業種別開業ガイド
中古レコードショップ
2025年 8月 6日

トレンド
中古レコードショップは、市場や個人から買い付けたレコードを販売する専門店である。音楽を配信で楽しむスタイルが主流となった現在、全盛期に比べると衰退した産業のひとつではあるが、レコード盤にしかない味わいを好む愛好家やクラブDJなどに根強い需要を誇る。今では入手困難な古い作品や安価なレコードを提供することで、過去の音楽文化を次世代につなぐ文化の担い手にもなっている。中古レコードショップが提供する主なサービスには、次のようなものがある。
- レコードの販売:中古レコードを店頭またはオンラインで販売する
- レコードの買い取り:店頭買い取り、宅配買い取り、出張買い取りなどで個人からレコードを買い付ける
- イベント開催:店頭での試聴会や愛好家のオフ会などを行う
- 機材の販売:レコードプレーヤー、カートリッジ、アンプなどの販売や相談に応じる
国内の中古レコードショップの市場規模や店舗数の推移を示す、まとまった統計は見当たらない。だが、日本におけるレコードの生産実績を見てみると、過去10年間で急速に拡大し、2024年には生産枚数314万9,000枚、金額ベースで78億8,700万円に達した。これは2015年から生産枚数で約5倍、金額ベースで約7倍にのぼる計算となる。

こうした成長の背景には、若者を中心にアナログレコードの魅力が見直されている点が挙げられる。配信にはない音質やSNS映えするレコードジャケットの美しいデザインが注目を集め、アナログレコードへの回帰が活発化。専門店の復活や新規開店も相次ぐほか、流通経路もSNSやフリマアプリ、オンラインストアの普及などで広がり、中古レコード市場は国内外で注目を集める産業となりつつある。ある大手エンタテインメント企業がレコードの自社生産を30年ぶりに復活させて注目を集めたほか、近年では人気アーティストがCDと同時にアナログレコードを発売するケースも増えている。
これらの状況から、特に若年層の音楽ファンをターゲットにした店舗運営やオンライン販売は、今後成長が見込める分野であるといえる。店舗数も増えているため、競合に勝つためにはジャンルを絞る、レイアウトや内装にこだわるなどの工夫が必要となる。
近年の中古レコードショップ事情
近年の中古レコードショップには、以下のような傾向が見られる。
海外からの人気の高まり
日本の中古レコードは保存状態の良さや、「帯(OBI)」付きなどの特徴から、特に欧米やアジアのコレクターに人気を集めている。海外の観光客が中古レコードを求めて日本を訪れるケースも増えており、大手販売店が設けたアナログ専門フロアでも外国人客の割合が高い。ECサイトも海外向けの販売が好調で、日本のアニメソングやシティポップが注目されている。
ヴィンテージレコードの高額化
世界的な需要の増加やオンラインマーケットプレイスの影響などを受けて、保存状態が良好で希少性の高いレコードはコレクターやDJから高く評価され、以前よりも高額で取り引きされる傾向にある。
人気ジャンルとアーティスト
定番人気のロック、アナログレコードと相性が良いジャズ、オーディオファンに人気のクラシックに加え、クラブミュージック、アニメソングなどのほか、近年海外で再評価される日本のシティポップなどが人気ジャンルである。特に帯付きやプロモ盤(主に宣伝用に作られた非売品)は高値で取り引きされる傾向にある。
レコード機器の普及
レコード人気の再燃を受けて、手ごろな価格で高品質なターンテーブルやスピーカーが登場。ライト層でもレコードを楽しみやすい環境が整っている。
店舗イベントの活性化
若者向けの大型中古レコードショップなどが開催する、試聴会などのイベントが注目を集めている。

中古レコードショップの仕事
中古レコードショップには、主に以下のような業務がある。
仕入れ業務
買い付け:中古市場や個人からの買い取り、オークション、業者仕入れなどのルートを活用して在庫を確保する
買い取り対応(店頭・宅配・出張):客の持ち込みや依頼に応じてレコードを査定・買い取りを行う
査定スキルの習得:アーティスト、プレス、盤質、ジャケットの状態などを総合的に評価する知識を得る
商品管理
クリーニング・メンテナンス:レコード盤のクリーニングやジャケットの補修など、コンディションを整える
分類・整理:ジャンル、アーティスト名、国別などで在庫を分類し、管理する
オンラインストア商品登録:オンラインで販売する場合は、写真撮影・説明文作成・価格設定・在庫管理を行う
接客・販売
店頭での接客:客とコミュニケーションをとり、ニーズに合うレコードを提案する
会計業務:レジ打ち、在庫の引き落とし、売上管理
オンライン販売:商品の梱包、発送、発送連絡
イベント企画:試聴会、DJイベント、買い取りフェアなどを開催する
販促・マーケティング
SNS運用:新入荷情報やおすすめレコードの紹介、イベント告知などを通じて集客につなげる
広告運用:オンラインやSNSを活用した広告で集客につなげる
リピーターづくり:メールマガジンやポイントカードなど独自のサービスによって、顧客との関係を継続する仕組みを作る
経営
売上・利益管理:売上や仕入れコスト、利益率などを管理する
帳簿・経理:個人事業主の場合は確定申告の準備、仕入帳や売上帳の管理
店舗運営:営業時間、スタッフ雇用、設備などの運営管理
中古レコードショップの人気理由と課題
中古レコードショップはカルチャー発信の場としても注目されている。ビジネスとしてのみならず、文化や趣味が融合した業態として、開業する人にとっても魅力的な存在だと言えるだろう。
人気理由
- ビジネスと趣味を融合できる
- カルチャーを発信できる
- 小規模・個人経営でも始めやすい
- 地域密着型の文化拠点になりやすい
- ネットとリアルの併用で販路を広げやすい
課題
- 仕入れの難しさと品質のバラつきへの対応
- 市場の変動と価格設定の難しさ
- 競争の激化
- 立地によっては集客が難しい
- 固定ファンの獲得に時間がかかる
開業のステップ
中古レコードショップを開業する場合、大きく分けて実店舗とオンラインストアの2つの方法がある。開業するための基本的なステップは以下の通り。

