業種別開業ガイド

旅行会社(代理店等を含む)

2026年 2月 13日

旅行会社(代理店等を含む)のイメージ01

トレンド

旅行業界を取り巻く環境は、コロナ禍を経て劇的な変化を遂げた。最大のトピックは、国内外における人流のダイナミックな復活である。

観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると、2024年の日本人国内宿泊旅行消費額は20兆3,325億円(2019年比118%)を記録。さらにインバウンド市場の回復は目覚ましく、2024年の訪日外国人旅行消費額は8兆1,257億円(2019年比169%)と過去最高を更新した。

旅行消費額の推移

日本政府観光局(JNTO)のデータでは、2024年の年間訪日外客数は約3,687万人(前年比147.1%、2019年比115.6%)と過去最高を記録した。東アジアに加え東南アジア、欧米豪、中東からの旅行者が増加し、従来のゴールデンルート以外の地域や隠れた名所への需要が拡大している。

近年の旅行業界のトレンドは、画一的なパッケージツアーから、自分だけの価値を追求する個別化・体験重視型へと大きくシフトしている。長引くコロナ禍を経て、消費者の旅行に対する意識は、単なる観光地巡りの「コト消費」から、自分にとって意味のある時間やその場でしかできない体験を重視する「トキ消費」へと変化している。

消費者意識の中で顕著なのが「目的型旅行(SIT:Special Interest Tour)」の台頭だ。従来の有名な観光地をバスで巡るスタイルよりも、アニメの聖地巡礼、特定の食文化を深掘りするガストロノミーツーリズム、自然の中でのアドベンチャートラベルなど、個人の趣味や関心に直結した旅が求められている。

また、サステナブルツーリズム(持続可能な観光)への意識の高まりも見逃せない。観光庁も推進しているこのトレンドは、地域の自然や文化を守りながら観光を楽しむという考え方であり、旅行者自身も「地域に貢献できる旅」を選択する傾向にある。例えば、古民家を活用した分散型ホテル(※)への宿泊や、地域住民と交流する農業体験ツアーなどが人気を博している。

(※)地域に点在する古民家や空き家などを活用し、町全体をひとつのホテルとして運営する宿泊施設。

さらに、BtoB(企業間取引)市場にも変化が見られる。企業の出張手配や研修旅行、インセンティブツアーなど、法人向けサービスに特化する旅行会社も増えている。働き方の多様化に伴い「ワーケーション」や「ブリージャー(ビジネス+レジャー)」といったスタイルも定着しつつある。これにより、平日や閑散期の旅行需要が掘り起こされ、通年での集客チャンスが広がった。

これから開業する旅行会社にとっては、大手には真似できないニッチで深い体験を提供できるかどうかが、成功の鍵となるだろう。

近年の旅行会社(代理店等を含む)事情

旅行業は、取り扱える旅行や業務の範囲によって以下のように分類される。

  • 第1種旅行業:海外・国内の募集型企画旅行(パッケージツアー)を制限なく実施可能
  • 第2種旅行業:海外の募集型企画旅行の企画・実施を除く旅行業務が行える
  • 第3種旅行業:海外・国内の募集型企画旅行の企画・実施を除く旅行業務が行える(地域限定の国内募集型企画旅行のみ実施可能)
  • 地域限定旅行業:実施する区域を限定した国内旅行の企画・実施・手配を行うことができる
  • 旅行業者代理業:旅行業者から委託された業務を行う
  • 旅行サービス手配業:旅行業者からの依頼に基づいて手配を行う(旅行者との直接取引は不可)

一般社団法人日本旅行業協会のデータによると、2024年の旅行業者代理業者を含む旅行業者数は12,645社(前年比104.6%)で、第3種旅行業者が全体の約4割を占めている。

旅行業者数の推移

近年は地域限定旅行業者の新規登録が増加傾向にあり、地域資源を活用した着地型観光ビジネス(※)への参入が活発化している。自治体と連携して着地型ツアーを開発したり、DMO(観光地域づくり法人)と協力して地域の観光資源を磨き上げたりする事例が増えている。

