業種別開業ガイド

トリマー

2024年 7月 17日

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トレンド

新型コロナウイルス感染症拡大により在宅時間が増え、癒やしを求めて新たにペットを飼い始める人が増えた。一般社団法人ペットフード協会で実施した「全国犬猫飼育実態調査」によると、コロナ禍だった2022年の犬の新規飼育頭数は426,000頭と過去10年間で最多となった。

また同調査では、ペットを室内で飼う人が約9割にものぼる。ペット可の物件は、分譲マンションだけでなく賃貸物件でも増えており、検索キーワードで上位に上がるようになった。

民間調査によると、人気犬種として「トイ・プードル」が15年連続1位に君臨し、飼育されている犬のうち約2割を占めている。賢くて知性が高く飼いやすい犬種だが、夏毛と冬毛の入れ替えが無く人の髪と同じ速さで被毛が伸びるため、定期的なトリミングは必須だ。

その影響もあってか、以前は都市圏に集中していたトリミングサロンが、近年では全国に広がっている。民間が行ったアンケートでは、犬と暮らす人のうち約6割がトリミングサロンを利用しているという。

トリミングへのニーズの高まりとともに、1回あたりのトリミング料金も年々上昇している。総務省統計局の「小売物価統計調査」によると、全国のペット美容院代1回の平均額は、2019年は6,131円だったが、2024年には6,989円と5年間で約14%上がっている。また、人間のヘアーカット代の全国平均額は、2024年は男性3,706円、女性3,744円で、飼い主よりも高額となっている。

ペット美容院代と理髪料・カット代との比較(全国平均)

民間のアンケートでは「自分は2~3カ月ごとに美容院へ行くが、愛犬は毎月トリミングに通っている」という声もあり、ペット優先の志向がうかがえる。

トリミングサロンの形態は多様化しており、以下のようなサロンがある。

  • 独立型サロン:トリミング専門の独立した店舗
  • 併設型サロン:ペットショップや動物病院、ペットホテル、老犬ホームに併設した店舗
  • 移動型サロン:トリミングカーで移動し、商業施設の駐車場などでトリミングを行う
  • 訪問型サロン:飼い主の自宅まで訪問してトリミングを行う

近年ではトリミング中の事故が問題となったこともあり、トリミングの様子が見えないサロンよりガラス張りで開放的なトリミングサロンが人気となっている。また、飼い主の自宅でトリミングを受けられる訪問型サロンの需要も高まっている。訪問型サロンには経験豊富なトリマーが多く、ペットはストレスや負担が少ない上、飼い主は自身の都合に合わせやすい。今後もペットと飼い主、両者に寄り添ったサービスの展開が求められるだろう。

近年のトリマー事情

ペットを大切な家族として扱う意識の高まりが、ペット関連市場を押し上げている。民間の調査によると、2024年度のペットビジネス全体の市場規模は1兆8,370億円の予測となっている。

ペット関連総市場規模推移と予測

健康に配慮したプレミアムフードや、オーラルケアといった衛生用品など、ペットケアに関する需要は拡大している。主に4つに分かれるペット関連市場の中で、トリミングサロンは市場の約半数を占める「生体+サービス分野」に含まれる。

トリミング需要が高まる一方、トリマーは不足している。一般社団法人ジャパンケネルクラブが発行するトリマー資格の登録者数は、近年約16,000人で横ばいが続く。

トリマーは、ペットの性格や体質、普段の生活に合わせて、見た目だけでなく衛生面やけがを防げるよう整える。口周りや下半身、足裏など繊細な場所にも触れるため、ペットを落ち着かせ、健康状態を確認しながら行う。技術と知識、体力、精神力、コミュニケーション能力が必要な仕事だ。

働き方の多様化が浸透している昨今、トリミング業界でも病院やペットサロンなど組織に属して勤務する人が約半数いるものの、自営やフリーランスも約4割にのぼっていることが厚生労働省のデータで分かる。

一般的な就業形態

厚生労働省のハローワーク求人統計データによると、2022年のトリマーの平均月額賃金は195,000円で、一般労働者の平均月額賃金311,800円に比べ低い印象だ。トリミングサロンでは、料金の改定やオプションメニューの設置、指名料の導入、ペット用品の販売などで売り上げにつなげ、人件費の改善を図っているところも多い。

人間と同様、ペットも高齢化が進んでいる。前述の「全国犬猫飼育実態調査」によると、2023年の犬の平均寿命は14.62歳(2010年比+0.75歳)、猫の平均寿命は15.79歳(2010年比+1.43歳)となっている。

