業種別開業ガイド
Liver(ライバー)
2022年 3月 9日
トレンド
(1)ライブ配信コンテンツの市場は拡大傾向
2020年7月に(株)CyberZ、(株)OEN、(株)デジタルインファクトが共同で実施した『国内デジタルライブエンターテイメント市場に関する市場調査』によると、国内デジタルライブエンターテイメント市場の市場規模は2020年に140億円に達し、翌2021年に前年比約2.2倍の314億円までに急拡大すると予測されている。
また、国外をみると、2021年5月の新華社通信の『中国でライブ配信が国民的人気博す、20年の利用者6億人超』という記事によれば、中国における市場規模は2020年に1,930億3千万元(記事時点で1元=約17円、日本円で約3兆2,815億1千万円)と今後も成長が期待される。
(2)新型コロナウイルスの影響によるデジタル化の進展
新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛による「巣ごもり消費」の拡大で、従来通りのリアルでのライブ開催が難しくなったことから、大型音楽アーティストなどによる大規模なライブコンテンツを中心にデジタル化による収益獲得の取組が進められている。
一方でライブコンテンツのデジタル化に関するノウハウを蓄積している事業者は少なく、急増した需要を満たせていないのが、今後の課題の1つとなっている。
(3)ライブコマースという新たな販売チャネル
また、既存の対面型の販売チャネルが新型コロナウイルス感染症の影響で行いづらくなってきたことを背景に、ライブ配信での商品やサービスを販売するライブコマースという新たな販売チャネルも登場している。
ライブコマースではライバーの視聴者やファンをそのまま購入者に取り込むことができるため、販売力が非常に高く、対面型の販売チャネルと同様のリアルタイムかつ双方向のコミュニケーションをとることが可能である。
特に中国ではアリババなどの大手ECプラットフォームのライブツールの開設やTikTokなどのコンテンツプラットフォームのEコマースへの参入など、プラットフォーム主導でライブコマース事業は広がっており、更なる市場開拓が見込まれている。
ビジネスの特徴
ライバーとはライブ配信アプリを活用して配信収入や広告収入を得る個人、グループの総称である。人気ライバーであればプラットフォーム側の公式ライバーとしての収入を得るほか、プラットフォーム内の投げ銭収入で数千万円超に及ぶこともある。初期投資が不要であるなど開業に際し有利な点もあるが、安定した収入の確保が難しいことから副業としてライバーを行っている場合も多い。
また、専業ライバーとなるとプラットフォーム間に芸能事務所が介在し、マネジメントを行うことも多く、ある程度の安定収入が得られるケースもみられる。
その他、収入源としてではなく、プラットフォーム側からのライバーへのインセンティブ(オーディションやテレビ番組への出演等)を期待して、新人アイドルなどが活用していることもある。プラットフォーム側からのライバーへのインセンティブは、ライバーの人気に応じて付与される。
なお、ライバーとしての報酬形態は各プラットフォームによって異なるが、主な収入は以下の図のとおりである。
開業タイプ
個人としての開業は、個人として独自の配信チャンネルを開設。独自の切り口のもとライブ動画を配信し、地道にチャンネル登録者の増大を図る「新規参入型」の一択となるが、参考としてその他の開業タイプを以下に記載する。
(1)副業型
副業として、配信チャンネルを開設するケースである。少ないリスクで開業することが可能である。
(2)兼業型
本業を広告するための手段、本業へ顧客を誘導する手段としてプラットフォームを利用するタイプである。新人アイドルなどの芸能系から弁護士や税理士、パーソナルトレーナーまで、幅広い業種がみられる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
ライバーとして個人で開業する場合に、公的機関への許認可といった特別な手続きは不要である。
ただし、収益化には配信を行うプラットフォームごとに配信時間や視聴者数などの審査基準があり、プラットフォームごとにそれらの審査基準を満たす必要がある。
配信内容とマッチしたプラットフォームの選択
ライブ配信にも様々なジャンルがあるが、プラットフォームごとに客層やマッチするジャンルは異なるため、新規参入する際には、自身のチャンネルのコンセプト設定を明確にした上で最適なプラットフォームを選択することが必要となる。
特にYouTuberのように広告収入がメインの動画配信者とは異なり、ライバーは基本の収入源は視聴者からの寄附であるため、視聴者の囲い込みが重要である。
必要なスキル
ライバーになるには特別な資格などは必要なく、動画配信者と異なりライブ動画の配信に際して編集作業も発生しないため、スキル面でのハードルは高くない。
なお、2021年8月に(株)KIRINZがリリースした『ライブ配信に関する調査』によれば、ライバーがライブ配信で身につけたスキルとしてコミュニケーション力やトーク力、自己PR力などが挙げられており、視聴者を引き付ける人間的魅力が重要といえよう。
特にライブ配信は視聴者にとってただ見るだけの媒体ではないため、双方向のやり取りを楽しめるようにギフトに対して細かく反応することやコメントへの返答をまめに行うことなど、丁寧な対応で継続的に視聴するファンを獲得することが収益化には必要になる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【新規参入型、事務所は構えず自宅で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上想定
「17 Live(イチナナライブ)」を運営する17LIVE株式会社のプレスリリースによると、単月で6万円以上の報酬を得ているライバーは4,206名、単月で3万円以上の報酬を得たライバーは6,701名と公表されている。なお、「17 Live」の登録者数は、2020年12月末時点で32,000人超となっている。
これらの情報から、単月で3万円程度の報酬を得ているライバーを想定し、売上モデルを作成した。まずは副業として開業するのが妥当であると思われる。
b.損益イメージ
※標準財務比率のうち、売上総利益率は該当する業種の財務データがないため、推定値を掲載。営業利益率は、映画・ビデオ制作業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
配信内容や方向性にもよるが、ライブ配信という性格上、原価等の負担は軽く売上総利益率は高位となり、その粗利から主に人件費を賄っていくこととなる。上掲の損益モデルのように開業当初は視聴者も多くはなく、得られる投げ銭が伸びないため、大きな収入は期待できない。
したがって、収入は一般的なサラリーマンの給与水準に及ばない状況が当面続くことになるが、特別なことをしない限り経費が掛かるわけでもないためリスクは少ないといえよう。視聴者のニーズを捉え、視聴者の囲い込みに成功すれば、年収を大幅に増やすことも夢ではない。
人気商売であるため、必ず視聴者に好かれるような方法はないが、「素の状態で好かれるような人間性」や「常に努力する姿勢」、「視聴者を飽きさせない高い更新頻度」などは、視聴者の囲い込みには必須事項であるだろう。
なお、年収は、上位クラスのライバーで1.000~5,000万円、中位クラスで100万円~1000万円程度といわれている。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)