ビジネスQ&A

顧客にPFOA非含有をどのように説明したらよいでしょうか。

2020年 4月 20日

当社は産業用の金属、樹脂材料や関連材料の卸商です。最近になりPFOAの非含有証明の要求が来るようになりました。
当社ではPFOAを販売してはおらず、また、サプライヤもPFOAを工程で使用していないと回答がありました。サプライヤ自身が調達している材料についてもできるだけ遡って調査をしてもらいましたが使用していないようです。
顧客にはPFOA非含有をどのように説明したらよいでしょうか

回答

PFOAは、POPs条約の附属書Aに収載されたことで、製造、輸入や使用ができなくなりました。しかし、当分の間、エッセンシャルユース(特定用途の除外)が認められており、廃絶されませんので、コンタミは否定しきれません。
日本では化審法、EUではREACH規則で規制します。
REACH規則は制限物質として、制限の基準は、「25ppb(parts per billion 1ppm=1,000ppb)以上の濃度のPFOA(その塩を含む)又は1,000ppb以上のPFOA類物質の一つ又は組み合わせ」です。
除外要件に「6原子以下の炭素鎖を有するフッ素化合物を製造する場合に不可避の副産物として生じる物質」があります。
BAT(Best Available Technology/ Techniques 利用可能な最良の技術」の原則により、その含有割合が工業技術的・経済的に可能なレベルにまで低減していると認められるときは、当該副生成物を第一種特定化学物質として取り扱わないこととしています。
EUでは、品質マネジメントシステムによるサプライチェーン全体で非含有を宣言することになります。

顧客には、この順法の仕組みを顧客に説明するようにします。

1.PFOAとは

PFOA(CAS No.335-67-1)は、有機フッ素化合物で、フッ素ポリマー加工助剤以外にも、親水性(水になじむ性質)と親油性(油になじむ性質)の両方もつことから、撥水剤、撥油剤、消火剤、フォトレジスト、塗料などに幅広く利用されています。
身近な用途では、調理器具焦げ付き防止表面処理剤や衣類の撥水剤があります。
PFOA規制が強化されたのは2019年4月29日~5月10日のPOPs条約の締約国会議(COP9)で、PFOAとその塩及びPFOA関連物質がPOPs条約の附属書A(廃絶)に追加することが決定されたことによります。
経済産業省のホームページで、決定された主な規制内容を解説しています。(注1)

  • 製造・使用等の禁止(以下の用途を除外する)
    • 半導体製造におけるフォトリソグラフィ又はエッチングプロセス
    • フィルムに施される写真用コーティング
    • 作業者保護のための撥油・撥水繊維製品
    • 侵襲性及び埋込型医療機器
    • 液体燃料から発生する蒸気の抑制及び液体燃料による火災のために配備されたシステム(移動式及び固定式の両方を含む。)における泡消火薬剤
    • 医薬品の製造を目的としたペルフルオロオクタンブロミド(PFOB)の製造のためのペルフルオロオクタンヨージド(PFOI)の使用
  • 以下の製品に使用するためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造
    • 高機能性の抗腐食性ガスフィルター膜、水処理膜、医療用繊維に用いる膜
    • 産業用廃熱交換器
    • 揮発性有機化合物及びPM2.5微粒子の漏えい防止可能な工業用シーリング材
  • 送電用高圧電線及びケーブルの製造のためのポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)の製造
  • Oリング、Vベルト及び自動車の内装に使用するプラスチック製装飾品の製造のためのフルオロエラストマーの製造

UNEPのCOP9の報告書には詳細が記述されています。(注2)
附属書の発効は、附属書への物質追加に関する通報を国連事務局が各締約国に送付してから1年後になります。この通知は2019年12月3日に発行されました。(注3)
日本の化審法は2020年12月頃に改正される見込みです。

2.EUの規制

EUでは、2020年2月時点では、REACH規則の附属書XVII Entry 68で対象物質を次のとおりとしています。

  • PFOA
  • PFOAの塩
  • 化学式C7F15(本来数字は下付き文字であることにご留意ください)が別の炭素原子に直接結合した直鎖または分岐ペルフルオロヘプチル基を有する任意の関連物質(その塩およびポリマーを含む)
図1:PFOAの塩
図1:PFOAの塩

2020年7月4日以降、製造に使用してはならない、または市場に出荷してはならない:
(a) 別の物質の成分
(b) 混合物 
(c) 成形品

基準は、「25ppb(parts per billion 1ppm=1,000ppb)以上の濃度のPFOA(その塩を含む)又は1, 000ppb以上のPFOA類物質の一つ又は組み合わせ)です。
除外要件に「6原子以下の炭素鎖を有するフッ素化合物の製造の不可避の副産物として生じる物質」があります。

なお、Entry 68の規制は削除され、規則2019/1021(EU POPs規則)に移動します。(注4)

REACH規則の附属書XVII Entry 68の規制(EU POPs規則)は、半導体のフォトリソグラフィ工程又は化合物半導体のエッチング工程などのエッセンシャルユース(特定用途の除外)が認められており、当分の間は、PFOAが流通することになります。エッセンシャルユースが全くない廃絶であれば、コンタミなどのリスクはないのですが、エッセンシャルユースが認められていますのでコンタミが危惧されます。

また、「不可避の副産物」の解釈や対応に戸惑いがあります。
PFOAはPOPs条約の附属書A物質で、日本では化審法の第1種特定化学物質として規制されます。POPs条約の附属書A物質は「廃絶物質」で、特定の要件のエッセンシャルユース以外は、濃度0%が要求されます。
しかし、現実は不純物、副生やコンタミでの混入がないことをどのように順法証明をするかが問題になります。日本などのアジア圏の諸国は、企業の自主的対応より国が判定をする傾向があります。

化審法の第1種特定化学物質については、BAT(Best Available Technology/ Techniques利用可能な最良の技術」の原則により、その含有割合が工業技術的・経済的に可能なレベルまで低減していると認められるときは、当該副生成物を第一種特定化学物質として取り扱わないこととしています。
個々の物質について、審議会で検討されます。(注5)
経済産業省のホームページでは、「BATは、副生される第1種特定化学物質の低減方策と自主的に管理する上限値を設定し、厚生労働省、経済産業省、環境省に対して事前確認を受けた上で報告した場合、副生される第1種特定化学物質が上限値以下で管理されている限り、化審法の第1種特定化学物質として取り扱わないこととしております。」としています。(注6)

貴社の状況から、PFOAのコンタミの可能性は極めて低いと思えます。
BATについてはEUと日本の考え方が違うように見えますが、根源の目的は同じですので、PFOAの非含有宣言も同様の厳しさが求められます。
PFOAの含有量の分析試験法の公定法は告示されていませんが、LC-MS/MS(タンデム)になる可能性があります。LC-MS/MSの測定法は測定機関が少なく、高額になる可能性があります。
分析試験での実証でなく、品質マネジメントシステムの運用によりサプライチェーン管理を確実に行うことが肝要です。顧客には、この順法の仕組みを顧客に説明するようにします。

引用情報等

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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