ビジネスQ&A

検査工程で使用する天然花崗岩製の石定盤もRoHS(II)指令の対象となるのか。

2020年 2月18日

天然花崗岩製の石定盤を使って部品の検査を行っている会社です。検査に用いる石定盤がRoHS(II)指令に対応しているかどうか、問合せを受けています。
この石定盤がもともと作った時点でRoHS(II)指令に対応しているかどうかは、石定盤のメーカーにはまだ問合せできていません。

石定盤は硬く耐摩耗性のある石ですが、削れて、微量の石粉が舞い付着するケースなど、検査に用いている定盤がRoHS(II)指令の規制に引っかかる可能性はゼロではありません。
天然のものはRoHS(II)指令の対象外、ということであれば、そもそも石定盤のメーカーに問合せせずに済むが、ルール上どう考えるべきなのか。

また、仮に定盤そのものはRoHS(II)指令の規制の対象外、あるいは規制に対応できていたとして、検査の過程で定盤にRoHS(II)指令の規制対象物質が付着する可能性など、そのあたりのリスク管理は、他の企業では、具体的にどのようにやっていることが多いのでしょうか。

回答

RoHS(II)指令は、最終製品となった電気電子機器をEUの輸入者が上市(販売)するときに適用され、電気電子機器の構成部品に対象規制10物質(鉛・水銀・カドミウム・六価クロム・PBB・PBDE・DEHP・BBP・DBP・DIBP)が含有していないことが要求されます。
RoHS(II)指令のFAQでも、製造工程での使用薬剤について規制しないとしています。
一方、REACH規則で登録が免除される天然物については、RoHS(II)指令は免除しておらず、意図的、非意図的であっても、有償、無償提供に拘わらず、対象規制10物質は含有させてはなりません。

製造者の自社で使用する設備(製造工程使用設備)は適用されませんが、一般的な購入材料の対象規制10物質の非含有の証拠は、整合規格EN50581の手順で決定します。
整合規格EN50581の手順では、「サプライヤの信頼性」と「調達する部品などに10物質が含有している可能性」から、適合性確認の証拠を決めます。
花崗岩の石定盤には、「10物質が含有している可能性」は極めて低いとして、花崗岩の石定盤であることをメーカーカタログや納品書で確認し、適合性確認の証拠とすることができます。
また、検査作業で石定盤が削れて付着する可能性も極めて低く、事実上無視できます。

一般的なリスクは、「信頼性」や「可能性」から決定するのですが、継続的に購入している場合は、最初に評価したことが継続されているかが大きなリスク要素です。
リスクを継続的に管理するには、仕組みが必要です。この仕組みをCASと言いますが、ISO9001などのマネジメントシステムにRoHS(II)の要求事項を盛り込み運用します。
順法リスク管理は、ISO9001などの仕組みで運用します。

ご質問の法的義務の視点で、論点を4項目に整理してみます。

(i) 自社の検査工程に用いる石定盤にRoHS(II)指令が適用されるか。

RoHS(II)指令(指令2011/65/EU)(注1)第2条(適用範囲))で「附属書Iに定めるカテゴリに入る電気電子機器に適用する」としています。

RoHS(II)指令などのニューアプローチ指令(群)のガイドとして、“Blue Guide 2016”(注2)がEU委員会から発行されています。
Blue Guide 2016の2.1項で「製品は上市された時点で、法的要求を満たさなくてはならない」としています。「上市」の要件は幾つもあるのですが、その一つに「輸入者が卸店、小売店や最終使用者に有償、無償を問わず引き渡す」ことがあります。端的には、輸入者が販売するときにRoHS(II)指令が適用されます。

要約すると、RoHS(II)指令は、電気電子機器をEU輸入者が販売するときに適用されますので、電気電子機器(含む その構成部品)が対象となります。

RoHS(II)指令のFAQ(注3)のQ9.7(物質規制は、生産工程に適用されるか)があり、回答は「適用されない。RoHS(II)指令は完成した電気電子機器に適用される。従って、完成した電気電子機器に最大許容濃度を超える物質を含まなければ、その規制物質を生産工程で使用できる」(部分意訳)となっています。

卑近な例では、電気クロムめっきは、めっき液に六価クロムを使用しますが、めっき後に水洗して六価クロムを除去します。
六価クロムの残渣が0.1重量比%未満であれば、適合となります。

貴社の検査工程に用いる石定盤ですと、多くの場合は、精密機械加工部品の精密測定などに使用されていると思います。
通常の検査作業では、石定盤の破片の付着などの可能性は極めて少ないと思えます。また、機械加工部品ですと、後の工程で洗浄などが行われますので、付着があったとしても、物理的付着は除去されると思えます。