(※)地域が主体となって観光商品や体験プログラムを企画・運営し、観光客に地域の自然や文化を体験してもらうビジネス。

また、開業のハードルが比較的低い形態として注目されているのが「旅行サービス手配業(ランドオペレーター)」である。これは2018年の法改正で登録制となった業態で、旅行会社の依頼を受けて貸切バスやホテル、ガイドなどの手配を行う事業だ。インバウンド需要の急増に伴い、海外旅行会社からの引き合いが高まっており、語学力や地域ネットワークを生かしてこの分野で開業するケースも増えている。

そして業界の構造的な変化として、OTA(Online Travel Agency:オンライン旅行代理店)、旅行比較サイト(メタサーチエンジン)の急速な普及が挙げられる。AIを活用した旅行プランの自動提案システムや、チャットボットによる顧客対応などのテクノロジーを活用し、無店舗型の旅行会社が増加傾向にある。

さらに、サブスクリプション型の旅行サービスも登場している。月額定額で複数回の旅行が楽しめるサービスや、会員制の旅行クラブなど、新しいビジネスモデルの実験が行われている。

このように、旅行業界は変革期にあるが、それは新規参入者にとって大きなチャンスでもある。柔軟な発想と専門性を武器に、独自のポジションを確立できる可能性が広がっている。

旅行会社(代理店等を含む)のイメージ02

旅行会社(代理店等を含む)の仕事

旅行会社の業務は、以下のように多岐にわたる。

  • 商品企画・開発業務:市場調査、顧客ニーズの分析、企画の立案・設計、宿泊地・交通手段・体験プログラムの選定など
  • 仕入・提携先管理業務:宿泊施設、交通機関、観光施設、飲食店、ガイドとの交渉・契約など
  • 営業・販売業務:顧客の要望をヒアリング、商品の提案、見積書の作成、予約確認、契約締結、販売チャネルの構築(店頭、電話、メール、訪問、WEBサイト、SNSなど)、顧客管理(CRM)の構築など
  • 予約・手配業務:予約受付、予約確認書の作成、各サプライヤーへの手配、航空券・ホテル・レンタカー・レストランなどの予約、現地ツアーの手配、予約変更・キャンセル対応など
  • 顧客対応・サポート業務:旅行前の相談対応、旅行中のトラブルサポート、帰国後のフォローアップ、緊急時の連絡体制の整備など
  • 旅程管理業務:日程表の作成・送付、添乗業務、添乗員(旅程管理主任者)の手配・同行、トラブル発生時の対応など
  • コンプライアンス・リスク管理業務:各種法令の遵守、個人情報保護、旅行業約款の整備、保険加入、危機管理マニュアルの作成など
  • 経営管理業務:経理・財務、人事、法務(契約管理)、前受金管理、供託金制度への対応、資金繰り、税務処理など
  • 集客業務:WEBサイト運営、SNS運用、広告運用、SEO対策、パンフレット作成、イベント参加、メールマガジン配信、キャンペーン企画など
  • 提携・パートナー開発:地方自治体、宿泊施設、交通事業者、ガイド事業者との提携、ネットワーク構築など

旅行会社(代理店等を含む)の人気理由と課題

人気理由

  1. 旅の魅力を商品化でき、顧客と共感し合える喜びがある
  2. 業態によっては実店舗を持たず、小規模で開業できる
  3. 地域の魅力を発信し、観光振興に貢献できる

課題

  1. 閑散期の売上確保と繁忙期の業務集中への対応が経営の安定化につながる
  2. 旅行中の事故、自然災害、キャンセルリスクなどへの備えが必要
  3. 薄利になりやすい構造のため、利益率を上げる工夫が必要

開業のステップ

以下は、旅行会社を開業する際の基本的なステップである。実際には、ビジネスモデル(代理業、小規模手配業、企画旅行など)によって順番や内容が多少変わる。

開業のステップ

旅行会社(代理店等を含む)に役立つ資格や許可

旅行会社を開業するには、旅行業法に基づく登録が必須である。事業の形態によって必要な登録の種類が異なる。

旅行業等の登録区分

必須の資格・登録

旅行業登録

旅行業を営むための必須要件である。旅行業法第3条に基づき、観光庁長官(第1種旅行業)または都道府県知事(第2種・第3種・地域限定旅行業、旅行業者代理業)の登録を受けなければならない。登録の有効期間は5年間で、更新が必要である。

