業種別開業ガイド
ひよこ鑑定士
2022年 1月 7日
トレンド
(1)有資格者数は少なく、難易度は高め
ヒヨコ鑑定士は、主に孵化したばかりの鶏のヒナの性別を判定する専門職で、正式名称は「初生雛(しょせいびな)鑑別師」といい、公益社団法人畜産技術協会が運営管理する日本独自の民間資格である。農林水産省の広報によると、2016年時点での有資格者は全国で183名(国内登録者117名)となっている。
資格取得に至るまでにはいくつかの段階があり、まず同協会の「初生雛鑑別師養成所」に入所して養成講習を受講する必要がある。入所条件は「満25歳以下で、高等学校卒業または同等以上の資格保有者」かつ「身体強健で視力1.0以上(矯正可)の者」となっている。入所試験に合格した者は5か月間の講習を受けたのち、各地の孵化場に派遣され、研修生として1~3年間実務に携わる。資格認定には予備考査に合格し、さらに高等鑑別師考査に合格しなければならない。合格率は予備考査が約39%、高等鑑別師考査が約60%と言われている。また、養成期間中にかかる費用は100万円以上とされている。
(2)海外でのニーズが高い
日本人のヒヨコ鑑定士は鑑別の正確さとスピードに定評があり、海外でも高い評価を得ている。現在は日本国内よりも海外で就業するケースが多く、ベルギー、オランダ、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国やニュージーランドなどでニーズが高いとされる。公益社団法人畜産技術協会では、毎年1回「全日本初生雛雌雄鑑別選手権大会」を開催しており、全国各地から集まったヒヨコ鑑定士が技術を競い合うなど、鑑別技術の向上に取り組んでいる。
(3)安定した消費を背景に、鶏卵生産量は増加傾向
鶏卵の国内消費は概ね安定して推移しており、日本養鶏協会によれば、国民1人当たりの消費量は年間338個で、年間372個のメキシコに次いで世界第2位、生産量については、2030年には約271万トンになると見込まれている。
農林水産省のデータでも、2020年の鶏卵生産量は263万2,882トンと4年連続で260万トンを超え、史上2番目に多い生産量となった。
このように安定した国内需要を背景に鶏卵生産量は増加傾向で推移するものとみられ、ヒヨコ鑑定士にとっても追い風となるものと考えられる。
(4)動物愛護の高まりにより孵化前の鑑別技術
一方、ヨーロッパでは動物愛護の観点から卵を産まない雄のヒナの殺処分を禁止する声が高まっている。ドイツでは2022年に殺処分禁止が法制化され、フランスでも同様の動きが進んでいる。こうした状況を背景に、従来の孵化したヒナの鑑別に代わって注目されているのが、孵化前の卵の段階で鑑別を行う技術である。すでに2016年には卵に赤外線レーザーを照射して撮影した画像による鑑別技術が開発され、近年では卵から採取した液体による鑑別も一部で行われている。こうした技術が広まることで、今後ヒヨコ鑑定士によるヒナの鑑別ニーズが減少する可能性もある。
ビジネスの特徴
養鶏業は、卵を生産する採卵鶏の飼育または鶏肉を生産する肉用鶏の飼育に大別され、概ね以下のような流れとなっている。
▼種鶏育成・種卵生産:採卵または肉用の用途に応じ、雛の親となる種鶏を生産する
▼孵卵・孵化:種鶏が生んだ種卵を孵化させ、雌雄鑑別やワクチン接種などを行う
▼育雛・育成:一定の大きさになるまで雛を飼育し、養鶏場に出荷する
▼養鶏・採卵:成鳥になるまで育て、卵や肉を生産する。
ヒヨコ鑑定士は、主に種鶏場内の孵卵場、孵化場と呼ばれる場所で、種鶏が生んだ種卵から孵化したヒナの雌雄鑑別を行う。
報酬は出来高制であり、最近ではヒナ1羽当たり4円~5円が相場と言われる。平均的に1羽にかける時間は約3.5秒で、1時間で約1,000羽を鑑別する。また、その鑑別率は、98~100%と高い正確性が求められる。
開業タイプ
(1)個人事業主として開業
全日本初生雛鑑別師協会に登録すると、孵卵場を持つ国内外の養鶏業者へ派遣紹介される。そこで個人事業主として契約を結び、鑑別数に応じた報酬を得る。