通常の検査作業では、石定盤の破片の付着まで、深く考えなくともよいと思います。
逆には、破片が問題になるほどであれば、石定盤の表面が粗れることになり、精密検査治具として使用できなくなります。通常の品質管理でよいことになります。

(ii) 天然のものはRoHS(II)指令の対象外としてよいか。

一般論として、RoHS(II)指令の対象規制10物質(鉛・水銀・カドミウム・六価クロム・PBB・PBDE・DEHP・BBP・DBP・DIBP)は、意図的、非意図的を問わず、最大許容濃度(カドミウム 0.01重量比%(100ppm)、その他 0.1重量比%(1,000ppm))未満でなくてはなりません。
その含有由来も「天然」「人工」も関係なく、最大許容濃度が適用されます。
ただ、天然由来や不純物として考慮すべきなどで、最大許容濃度を0にしておらず、附属書IIIや附属書IVで、用途の除外を認めています。

なお、REACH規則(規則1907/2006)は附属書Vで、鉱石などの天然物は化学的処理がされていなければ登録対象外としています。

(iii) 石定盤のメーカーに問合せもしないで自社で判断してもよいか。

生産工程に使用する設備や使用薬剤等は、RoHS(II)指令は直接的には適用されません。
一般的に、電気電子機器に組み込む部品などの適合性確認(10物質が最大許容濃度未満である)は、整合規格EN50581:2012の手順で行います。
整合規格EN50581での適合性確認は、4.3.2項(必要な情報の決定)で「サプライヤの信頼性」と「調達する部品などに10物質が含有している可能性」から、適合性確認の証拠を決めるとしています。この「信頼性」や「可能性」は、自社で決めることができます。

要、不要は別として、石定盤の適合性の確認をするとした場合は、「10物質が含有している可能性」が重要となります。
花崗岩(御影石)の成分は、SiO2、Al2O3、K2O、Na2Oなどで、RoHS(II)指令の重金属(鉛・水銀・カドミウム・六価クロム)の含有の可能性は低く、有機物(PBB・PBDE・DEHP・BBP・DBP・DIBP)の含有の可能性はないと考えられます。
花崗岩定盤には、JIS B 7513準拠の天然石精密定盤であることをメーカーカタログ、納品書等で分かるのであれば、メーカーカタログ、納品書等が適合性確認の証拠となります。

(iv) 規制対象物質が付着する可能性などのリスク管理はどうすべきか。

RoHS(II)指令の適合性確認の証拠は、リスクに応じて決定します。
リスクは前記の「信頼性」や「可能性」から決定するのですが、継続的に購入している場合は、最初に評価したことが継続されているかが大きなリスク要素です。
このため、整合規格EN50581は適合性確認の証拠は、4.3.5項(技術文書のレビュー)で、定期的にレビューすること、設計変更などが行われた場合もその影響をレビューすることを求めています。

付着(コンタミ、移行)は、作業方法で状況は変わります。このため、日本企業は、定期的見直しと4M(Man(作業者)・Machine(設備)・Material(材料)・Method(作業手順)変更時に見直しをしている例が多くあります。

RoHS(II)指令第7条(製造者の義務)(e)項で「製造者は、適合を維持するために、シリーズ製品に対する手順を整備することを確実にする」としています。
このことは、ISO9001の第8項(運用)のような設計を含む製造管理手順を制定する必要があります。

RoHS(I)指令の時期に規制当局の順法ガイド(RoHS Enforcement-Guidance Document-)(注4)で、CAS(Compliance Assurance System:順法保証システム)の構築を要求しています。大手企業には、通常のマネジメントシステム(例 ISO9001)に、RoHS(I)指令の要求条項を取り込んだCASを求めています。
RoHS(I)指令のガイドですので古いのですが、RoHS(II)指令でもその基本的な考え方は踏襲されていると思います。

電気電子機器より、含有化学物質規制が厳しい「食品包装材」では、RoHS(I)指令のガイドより厳しく規則2023/2006(Good Manufacturing Practice for materials and articles intended to come into contact with food:GMP 食品と接触することを目的とした材料および製品の適正製造基準)で、開発段階の材料選定から製造の各段階での適正な管理を要求しています。

化学物質の混入のような目に見えない品質管理は仕組み(システム)で、保証することになります。多くの企業は、RoHS(II)指令のCEマーキングの技術文書は、CASの概要を説明していますので、ISO9001にRoHS(II)指令の要求を盛り込んだCASの構築をしています。

引用情報等

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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