旅行業務取扱管理者

営業所ごとに1名以上の旅行業務取扱管理者を、常勤専任で配置しなければならない。資格は以下の3種類がある。試験は観光庁の指定試験機関が年1回実施する。資格取得後は5年ごとに定期研修の受講が義務付けられている。

  • 総合旅行業務取扱管理者:海外・国内すべての旅行業務を取り扱える(合格率10~15%程度、難易度高)
  • 国内旅行業務取扱管理者:国内旅行業務のみ取り扱える(合格率30~40%程度、難易度中)
  • 地域限定旅行業務取扱管理者:地域限定旅行業の範囲内で取り扱える(合格率40%前後、難易度やや低)

基準資産額

旅行業の種別に応じて以下の基準資産額を有する必要がある。

  • 第1種旅行業:3,000万円以上
  • 第2種旅行業:700万円以上
  • 第3種旅行業:300万円以上
  • 地域限定旅行業:100万円以上

営業保証金の供託または弁済業務保証金分担金の納付

営業保証金の額は以下の通り。旅行業協会(JATAまたはANTA)に入会すると、弁済業務保証金分担金として下記の5分の1の額で済む。

  • 第1種旅行業:7,000万円
  • 第2種旅行業:1,100万円
  • 第3種旅行業:300万円
  • 地域限定旅行業:15万円

役立つ資格

旅程管理主任者

添乗業務を行う場合に必要な資格である。国内旅程管理主任者と総合旅程管理主任者があり、指定研修機関の研修修了と実務経験により取得できる。

通訳案内士

訪日外国人向けのガイド業務を行う場合に有用である。国家資格であり、語学力と日本文化の知識が求められる。

その他、観光英語検定、世界遺産検定、国内旅行地理検定なども専門性のアピールに役立つ。

旅行会社(代理店等を含む)のイメージ03

開業資金と運転資金の例

旅行会社の開業にかかる費用は、事業の規模や形態によって大きく異なる。ここでは、地域限定旅行業で着地型観光を中心に展開、スタッフは雇用しないスモールスタートを想定した例を示す(参考)。

開業資金例
運転資金例

開業資金の調達には、以下のような支援制度を活用できる可能性がある。

  • 日本政策金融公庫の創業融資:無担保・無保証で最大3,000万円までの融資が可能
  • 小規模事業者持続化補助金:広告宣伝費やWebサイト制作費などに活用可能
  • IT導入補助金:予約管理システムなどのITツール導入費用を補助
  • 地域の創業支援制度:各自治体が独自の補助金や低利融資を提供している場合がある

売上計画と損益イメージ

最後に、旅行会社(代理店等を含む)を開業した場合の1か月の収支をシミュレーションしてみよう。

まず、売上イメージを以下のように設定する(例)。

売上計画

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは次のようになる。

損益イメージ

※旅行業の売上は「取扱額(旅行代金全額)」ではなく、そこから原価を引いた「手数料・企画料(粗利)」で考えることが経営安定のポイントである。
※開業当初はオーナー1名で運営し、固定費を極限まで下げることで損益分岐点を低く設定する。

一般的に旅行会社は利益率が低く、特に開業初期は事業を軌道に載せにくい。利益率を高めるためのヒントを最後に紹介する。

(1)「相談料」の有料化

従来、旅行の相談は無料が当たり前だったが、専門知識に対する対価として「旅行相談料」を設定するケースが増えている。「あなたにプランニングしてほしい」と思わせるブランディングができれば、成約率の高い優良顧客を確保できる。

(2)地域の補助金・助成金の活用

自治体が実施する観光促進キャンペーンの取扱事業者になることで、送客手数料の上乗せなどが期待できる。地域の観光協会や商工会議所と密に連携をとることが重要だ。

(3)副業・兼業からのスタート

いきなり独立するのが不安な場合、「旅行業者代理業」として既存の旅行会社と契約し、副業的にスタートする方法や、週末起業として「ツアーコンダクター(添乗員)」から業界経験を積むのもひとつの手である。

旅行業は、平和産業とも呼ばれる。社会情勢に左右される脆さはあるものの、人々の人生を豊かにするかけがえのない仕事である。確かな事業計画とユニークなアイデアで、新しい旅の扉を開いてもらいたい。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

関連記事