業種別開業ガイド

民泊

2024年 11月 27日

民泊のイメージ01

トレンド

「民泊」は、住宅の全部または一部を活用し、旅行者等に宿泊サービスを提供することをいう。日本では2018年に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、一般的に普及してきた。もとは海外発祥の宿泊形態である。例えば、ベッドアンドブレックファストと言われる民家の部屋貸し、バケーション中の空き部屋のレンタル、別荘の貸し出しなどで利用されてきた。日本では2010年代のインバウンド需要の高まりとともに民泊が広まった。コロナ禍を経た今、日本への観光客数は右肩上がりが続き、民泊も改めて注目されている。

最近では、オンライン・トラベル・エージェント(OTA)と呼ばれる多くの宿泊予約サイトが世界中で使われている。中には、民泊専門の予約サイトとして著名なものもある。サイトには、実際の部屋の写真が掲載されており、現地の風景や雰囲気を感じることができる。また、ホテルなどに比べて割安な場合が多く、予算に合った施設も見つけやすい。サイトの使い勝手もよく、目的地、日程、景色や設備といった条件検索もでき、利用客からも高い人気を誇っている。

コロナ後におけるインバウンド需要

コロナ禍においては海外からの旅行者数は大きく減ったものの、2024年6月の訪日外国人数は過去最高を記録し、インバウンド需要が非常に高まってきている。

訪日外国人旅行者数の推移

特に都市部や観光地では外国人利用者が多く、ホテルなど宿泊施設の空きが少ない。さらに、昨今の円安や物価高の影響により、客室単価も上昇しているため、宿泊先が見つかりにくくなっているという。こうしたオーバーツーリズム対策の1つとして予約の取れない人気エリアのホテルに代わって、民泊が利用される機会も増えている。

観光庁は2024年、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」として、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立し、持続可能な観光地域づくりを実現するための公募を行った。「需要の分散・平準化」「受入環境の整備・増強」といった事業目的も挙げられていることから、人気観光エリアに限らず、日本全体で観光客受け入れ態勢の強化を図ろうとしていることが分かる。こうした動きも、民泊開業の後押しとなるに違いない。

働く場所は自由に選べる時代へ

コロナをきっかけに、リモートワークやオンライン会議など、オフィスを必要とせず、場所を選ばない働き方が広がったことで、郊外エリアで仕事とバケーションを合わせたワーケーションを楽しむ人も増えている。民泊の中には、ワーケーションとして利用してもらうために、Wi-Fi環境を整え、デスクやチェアも仕事に適したものを用意するところもある。仕事をしながらも、一歩外に出れば自然に囲まれた景色で一息つくことができる。オンオフの切り替えが可能で、より仕事の質も上がると評判を呼んでいる。

空き部屋・空き家の活用

子どもが成長し、家を出た後の空き部屋や高齢化とともに問題化されている空き家を民泊向けに活用することもできる。特に近年、空き家数は増加を辿る一方で社会問題の1つとなっているが、この問題への対策を講じるために、空き家活用支援事業として補助金の交付を行っている自治体も多数ある。民泊はこうした社会問題解決の一助ともなるビジネスだ。

空き家数及び空き家率の推移-全国(1978年~2023年)

近年の民泊事情

観光庁による、民泊新法の届出及び登録状況の公表によると、2024年7月12日現在25,326件となっており、前年の同月19,935件から27%もの伸びを示している。インバウンド増加、宿泊施設の料金高騰などにより、民泊が宿泊客の受け皿として機能を果たしていることが分かる。

図にある通り、現在は観光客の集まりやすい人気エリアに民泊の届出も比例して増えている。ただし、前述のオーバーツーリズム対策が進んでいることに加えて、郊外でゆっくりと日本の生活を楽しんだり、農業・ものづくりを体験したりする体験型の旅行の人気も伸びていることから、今後は地方での民泊の需要も高まってくるはずだ。

住宅宿泊事業法に基づく届出の状況(令和6年7月12日時点)

最近の民泊の特徴といえるのがイメージ戦略だ。リフォームによってインテリアやデザインにこだわり、ホテルにも劣らない魅力的な部屋を提供する。予約サイト上でも、宿泊客の目に留まりやすくなり予約も増える。宿泊時には、期待にそえるような空間、隅々まで行き届いた掃除、笑顔で親切な対応といったサービスを提供することで、心地よい体験をしてもらう。日本の細やかなおもてなし精神は、高評価に繋がり、高い稼働率を生み出すことになる。民泊の増加に伴い、宿泊客に選んでいただけるようなブランド化、差別化も必要な戦略なのだ。

低価格帯で売り出す民泊の場合には、ベッド数を多く確保することに加え、施設を充実させることが選ばれるためのポイントになってくる。

開業にあたっては、立地、建屋の特性などの条件を考慮し、民泊の方向性を定める必要がある。古民家民泊は日本文化を味わいたい外国人客に人気が高い。築100年近い家屋の雰囲気を味わいながら、水回りや空調などの整備も整え、生活に不便のないようにリフォームは済ませておく。地域性、ターゲット層、利用目的などの点を明確に運営することが、民泊経営のポイントとなってくる。

民泊のイメージ02

民泊の仕事

民泊には2つの運営方法がある。

まず1つ目に、「自主管理型」としてオーナー自らが管理を行う方法である。「家主居住型」と呼ばれる民泊で、オーナーが住んでいる家屋の空き部屋や同じ敷地内にある建屋などを利用し、宿泊客を受け入れる方法となる。宿泊客に何かトラブルなどがあっても、オーナーが同居しているため対応がしやすく、業務もすべてオーナーが行えるので運営にかかわるコストが抑えられるメリットがある。

