業種別開業ガイド
クリーニング取次店
2019年 12月 5日
トレンド
(1)市場の縮小
クリーニング施設数は、1997年にクリーニング施設16万4,225ヶ所、そのうち取次店11万5,010ヶ所とピークを迎えた。しかし、その後の家庭用洗濯機や洗剤の高機能化、形状記憶シャツの普及などにより需要は低下した。さらに、後継者問題も相まって過剰であった店舗は淘汰が進み、2015年時点ではクリーニング施設10万4,180ヶ所、そのうち取次店は7万2,888ヶ所まで減少をみている(出所:厚生労働省「衛生行政報告例」)。それに伴い、市場規模も2016年で3,692億円(出所:総務省「家計調査年報」他)と、1997年の7,309億円からほぼ半減となっている。
(2)洗濯代行サービスの浸透
技術や価格面などでの差別化が難しい業態であるが、ここに来て新業態の洗濯代行サービスが徐々に浸透してきている。家庭の洗濯物をターゲットとし、宅配便などを利用して専用バッグ1袋2~3,000円などで集荷する。そして洗濯の上、折り畳み、宅配便で送り返す仕組みで新たな顧客取込みを狙っている。
また、通常のクリーニング店では対応できない、シミ抜きなどクリーニング以外の付加サービスに特化した専門店なども注目を集めている。
(3)開業コストが抑えられ、投資回収がしやすい
クリーニングの取次店は特段の設備も要さず、開業コストも抑えられる一方で、立地などの利便性がより優先される業態でもあり、地元に密着した顧客基盤を構築できれば概ね安定した収入が見込め、投資回収がしやすい面がある。
ビジネスの特徴
クリーニング取次店は、主に洗濯施設を有するフランチャイズ(以下、FC)本部が展開するチェーンに加盟した上で、店頭での受取り、保管、引渡しに特化する業態であるFC本部からの手数料が売上となる。一般的に、手数料は各取次店売上高の20~30%程度である。店舗と洗濯施設が一体化した、零細な「昔ながらの」クリーニング屋に対し、FC傘下に入ることで一定の技術力を備え、価格面でも優位に立つことが可能となる。また、クリーニングは生活密着型サービスでもあり、住宅地に隣接した駅、スーパーマーケットなど商業施設内といった立地が極めて重要である。
開業タイプ
開業タイプとしては、FC加盟を前提とし、「新店型」と既存の他業種店舗の兼業として出店する「兼業型」に大別される。
(1)新店型
駅、商業施設内や商店街に10坪程度の店舗を開設。家賃負担は大きいが、近隣施設の集客力を背景に顧客獲得を狙う。同業店との競合は激しい。
(2)兼業型
既存の商店などに店舗を併設。既存店舗の活用により初期コストが抑えられる他、地元住民との取引基盤を擁している点も強みとなる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
クリーニング業法に基づき、都道府県の保健所へ届出をし、検査や確認を受ける。
必要書類は以下の通り。
- 開設届
- 構造施設の概要
- 施設の平面図
国家資格「クリーニング師」はクリーニング取次では不要、自店で洗濯処理する一般クリーニング店は事業所ごとに1名必要。
メニュー、商品の品揃えなど
FC傘下として出店する場合、サービスや料金体系はFC本部策定によるものに準ずることになる。クリーニング料金に関しては、ポイント還元やクーポン発行などで若干の実質値引きはある。しかしながら、業界全体で価格競争の末に下げ止まりをみせており、「洗濯代行サービス」など新業態を除き、過度な価格競争に巻き込まれることはないといえよう。ただし、価格競争はないものの、ワイシャツなどの目玉商品で来店動機をあおり、利益率の高い衣類や布団のクリーニングにつなげる仕組み作りなども重要である。
必要なスキル
国家資格「クリーニング師」はクリーニング取次では不要。その他、必要な資格はないが、衣料素材の多様化もあってクリーニング事故は増加傾向にあり、クリーニング取次のスタッフにはクレーム対応力を求められることとなる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【FCに加盟し、店舗面積33平米のクリーニング取次を出店する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
FCに加盟する事業者の売上高は、店舗売上×手数料となる。ここでは、FCの手数料25%を前提に、年間営業日数、1日平均来客数、平均客単価を以下の通りとして、店舗売上高を算出したうえで、開業者の売上計画を作成した。
b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率のうち売上総利益率については、小規模のクリーニング業においては、一般的に70~80%とされていることから75.0%としている。
※営業利益率については、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」の洗濯物取次業に分類される事業所の財務データの平均値を記載。
c.収益化の視点
クリーニング取次店がフランチャイズ本部から得る手数料は、一般的に店頭売上の20~30%ほどに設定されており、その利幅から人件費を含む店舗運営費を賄っていく。安定した経営を目指すべく売上を確保するには立地が重要であり、重い家賃負担は避けられない以上、いかに人件費を抑えていくかが鍵となってこよう。その点、既存の他店舗に併設する「兼業型」であれば、開業コストは看板などの店舗造作、初期宣伝費程度であり、人件費も既存事業と折半でき、損益分岐点を下げることが可能であるといえよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)