業種別開業ガイド

食材宅配サービス

トレンド

1.ニーズの高まりで続く異業種企業の参入

食材宅配サービスとは、カタログやインターネットで食材の注文を受け家庭に配達するサービスである。単身世帯、高齢者世帯、共働き世帯の増加などにより、ニーズは高まっている。従来の専門業者以外にもコンビニやスーパーをはじめとした多くの企業が本事業に参入している。小売業者だけでなく、ベネッセ、ワタミ、ニチレイといった他業種からの参入もある。

2.各社、差別化の方向へ

参入が多い当業界において、各社、自社の経営資源や強みを活かし、他社との差別化を図っている。たとえば、「オイシックス」は、調味料にこだわりをもち、厳選した調味料を味付けに使用しており、料理の味・おいしさにおいて、他者との差別化を図っている。

「おうちCO-OP」「コープデリ」は、運営元である生協のバイイングパワーを活かし、価格の安さで他者との差別化を図っている。

また、「らでぃっしゅぼーや」は、レシピ開発に力を入れており、短時間で調理可能なミールキットを充実させている。10分以内で調理可能なメニューも多く取り揃え、共働きで忙しい層などを取り込んでいる。

食材宅配サービスの特徴

食材宅配サービスで扱われる主な商品は、牛乳・パン・卵・豆腐や納豆などのデイリー食品、肉魚加工品、野菜、精肉・鮮魚、調味料、飲料、酒類、弁当・惣菜などである。

また、食材宅配サービスには、配送タイプや配送頻度によって、以下のような特徴がある。

<配送タイプ>

  1. 宅配業者へ配送依頼をするタイプ
    宅配業者へ配送依頼を都度する場合、自社で配送システムを持つ必要はないが、コストが割高となる。また、配送時間や配送地域にも制限が設けられてしまうというデメリットがある。
  2. 自社独自でスタッフを抱え、・配送を行うタイプ
    自社で軽トラックやバイクなどの軽車両を用いて、食材を宅配するタイプである。逐次宅配業者に依頼するよりもコストを抑えることができ、配送時間の制限もないが、特定貨物自動車運送業者としての管理業務が必要となる。また、配送地域も限定される。
  3. 物流会社と業務提携して物流を利用させてもらうタイプ
    特定の物流他社に配送業務を委託することを条件に業務提携を行うタイプである。配送時間や配送地域に関して融通がきくようになり、自社配送よりも運送管理コストを抑えられる。

<配送頻度>

  1. 定期的に産地直送品など旬の食材を届けるタイプ
    季節に応じて地域の特産食材などを配送するタイプである。一般に手に入りにくい希少食材や高価な食材を扱うケースが多く、富裕層が中心ターゲットとなる。
  2. 毎週または毎日、日々の食事の食材を届けるタイプ
    食材、半調理品、調理品を多頻度で届けるタイプである。多頻度であるため、宅配業者へ逐次配送を依頼していてはコスト高となってしまう。そのため、このタイプでは自社配送または物流会社との業務提携をしている企業が多い。

食材宅配サービス業態 開業タイプ

あらかじめコンセプトを定め、それに沿って開業タイプを選定することが重要となる。

開業タイプは基本的に、3タイプ(食材宅配タイプ、半調理品宅配タイプ、調理品宅配タイプ)あると考えられる。

(1)食材宅配タイプ
選んだ食材そのもの(野菜や魚、肉、日配品など)を届けるタイプである。スーパーなどが自店で販売している商品を宅配するケースが多い。ほか、一般に手に入りにくい希少食材や有機野菜など、特別な食材にこだわった商品を取り扱っている業者もある。
取扱商品としては、広範囲な食材を取り扱うタイプと、「米だけの取扱」など単品食材を扱うタイプがある。単品の場合、広範囲な食材を取り扱うタイプと比べオペレーションは楽であるが、購入間隔が空いてしまうため、黒字化するには一定数以上の顧客を必要とする。

自社で取り扱う食材を選定する際は、産地(生産農家)に赴き、どのように栽培されているのかを確認し、PRにも活かしたい。

(2)半調理品宅配タイプ
消費者が選んだメニューについて、下ごしらえが済んだ食材を届けるタイプである。ミールキットと呼ばれており、あらかじめ用意された献立レシピの中から、好きな献立(コース)を選んでもらい、必要な食材を必要な分量だけ届ける。利用者にとっては、調理時間が短縮できるメリットがある。

半調理品はパックした状態で配達する。半調理を下請けしてくれる食品工場もあるが、それなりの数がまとまらなければ受け付けてくれない。そのため、開業当初は自社で調理作業に取り組むケースが多い。

