業種別開業ガイド
猫カフェ
2021年11月19日
トレンド
(1)猫カフェの急増
猫カフェとは、店内に飼い猫を放し飼いにし、その猫と触れ合う時間を提供する施設で、ドリンクなど喫茶店としてのサービスを提供している業態もある。環境省が公表している「中央環境審議会動物愛護部会(第42回)議事要旨」によると、猫カフェの店舗数は、平成17年当時では3店舗だったが、平成27年末には約300店舗と10年で100倍となり、急激に増加している。
平成27年10月に314店舗を対象に行われた「猫カフェの実態調査」によると、店舗が最も多いのは東京都の58店舗となり、大阪府、埼玉県、神奈川県、福岡県と続いている。
(2)環境省のプロジェクトによる需要の高まり
環境省では、飼い主による犬猫の適正な管理の推進や殺処分の削減等を図るため、平成26年6月に「人と動物が幸せに暮らす 社会の実現プロジェクト」のアクションプランとして発表し、その中で返還と譲渡の取組を官民一体となって行っている。
環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、猫の引取り数及び殺処分数は、平成元年度以降減少傾向となっている。これに対して猫の返還・譲渡数は、平成17年度以降増加傾向となり、平成27年度には猫の返還・譲渡数が2万頭を超えた。猫カフェはその一助となっており、近年では保護猫を扱い里親の募集をする保護猫カフェが出てきている。一般社団法人ペットフード協会が発表した令和2年「全国犬猫飼育実態調査」によると、犬猫の飼育頭数は、2016年までは猫より犬の方が多かったが、2017年以降は猫の飼育頭数が上回り、2020年はやや減少したものの増加傾向となっている。
(3)多様化する営業形態
営業形態も従来型の猫カフェから、保護猫を扱い里親の募集をするものや、ペットショップやブリーダーが経営して子猫の販売を行うもの、貸し切りが可能なもの、無線LANを完備しているもの、漫画やゲームが置かれているものなど、様々な特徴を持つ猫カフェが登場している。
環境省の取組を受け、猫の保護活動に積極的に取り組んでいる店舗も多く、「猫カフェの実態調査」で譲渡活動をしていると回答した店舗は、314店舗中33%となっている。
事業の特性
開業準備をするにあたり、まずは動物の入居が許可されている物件を探す必要がある。また、施設内の設備は、自治体が示している規定を満たす必要がある。
一般的なカフェとは異なり、猫カフェは動物愛護法に則り、営業時間は原則20時までとし、22時以降の営業は禁止されている。22時まで営業する場合には、対象の猫が1歳以上であることや、猫の1日の労働時間は12時間以内にすることなど、いくつかの条件をクリアする必要がある。開業後もトイレの掃除や常時換気を行うなど、徹底した衛生管理が求められる。
また、感染症対策や健康管理として、かかりつけ病院、提携獣医師を決めておくことや、ワクチン接種及び健康診断を定期的に実施することも大切となっている。
そして、動物を扱うという事業柄、廃業した場合でも、最後まで責任を持って世話をすることができる環境を整えておくことも重要となっている。
開業タイプ
開業タイプとしては以下がある。
(1)飲食店とせずに経営する独立型
食べ物は提供せず、ドリンクは自動販売機やペットボトルのみとなる。「動物取扱責任者」、「動物取扱業」、「自治体による開業許認可」の3つを取得すれば開業できる。
(2)飲食店として経営する独立型
「動物取扱責任者」、「動物取扱業」、「自治体による開業許認可」の3つに加え、「飲食店営業許可」、「食品衛生責任者」の資格の取得と届出が必要になる。
(3)フランチャイズ
開業エリアを選定し、事業所所在地を決定。加盟金が必要となるが、本部のアドバイスを受けながら開業準備や経営ができ、開業後も様々なサポートがある。また、フランチャイズ本部のブランド力を活かし集客できることや、銀行からの融資を受けやすいこともメリットとなる。
開業ステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。
(1)開業のステップ
※地域や建物によっては、猫カフェを営めない場合もあるので注意が必要。
開業予定の地域の役所に事前に相談することが望ましい。
(2)必要な手続き
猫カフェを開業するには、第一種動物取扱業の登録が必要になる。