市場調査とコンセプト決定
どのジャンルのレコードを扱うか、ターゲット層(音楽ファン、コレクター、若者、海外観光客など)を決める。競合店舗の調査を行って、それぞれの魅力や弱み、価格帯、イベント内容などを把握した上で、自店を差別化するポイントを考える。
資金計画と予算設定
初期費用(店舗賃料、内装、什器、仕入れ費用、宣伝費用など)を計算し、運転資金を見積もる。事業計画を作成して資金調達の方法(自己資金・日本政策金融公庫・クラウドファンディングなど)を検討する。
物件の選定と契約
ターゲット層に合った立地を選び、賃貸契約を結ぶ。レコード試聴用スピーカーなどを設置する場合は、音出しの許可も確認しておく。コンセプトに沿って店舗の内装やレイアウトを決定する。
古物商許可の取得
中古品を扱うためには、公安委員会から古物商許可を取得する必要がある。なおオンラインストア開業の場合も古物商許可が必要である。
仕入れ体制を確立する
レコードの仕入れ先を確保する。買い取り、オークション、卸業者、コレクターとのネットワーク作りなどの選択肢がある。さらに在庫管理システムを導入し、効率的な運営を目指す。タイトル・ジャンル・状態の記録・分類、仕入れ価格と販売価格の利益率の管理が必要となる。
店舗内装と設備準備
レコード棚、カウンター、試聴機などの什器と、空調・湿度管理・照明・POSレジシステムといった設備を導入する。
開業届・各種手続き
税務署に個人事業開業届、警察署に古物商許可を提出。店舗面積により、あるいは火器の使用がある場合には、消防署への届出も行う。
販売戦略の策定とプロモーション
店舗販売とオンライン販売(フリマアプリを含む)の併用を検討する。SNS・Webサイト・ブログなどを開設し、集客を強化する。
営業開始
商品の陳列、値付けのほか、スタッフを雇用する場合は教育を行う。プレオープンで動線が効率的かどうかをテストしておく。近隣住民や知人を招待したり、サンプリングを行ったりするのも効果的。オープン後もPDCAを回し、改善を続ける。
中古レコードショップに役立つ資格や許可
中古品を扱うためには、公安委員会から古物商許可を取得する必要がある。その他、必須ではないが役立つ資格も以下に挙げる。
古物商許可(必須)
法人・個人が古物営業法で決められている古物を売買または交換する際に公安委員会から取得する必要がある営業許可で、盗品の流通を防ぐ目的がある。
リユース営業士
リユース業界の知識を深める資格。信頼性向上に役立つ。
古物査定士
中古品を査定するスキルを証明する資格。適正な価格設定に役立つ。

開業資金と運転資金の例
中古レコードショップを開業するための資金や運転資金は、規模や立地、店舗のスタイルによって大きく異なり、特にオンラインストアのみで実店舗を持たない場合は、少ない資金で開業することができる。ここでは小規模の実店舗型とオンラインショップ型、それぞれの資金の目安を紹介する。
- 共通条件=初期の仕入れは300~500枚
- 実店舗型=店主一人で、5~10坪程度(月額賃料10万円)の店舗を開業


特に実店舗型の具体的な金額は、店舗の規模や運営方針によって異なる。オンラインショップを併用することで、実店舗の運営費を抑えることも可能となる。
売上計画と損益イメージ
最後に、中古レコードショップを開業した場合の1か月の収支シミュレーションを以下に示す。

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは下記のようになる。

中古レコードショップを開業し、順調に経営するためには、的確なマーケティングや宣伝によって固定客を獲得することが重要だ。前述のようにレコードの人気は再燃しているが、市場自体はニッチであり、また大手も含めて競合が増えている点を考えても、軌道に乗るまでには時間を要する。自店舗の個性と強みを打ち出し、ターゲットに向けて効率的かつ地道に継続的に発信することがポイントになる。
もうひとつ、実店舗型の場合にもオンラインストアの併用は前向きに検討したい。海外でのレコード愛好家とつながる重要な販路であり、実店舗の立地に関わらず大きな収益源となり得る。多様なネットショップサービスやフリマアプリの特徴を分析して活用してほしい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)