ビジネスQ&A

賞与支給日に在籍しない従業員の賞与は払わなければいけませんか?

私どもの会社では、いままで賞与は6月末に在籍従業員にのみ支払ってきました。しかし、5月末に退職した従業員が、「1月~5月までの5カ月分の賞与を支払うべきだ」と言ってきました。どのように対応すれば良いでしょうか?

回答

就業規則などの記載内容によります。通常、賞与は年2~3回、会社の実績に応じて支払われるべきものですので、基本的には賞与支給日に在籍しない従業員に支払う必要はありません。しかし、年俸制などの契約をしている場合は、支払い義務が生じる可能性があります。

賞与は原則就業規則で取り決める事項となっています(労働基準法第89条)。そして、賞与を規定している会社の多くは、6月および12月の年2回、会社の実績に応じて、在籍する従業員へ、勤労に対する手当として支給すると取り決めをしています。賞与の算定対象期間の全部または一部を勤務したにもかかわらず、賞与支給日に在籍しない従業員への賞与支給は、就業規則などに「賞与支給日に在籍しない者には賞与を支給しない」という支給日在籍要件がある場合には、定めにより支給しないことが認められています。

【退職者への賞与支払の基本的な考え方】

質問のように5月末に退職した場合、賞与支給日には在籍していないのですから、支給日在籍要件を規定しているのであれば、賞与を支払う必要はありません。一部に、「賞与は給与の一部であるから、在籍期間分支払うべきである」との考えを主張し、支払いを請求するように進める相談窓口もあるようです。しかし、判例も支給日在職要件を有効としています(大和銀行事件 最高裁一小 昭57.10.7判決)。ですから、先のような主張があった場合、その要望に応じる必要はありません。

賞与の支給に際して、注意が必要な場合は、次のようなときが考えられます。

【退職者への賞与支払で留意するポイント】

1.年俸制の契約をしているとき

年俸制は、年間に支払う総額を便宜上、月割りなどに振り分けたものと考えられます。つまり、年額を20で除し、毎月に1ずつおよび6月と12月の賞与時に4ずつ支払うと取り決めている場合などです。年俸制では、給与・賞与の名前は考慮せず、年間に支払う全額を賃金として考えますので、期間に応じた差額の支払い義務が生じます。

2.就業規則などに、別途支給基準が設けられているとき

たとえば、5月末在籍従業員に対し、6月10日に賞与を支給すると就業規則で決めている場合は、賞与を支給する必要があります。5月末ですでに賞与を受給する権利が生じているのですから、会社には退職したか否かにかかわらず、賞与相当額を支払う義務があります。

3.会社都合解雇に相当する退職のとき

形式的には退職となっていても、会社の都合が強く反映され、従業員が5月末をもって退職せざるを得なくなった場合、賞与を日割りして支払う必要が生じることがあります。権利の濫用(労働契約法第3条)がなければ、賞与を受給できた可能性が高いと思われるケースでは、その分の責任を追及されることがあります。

これらのケースに当てはまらないときは、在籍しない従業員には原則賞与を支払う必要はありません。まず、規程類の確認をしてみましょう。

回答者

社会保険労務士・中小企業診断士
大塚 昌子

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