド
軽貨物運送
2021年 8月27日
トレンド
(1)軽貨物運送の市場規模は2,450億円
株式会社矢野経済研究所によると、2017年の軽貨物運送の市場規模は2,450億円となった。軽貨物運送の主な事業のひとつは宅配便である。インターネット通販の利用者数が伸びていることなどを要因として、宅配便の取扱個数は年々増加している。国土交通省によると、2019年には43億2349万個に上った。
(2)課題は「再配達」——2020年4月の調査で宅配便の再配達率は8.5%
宅配便の再配達は、事業者にとって運送効率を下げる大きな要因のひとつである。国土交通省は再配達の問題点として、ドライバー不足の深刻化やCO2排出量の増加などを指摘しており、再配達削減の取り組みを行っている。
このように国土交通省が「再配達」という課題の解決に取り組んでいる状況は、軽貨物運送業者にとってもメリットといえるだろう。
(3)経営手続き・集客など、軽貨物運送事業者向けのサービスの広がり
宅配便の取扱数の増加により、軽貨物運送は多くの事業者が参入しはじめている。それに伴い、軽貨物運送の開業に関連するさまざまなサービスも生まれている。
例えば、DAPが運営する「手続きドットコム軽貨物」は、軽貨物運送届出に必要な書類作成を簡略に行うことができる。アマゾンジャパンは、運送事業者と直接業務委託契約を結ぶ「Amazon Flex」を運営している。CBcloudの運営する「PickGo」は、荷主とドライバーをマッチングするWebサービスである。
開業にあたっては、こうした各種サービスについても事前に調査し、事業計画に組み込んでおきたい。
ビジネスの特徴
軽貨物運送(正式名称「貨物軽自動車運送」)は、インターネット通販等の発展とともに宅配便の需要が拡大したことなどから注目が集まってきている事業である。
制度としては、各地の国土交通省運輸支局に届出をするだけで開業することが可能である。また、開業に当たって必要になるのは、基本的には、軽トラックやバンなど、運送に必要な車両のみといっていい。需要が高まっており、かつ、参入が比較的容易な事業なのである。
仕事の内容は、宅配便に代表されるような、荷物の運送業務である。売上は運送料となるため、より多くの荷物を効率的に運ぶことで売上および利益の増加が図れる。
開業タイプ
(1)個人開業型
軽貨物運送は、軽貨物車さえ用意すれば自宅で一人でも開業が可能である。営業や宣伝など、顧客獲得のための活動は自ら行う必要があるが、営業時間を自分で決められるというメリットもある。
近年では、上述した通り、アマゾンと直接契約のできる「Amazon Flex」や配送マッチングサービス「PickGo」など、個人開業事業者に向けたサービスが複数立ち上がっているため、こうした新規サービス情報も積極的に仕入れておきたい。
(2)フランチャイズ型
フランチャイズ型は、他の業種と同様、ロイヤリティを支払う必要があるという金銭的なデメリットはあるが、開業サポートやノウハウを学ぶことができるというメリットがある。また、軽貨物運送では仕事を回してもらえる場合もあるため、その場合は営業・宣伝費が節約できることもメリットとなる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
(2)必要な手続き
軽貨物運送を開業するためには、運輸支局へ届出を行い、営業用の黒ナンバーを発行してもらう必要がある。届出の際には、使用する車両の申請や車検証が必須となるため、車両の準備などの基本的な営業準備は済ませておかなければならない。
・必要な届出書類
1.貨物軽自動車運送事業経営届出書
2.事業用自動車等連絡書
3.運賃料金表(荷主へ請求する料金を記載する書類)
4.車検証(新車の場合は、車台番号が確認できる書面(完成検査証など))
年間約6万人の労働力が失われるとされる再配達問題
上述した通り、再配達は軽貨物運送の事業者にとって課題となっているだけでなく、国土交通省も取り組む社会的な課題となっている。アマゾンや楽天など、インターネット通販は拡大しており、食料品など日常の買い物まで通販で行うケースも少なくない。国土交通省によると、この再配達を労働力に換算すると、年間約9万人のドライバーの労働力に相当するとされている。
課題の解決方法としては、配達日時指定が挙げられるが、指定された時間が配送ルートに沿わなければ運送効率の低下を招きかねない。国を挙げて対策を行っている点は追い風といえるが、開業するにあたって、再配達問題は効率面において大きなネックのひとつである。配達日時指定だけでなく、配送ルートの改善などを常に行い、生産性の向上に努めていきたい。
必要なスキル
・運送効率の改善
基本的に、軽貨物運送の売上は荷物を運送した件数によって変わる。いわば運送すればするほど売上が増加するという仕組みであるが、ドライバーの長時間勤務は事故につながり得るという意味で大きなリスクでもある。
そのため、運送地域や荷主、取扱い品目の選定など、さまざまな要素で効率化を図る意識をもって経営に臨む能力が求められるといえる。
・荷主や燃料業界等、関連業界の動向への気配り
顧客となる荷主がかかわる業界、および、ランニングコストとなるガソリン代にかかわる燃料業界については、動向を常にチェックしておくことが望ましい。
例えば、通販等においては、近年ドローン運送に注目が集まっている。本稿の執筆時点(2020年11月)ではまだ社会実験の段階だが、本格的に導入が始まれば、軽貨物運送にとっては競合となる可能性がある。
また、ガソリン代の高騰はランニングコストの上昇につながる。例えば燃料費が高騰した際、荷主と運賃を上げる交渉ができるかどうか、という点は実際的に売上につながる大きなポイントのひとつといえるだろう。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
運送に用いる車両さえ用意できれば、自宅開業もできる点が軽貨物運送の利点のひとつである。ここでは自宅開業(賃貸・車庫付き)を想定した資金例を掲載する。
【参考】自宅開業の場合に必要な資金例
(2)損益モデル
a.売上計画
売上については、基本的には1日の運送数と運送単価によって変動する。下記の表はそうした想定のモデルである。
ただし、荷主との契約によっては時給換算など、別の形態もあり得る。そのため、荷主の選定や交渉次第で調整が可能な部分でもある。自分に合ったスタイルで営業できるよう検討したい点である。
b.損益イメージ
※経営者の人件費は売上原価に含む。
※標準財務比率は「貨物軽自動車運送業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
軽貨物運送の収益性は、運送効率の高低が関わる。効率性をみる指標としては下記のようなものが挙げられる。
「実車率」:
総走行距離に対する、実際に荷物を積んで走行した距離の比率。数値が高いほど輸送効率が良いことを意味する。荷物を載せて走行している距離が多ければ多いほど効率が良い、ということを示す指標。
「1km当たりの収益率」:
走行距離当たりの収益率は、走行距離に対する運送量や経費の額から計算できる。運送ルートの見直しなどの判断のためにみておきたい比率である。
また、収益化にあたっては、「安全性」も大きな観点のひとつである。個人で開業している場合、事故を起こしてしまったら途端に売上が立たないという状況に陥ってしまう。運送量の増加のために長時間労働となるケースが少なくない業界だが、労働状況の悪化は、事故リスクの増大につながることは考慮に入れておく必要がある。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)