「自己管理型」で民泊を運営する際の仕事の内容は主に下記のような業務が挙げられる。

  • 予約管理、確認
  • チェックイン、チェックアウト対応
  • 鍵の受け渡し
  • 客室清掃、セッティング、ごみ捨て
  • シーツ、カバー類の洗濯
  • 備品管理
  • 問い合わせ対応

もう1つは「委託管理型」と呼ばれる、管理会社などに民泊運営を任せる方法だ。「家主不在型」の民泊で、オーナーが離れたところにいて物件の管理ができない場合などはこちらを選択する。部屋の管理はすべて管理会社が行ってくれるため、手間はほぼかからないが、その分委託料としてコストが生じるため、収益には影響が出てくる。

民泊の人気理由と課題

人気理由

  1. ホテルなど宿泊施設が取れないときの代替利用を見込める
  2. 空き家、空き部屋の活用ができる
  3. 世界中から来るゲストと交流ができる

課題

  1. リフォームなどの初期費用がかかる場合がある
  2. 営業日数制限(年間180日)があるため、調整が必要
  3. 言語や文化の違いによる外国人客とのトラブルの可能性がある

開業のステップ

開業のステップ

民泊開業の手続き

民泊を行う場合、以下の3つの制度から選択が必要になる。

1. 住宅宿泊事業法(民泊新法)

2018年に施行された法律で、届出のみで民泊を始められる。年間営業日数が180日未満と制限がある。家主不在の場合、管理会社への委託が必要になる。本記事における紹介内容は、この民泊新法に則ったものとなる。

2. 旅館業法

営業可能日数に制限がないが、申請のハードルも高い。ホテルや旅館と同じ扱いとなる。

3. 国家戦略特区法

旅館業法の特例で、民泊を運営しようと計画している地域が、国家戦略特区に該当している場合、旅館業法の適用が除外され営業がしやすくなる。主に外国人観光客の需要に対応するために設けられたものである。

民泊に関する法律の違い

住宅宿泊事業法(民泊新法)について

民泊新法は、一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図るものとして制定された。「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3種に分けられ役割や義務等が異なる。「住宅宿泊事業者」がいわゆる民泊のオーナーであり、今回の開業ガイドの対象である。

住宅宿泊事業法における各業者の役割

なお、「住宅宿泊事業法」に関しての情報は、国土交通省の民泊制度ポータルサイト「minpaku」に様々な情報が掲載されている。

民泊運営に必要な資格やスキル

民泊を運営するにあたって特別な資格は必要ない。ただし、予約サイトによる評価は「清潔さ」「掲載情報の正確さ」「チェックイン」「コミュニケーション」「ロケーション」「価格」に分けられており、宿泊客はこれらのレビューで宿泊先を判断することから、これらのスコア対象になる業務は入念に対応すべきポイントとなる。

「清潔さ」は宿泊客にとって最も重要な指標となるため、部屋の清掃と風呂、洗面所、トイレなどの水回りの美化には特に注力が必要だ。ここで低いスコアを付けられてしまうと、稼働率低下が顕著に出るという。自主管理型で運営する場合、家事・掃除をまめに行える人は優位になる。

外国人宿泊客の受け入れ態勢として、語学力、特に英語力はあって損はない。流暢な会話ができるほどの高い能力は不要だが、滞在時に一定のコミュニケーションができ、意思疎通が図れることが大切だ。コミュニケーションを円滑に行えれば、双方の関係値も深くなり安心感にも繋がる。民泊は世界中の人と触れ合えるせっかくの機会なので、英語に挑戦して交流を深めてみてはどうだろうか。

また、宿泊客にはウェルカムガイドとして、多言語化した施設利用の手引きとなるような資料の提供が望ましい。ここには宿泊時のルール、留意点、周辺エリアの案内などを英語で記載するとよい。ガイドがあることでゲストからの質問の軽減、トラブル回避などの効果も生まれる。実際に、チェックイン時の説明時間が減ったという話もある。こうした資料作成のスキルがあれば、ガイドの他にも施設内に掲示する案内などにも活用でき役に立つことも多い。

開業資金と運転資金の例

民泊を開業する際には下記のような資金が必要となる。なお今回の試算は、オーナーの住宅の一部を民泊として利用する、家主同居・自主管理で想定している。(民泊関連サイトを参照し独自に算出した数字である)

  • 内外装工事関連費 : 民泊で利用する部屋のクロス・床などのリフォーム
  • 家具・家電・備品費 : ベッド、テーブル、ソファ、テレビ、小型冷蔵庫、アメニティなど
  • 諸経費 : 通信費、書籍、交通費など
開業資金例
運転資金例(年間)

売上計画と損益イメージ

売上計画

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

稼働日数によっても変動が出るため、安定した稼働率で運営できるような計画を立てることが重要だ。

上記は住宅の一部を民泊利用とする家主居住・自主管理での運用となるため、家主不在・委託管理の場合は、別途委託費用が必要となるため管理会社との調整が必要となる。

空き部屋、空き家があるのであれば、民泊運用することで収益化することが可能だ。都市部と郊外で民泊の需要はそれぞれに異なるだろうが、特性を生かした集客を行うことで、オーナーも宿泊客も満足のいく民泊の価値を生み出していただきたい。

民泊のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)