売上アップ取り組み事例集

顧客単価をアップする。中小・零細店舗の大型店対策(事例8回目)

文:若林敏郎(中小企業診断士)

売上減少の過程

一般的に、競合店の出店によって、最初は「客単価の低下」により売上が減少し、徐々に「顧客数が減少」していきます。客単価は買上点数が減り、売上が下がり始めると、「価格のせいでお客が来ない」という不安から、どうしても価格を安く設定してしまいがちです。

そのため商品単価が落ち、さらに客単価の落込みが大きくなり、売上の大幅な減少となっていくのです。

このことは、当店においても同様でした。大型競合店の出店によって、価格競争が激しい一般食品の購入率が落ち、ロスリーダーの集客商品が多くなることにより商品単価が落ち、既存顧客の来店頻度が低下し、売上の減少となりました。

しかし、逆に、この「買い上げ点数を上げる」努力をすることにより、「顧客のご愛顧が高く」なり、「来店頻度が高まり」、その結果、「顧客数の増加」が期待できると考えました。

そこで、前回(第7回 既存顧客数をアップする)は客数を上げる対策を紹介しましたが、今回は客単価を上げる対策を紹介します。

さて、前回もご紹介しましたが、もう一度確認してみましょう。
売上の構成要素は以下の通りです。

売上=客数×客単価
客数=新規顧客+既存顧客-流失顧客
客単価=商品単価×買上点数
売上=(新規顧客+既存顧客-流失顧客)×(商品単価×買上点数)

売上の構成要素

「客単価」は以上の式からもわかるように、販売商品の「商品単価を上げ」「買上げ点数を上げる」ことにより増加します。

しかし商品単価を上げるときは慎重に行わなければなりません。「付加価値」を付けることなく商品単価を上げると、販売点数は下がり、顧客はやがて競合店に流れるからです。

そこで当店では、まず「1.買上率のアップ対策(販売点数のアップ)」、後に「2.商品単価のアップ対策」を試みることにしました。

1.買上率のアップ対策(販売点数のアップ)

(1)差別化商品の品揃えとフェイシング(陳列量)の増加

売上を計る基準として"売上金額"が一般的ですが、売り上げを"点数"で把握することも重要となります。

これは、例えば、キャベツを購入するときに、「キャベツ100円買わなきゃ」といったように金額で考える買い方ではなく、キャベツが1個必要だ、という点数による買い方が一般的なためです。

このように、顧客の購買は金額だけではなく点数でも考えられ、買い上げ点数は顧客の需要実態を表します。

一般に単価が上がると、買い上げ点数は落ちます。しかしニーズが高い商品については商品単価が上がっても買い上げ点数が伸びています。このように買い上げ点数を把握すると顧客の好みやニーズの移り変わりの発見ができます。そして商品の差別化につながっていきます。

当店の仕入れ先に近隣の和菓子メーカーがありますが、原料などの高騰により仕入原価が上がりました。売れ筋商品であったので、当初は価格を据え置きましたが、再度の原価アップにより、やむを得ず小売価格を20%ほど値上げしました。しかし、陳列量を大きく拡げた結果、売り上げ点数は下がらないばかりでなく、美味しい和菓子と評判になり、点数は大幅アップとなりました。

(2)エンド陳列の変化

当店の顧客はほとんどが来店頻度の高いリピート顧客です。したがって来店頻度を上げるためには常に「売り場に変化」が必要となります。

変化がない売り場はお客さまが来店してくれません。お客さまは常に何か新しいものに興味があるからです。

当店はわずか50坪の売り場ですので、エンド陳列の一部を変えただけでも売り場の雰囲気が変わります。大型店のように500坪の売り場ではこういうわけにはいきません。

レイアウト変更によりゴンドラエンドの陳列箇所を増やしました。

このため、棚什器の一部を取り除かなければならず、陳列スペースが減ってしまう恐れはありましたが、旬の商品を中心とした季節展開で関連販売も可能となり、点数のアップにつながりました。このエンド陳列箇所を増やしたことによりお客さまの回遊性が増したのか、店奥の「死に場所」の効率も良くなりました。

(3)地元の学校や町内会イベントの把握

店舗の廻りの学校や幼稚園の運動会や遠足、町内会の夏祭り、子ども会などのイベントをパート社員の協力を得て日程を把握しました。陳列エンドに 『運動会応援セール』を展開し普段は販売点数がそれほど高くない商品の点数アップにつながりました。

イベントと連動した売り場づくりの結果顧客との共通の話題ができ、新たな来店を促すことにもつながりました。

2.商品単価のアップ対策

長引く不況や競合店の出店で、顧客単価は下がる傾向にありました。一方では、原料価格の高騰や、需給状況の変化により仕入原価が上昇し、商品単価のアップは避けて通れない状況でした。しかし、できる限り同一商品の値上げによる商品単価のアップはせず、付加価値を付けた商品単価のアップを図りました。

(1)大量パック商品の開発

昔からの販促手段に「薄利多売」がありますが、この"お得感"を刺激するパック商品を、従来のパック商品に加え販売することにしました。たくさん買っていただいた分、価格でサービスしますという作戦です。

安くなるからといってなんでも大量販売することは無駄が生じる事でお客さまに不満が残ります。

基本的には冷凍保存が可能なステーキ用牛肉や使用頻度が高いひき肉、豚のこま切れ、鮭の切り身、などに限定しました。

これらの商品には、簡単ながら、メニューを提案したり、保存方法についても掲示し、お客さまが購入した商品が無駄にならない配慮もしました。これら大量パック商品についてはもちろん買い上げ点数は下がりましたが、販売単価アップにより売上高の増加につながりました。

大量パック商品の販売は当初目的にはしていませんでしたが、近隣の飲食店など新しいお客さまを増やす事にもつながりました。

(2)商品価値の見える化

食品はおいしい、甘い、など実際に食べればわかりますが、見た目で価値がわかればお客さまには選択し易く、価格競争に巻き込まれません。

価格訴求と産地表示だけではなく、商品特徴を掲示するようにしました。

詳しくは、お悩み相談第9回「キャッチコピーで商品価値を解りやすく伝えよう。」をご覧いただくとしますが、この「価値の見える化」の手段としてPOPによるキャッチコピーを添付することにしました。

その結果、高級たまごや新さんまなど、商品単価アップだけではなくPOP添付商品の買い上げ点数は大きく伸びました。

POPの効果は単に「商品価値の見える化」にとどまらずパート社員のやる気アップにつながりました。自分の考えたキャッチコピーにより販売点数が伸び始めたからです。近々「キャッチコピーコンテスト」を実施する予定です。

以上、買い上げ点数アップ、商品単価のアップを目的とした対策を実施しましたが、これら二つの対策は、それぞれに相乗効果が表れ点数アップ、商品単価アップの増加だけでなく顧客数の増加にもつながっていきました。

掲載日:2012年3月27日