第一種動物取扱業者は、動物の適正な取扱いを確保するための基準等を満たしたうえで、事業所・業種ごとに都道府県知事又は政令指定都市の長の登録を受ける。申請した後、書類審査、施設の検査などを経て、登録証が交付される。また、税務署に開業届等も提出する。
個人:事業開始月から1カ月以内に開業届・青色申告承認申請書・給与支払事務所等の開設届出書など
法人:設立後2カ月以内に法人設立届出書・青色申告承認申請書・棚卸資産の評価方法の届出書・減価償却資産の償却方法の届出書・給与支払事務所等の開設届出書など
必要なスキル
猫に関する知識や、猫に愛情を持って接することができるだけでなく、猫カフェは猫の世話と接客を同時に行うため、猫とお客様への気遣いが必要となる。また、SNSでの宣伝や、里親探し、猫が過ごす空間の衛生管理等、業務は多岐にわたるため、コミュニケーションスキルや、マルチタスクが得意であることも必要になる。猫関連の資格には、猫の生態や飼育方法などが学べる「キャットケアスペシャリスト&キャトシッター」、猫が健康に過ごすためのノウハウが学べる「猫健康管理士」、猫だけではなく他の動物の生態や、動物に関する法律が学べる「愛玩動物飼養管理士」がある。
起業するにあたり必要な資格・許可等は以下がある。
1.動物取扱責任者:第一種動物取扱業の登録に必要な条件の1つ。資格ではなく、条件を満たしていれば取得可。
【都道府県等が開催する動物取扱責任者研修を受講】
2.防火管理者(甲種防火管理者と乙種防火管理者がある):従業員を含む収容人数が30人以上になる場合に必要。
甲種防火管理者:甲種の方が乙種よりも詳しい内容のため、甲種を取得すれば乙種を取得する必要はない。
乙種防火管理者:乙種の講習を受講して取得。甲種資格を取得する場合は、取得の必要はない。
【防火管理者講習を修了し、効果測定試験に合格後、消防署に申請して取得】
3.飲食店営業許可:飲食物を製造、販売する場合に必要
【管轄する保健所の審査を受けて取得】
4.食品衛生責任者:飲食物を製造、販売する場合に必要
【養成講習会を受講して取得】
5.第一種動物取扱業の登録:登録申請書を提出した後、書類審査、施設の検査などを経て、登録証が交付される。5年毎に更新が必要。
【必要な条件を満たし、都道府県の担当窓口に申請】
6.動物取扱業の登録:定期的に更新が必要
【必要な条件を満たし、都道府県の担当窓口に申請】
開業資金と損益モデル
初期投資額は、概ね1,000~2,000万円程度の開業資金が必要となるケースが多い。
猫がストレスなく過ごせる環境が必要となるため、工事・設備設置費はやや高くなるが、この例では居抜き物件を利用し、内装工事費等を安く抑えている前提としている。
なお、猫の購入費は1匹あたり数十万円が想定されるが、保護猫を引き取る場合には費用はかからない。
(1)開業資金
(2)損益モデル
a.売上(事業活動収益)計画
b.収支差
通常のカフェなどと異なり、猫の世話などに関わる人手も考慮し、スタッフ2名を雇用する前提で事業活動は想定している。
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、喫茶店に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
基本的な収益構造は喫茶店などと同じであるが、猫の飼育にかかる餌代やペット保険料の支払いなどのランニングコストがかかるため、通常の喫茶店などよりも損益分岐点は高くなるものと思われる。
また、猫が常時店内にいるため換気をこまめに行うなどの臭い対策も必要となるため、換気に関わる設備設置費用及びメンテナンス費用なども想定しておく必要がある。
猫カフェという資質上、他のカフェとは差別化が図られてはいるが、その分コストもかかるため、競合する店舗よりも高い付加価値を提供し一定の売上高を確保することが重要である。最近では、単に猫好きの顧客をターゲットにするだけではなく、様々なイベントを催し、集客を図っている店舗もみられる。具体的には、クリスマスイベントによるカップルの集客や、子供連れ家族向けの来店イベントなどである。また、猫カフェを利用した婚活パーティなどのイベントも催されているという。
※(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)