日々の献立については、消費者が魅力に感じるものを販売価格を考慮しながら考えたい。献立は、栄養士が栄養バランスを考えたものが多く、高齢者向け、糖尿病患者向け、栄養の偏りがちな単身赴任者向けなど、多様なメニューが揃っている。特に高齢者向けサービスは近年、利用者が増えている。

(3)調理品宅配タイプ
ほぼ完成した料理(加工食品)を、冷凍・冷蔵または保温された状態で届けるタイプである。料理は、電子レンジや湯煎で温めるだけの状態で提供される。

保温食品は、営業エリアは車で直接宅配できるエリアに限られるが、冷凍・冷蔵品は、遠隔地への配送が可能であり、地域を特定せずに利用者が見込める。調理に際し注意すべき点は、冷凍すると味や品質が大きく変わってしまう食品への対応である。調理テストを重ね、消費者が加熱したときにおいしく食べられる工夫や食材選びが必要である。日々の献立については、半調理品宅配タイプと同様である。

開業ステップと手続き

(1)開業のステップ 

(2)必要な手続き

食材に調理を加える場合は、飲食店と同様、「食品衛生法」に基づく営業許可が必要になる。調理加工しない場合でも、取り扱う食材に応じて、乳類販売業、食肉販売業、魚介類販売業など、販売業としての営業許可が必要となる。

また、自社で配送を行う場合は、特定貨物自動車運送業として、運輸支局長への届出が必要である。なお、都道府県の条例によっても規制がある場合があるので、事前に自治体にも確認をしておく必要がある。

メニュー・サービスの工夫

まずは、どの対象をターゲットにするかを決めることが重要となる。ターゲットは例えば、

  • 単身者
  • 高齢者
  • 共働き夫婦
  • その他一般家庭
  • 糖質制限や減塩など食事制限が必要な人
  • 食の安全にこだわりがある人

などに分けることができる。
ターゲットの趣向や月に支払える金額を想定して、メニュー構成や料金体系を考えていくことが必要である。

他社との差別化を図るためには、さらに、ターゲットを絞ったメニュー構成も必要だろう。たとえば、妊婦向け、幼児向け、育ち盛りの子ども向け、体を鍛えている筋肉を付けたい人向け、ダイエット中の人向け、アレルギーのある人向けなど、様々なニーズに対応できるメニューを用意していたい。

また、長期にわたって継続的に利用してもうらためには、新メニューの継続的な開発、季節限定メニューの提供なども求められる。

出入国管理法の改正により、法務省は今後5年間で最大34万5,000人の外国人労働者の受け入れを見込んでいる。このため、今後は在日外国人の利用者も増えることが想定される。国や宗教・文化などによる食事情の違いについても対応できるようにしておくべきである。

必要なスキル

  • 仕入ルートの確保
    サービスの売りである新鮮で安全な食材を安定的に調達する仕入れルートの確保が重要となる。農協や漁協、有機野菜であれば栽培に取り組んでいる農家との契約が必要となる。
  • 在庫管理能力
    過剰在庫を抱え廃棄ロスが出ないように、必要なだけの食材を調達し、無駄が発生しないようにする在庫管理能力が求められる。
  • 食や調理に関する知識、見識
    半調理品・調理品宅配タイプの場合、日々の献立を用意する必要があるため、調理に関する知識、見識が必要である。調理品宅配タイプの場合は、さらに調理技術も必要となる。半調理品の場合は、利用者が自宅で調理するため、その際に使うレシピなどもわかりやすく作成する必要があり、利用者が手間を感じずにおいしい料理を作ることができる配慮が必要である。栄養士や調理師が持つレベルの知識、見識を身に付けたい。
  • 営業力
    自社サービスを認知してもらうための営業も当然求められる。該当地域へのポスティングや新聞チラシでの告知、自社ホームページの開設はもちろん、Web広告の利用も検討すべきである。また高齢者向けサービスの場合は、地域のケアマネジャーから紹介を受けることも可能であり、そのような人脈作りも必要となる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

半調理品・調理品を扱う場合は、厨房設備が必要となる。

【参考】:35坪の店舗で食材宅配サービス(半調理品を自社配送するタイプ)を開業する場合の必要資金例

※配達用車両やバイクは、リースで調達することとする。

(2)損益モデル

■売上計画

店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。

(参考例)食材宅配サービス(半調理品を自社配送するタイプ)

■損益イメージ(参考例)

食材宅配サービス(半調理品を自社配送するタイプ)

人件費:従業員4名を想定
  • 開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)