移動用の自動車があれば事務所や設備投資は不要。資格さえ取得すれば個人事業主として開業できる。
また、繁忙期と閑散期があり、仕事の量やペースを自分でコントロールしながら、空いた時間に副業をすることも可能である。
自由度の高い働き方であることや海外で働けることに魅力を感じて、鑑別師を志す人が多い。
(2)法人として開業
ヒヨコ鑑定士は養鶏業の中のごく限定された業務に特化した技能資格であり、その資格単独で法人として開業することは難しい。可能性として、ヒヨコ鑑定士の仕事場を含む種鶏孵卵場の経営が考えられるが、開業にあたっては養鶏全般についてさらに幅広い知識や経験が必要となる。また、用地や設備、雇用など初期投資の面でハードルが高い。
開業ステップ
(1)開業のステップ
個人事業主としての開業ステップは下記のとおりである。
(2)必要な手続き
イ.「全日本初生雛鑑別師協会」への登録
高等鑑別師考査に合格し、資格を取得したら「全日本初生雛鑑別師協会」に登録する。
ロ.開業手続き
個人事業主として開業する場合は、開業届と青色申告承認申請書等を税務署に、個人事業開始申告書を都道府県税事務所に提出する。
鑑別の重要性
養鶏場では飼養管理やコストなどの観点から、孵化場から購入するひよこの性別を事前に把握しておく必要があり、ヒヨコ鑑定士の鑑別率は孵化場の信頼に関わる重要ポイントといえる。ヒヨコ鑑定士が行う鑑別は肛門鑑別法と呼ばれ、オスとメスの肛門の形状の微妙な違いを見分けるものだが、個体差もあるため判別がしづらい場合もある。経験を重ねる中で自分なりの感覚や判断基準を磨き、鑑別率を100%に近づけることによって、ヒヨコ鑑定士としての評価が高まる。
必要なスキル
ヒヨコ鑑定士は、平均して1時間に1,000羽以上のひよこを鑑別できるスピードに加え、鑑別結果に100%近い正確さが求められる。ひよこの数によって作業が長時間に及ぶこともあり、持続力と集中力が必要である。
また、ひよこはデリケートな生きものであり、養鶏業者にとっては大切な商品であるため、鑑別時にダメージを与えないよう細心の注意を払うことが求められる。
仕事場は市街地から離れた場所がほとんどであり、遠方の派遣先へ出向く可能性もあるため、普通自動車運転免許は必須である。また、海外で就業する場合には日常会話レベルの語学の習得も必要である。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
孵卵場を持つ国内外の養鶏業者へ派遣紹介され、そこで個人事業主として契約を結び、鑑別数に応じた報酬を得るという業態の性格上、特に事務所などを開設しての開業は考えづらいため、特段の開業資金は必要としない。
ここでは、移動用の自動車購入資金(諸費用を含む)の購入資金及びその他雑費のみを開業資金として考える。
(2)損益モデル
a.売上計画
ヒヨコ鑑定士の業務は、繁忙期と閑散期があり、平均的な労働日数を確定させることが困難なため、平均的な1時間当たりの鑑別数を1,000羽、平均単価4円及びヒヨコ鑑定士の平均年収を参考に売上モデルを作成している。
b.収支差
標準財務比率(※)を元に、個人事業主形態の損益のイメージ例を示す。人件費は売上原価に含むものとする。
※標準財務比率は、畜産サービス業(獣医業除く)に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
ヒヨコ鑑定士の仕事は孵化場の生産計画によって左右され、報酬も出来高制であることから、鑑別数を増やすほどより多くの収益を確保することができる。従って養鶏業の盛んな地域であればヒヨコ鑑定士の需要が高く、仕事を確保しやすい。海外のほか、国内でも養鶏業の盛んな県(茨城県、千葉県、岡山県、広島県、宮崎県、鹿児島県など)でニーズが高い。高い鑑別率を維持することによって孵化場からの信頼を得、引き合い増につながるため、常にスキルアップを心がけることが重要であろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)