ペットの高齢化によって、さらにペット関連市場の拡大が見込まれる。以前は事故を避けるために高齢犬のトリミングは対応しないサロンが多かったが、近年では高齢犬を受け入れる傾向にある。シニア層が高齢犬を飼うケースも多く、新たに生まれるニーズもあるだろう。さまざまな犬種や幅広い年齢に対応できる知識とスキルを養い、高齢化に合わせたサービスを展開して信頼を獲得していきたい。

トリマーの仕事

トリマーの主な仕事は「トリミング(グルーミング)」「事務」「受付・接客」「清掃・洗濯」に分けられる。

  • トリミング:被毛をカットして整えること(グルーミング:シャンプーや爪切り、耳掃除など清潔を保つため全身をケアすること。グルーミングの1つとして、トリミングがある)
  • 事務:売上管理など店舗運営に関わる事務業務
  • 受付・接客:予約の受付や会計、飼い主から要望の聞き取りなど
  • 清掃・洗濯:店舗の清掃、タオルの洗濯など

その他、エステに特化したトリミングサロンならマッサージやハーブパックなどのエステメニューへの対応、ホテルや病院併設の場合は食事や散歩といった業務を担うこともある。

トリマーはトリミングだけでなく、飼い主の要望を聞き、犬の健康状態をチェックして飼い主に報告するのも大切な仕事だ。対人スキルは信頼を生みリピートにつながる重要な要素となる。

またさまざまな犬種の特性や、犬の習性に関する知識が必要になる。命を預かる仕事でもあるため、働きながら学んでいく高い意識が求められる。

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トリマーの人気理由と課題

人気理由

1. 動物と長時間関われる

ペットの全身を長時間かけてケアするため、ペットの健康異常に気付きやすく病気の早期発見や予防にも貢献できる。

2. 飼い主に喜ばれ、やりがいを感じられる

飼い主から直接感謝を伝えられ、満足感を得やすい。

3. トリミングの需要は高く、この先もニーズが見込める

ペットを家族と同様に扱う人が多く、トリミング需要は続くと考えられる。

課題

  • 新規顧客の獲得、固定客化の工夫
  • 顧客データのDX化
  • 報酬アップに向けた戦略の構築

開業のステップ

トリミングサロンを開業する場合は、以下のような流れになる。

開業のステップ

トリマーに役立つ資格や許可

トリミングサロンを開業するなら「動物取扱責任者」の資格を取得し「第一種動物取扱業」の登録が必要となる。既存サロンでトリマーとして働く場合は、必須となる国家資格などは特にない。

多くの場合、専門学校に1年ほど通い、試験を受けて「公認トリマー」の資格を取る。団体によっては独学や通信制での資格取得も目指せる。ブリーダーのアシスタントやペットサロンで勤務しながらトリマーとして認められるケースもあるが、公認トリマー資格を保持していることを条件に募集しているトリミングサロンもあるため、トリマーの資格を取得していると就職に有利だと言える。

(1) 動物取扱責任者(*1)の資格(トリミングサロン開業の場合は必須)

動物愛護法の定める施設やサービスを管理する責任者のことで、1店舗に最低1名の動物取扱責任者を置かなければならない。動物取扱責任者になるためには、以下のいずれかに該当し、かつ講習の受講が条件となる。

  • 獣医免許を取得している
  • 愛玩動物看護師の免許を取得している
  • 6カ月以上の実務経験(常勤職員)+所定の教育機関を卒業
  • 6カ月以上の実務経験(常勤職員)+動物に関する資格を取得

(*1)動物取扱責任者の詳しい情報は、こちら(環境省)をご確認ください。

(2) 第一種動物取扱業(*2)の登録(トリミングサロン開業の場合は必須)

第一種動物取扱業は、販売・保管・貸出・訓練・展示・競りあっせん・譲受飼養の7種類に分類され、トリミングサロンは「保管」に該当する。実際の内装や設備を保健所に確認してもらい、第一種動物取扱業の登録申請を行う。申請手数料は15,000円前後となる。申請手続きについては、開業する区域の動物愛護管理行政担当組織に確認する。

(*2)第一種動物取扱業の詳しい情報は、こちら(環境省)をご確認ください。

(3) 公認トリマーの資格(必須ではないが役立つ)

広く知られている民間資格は、犬の血統証明書を発行しているジャパンケネルクラブ(JKC)の「JKC公認トリマー(*3)」だ。C級、B級、A級、教士、師範と5段階の公認トリマー資格を発行している。C級から始まり、実際にトリマーとして働くにはB級以上の資格取得が望まれる。

試験は全47都道府県で年1回実施されており、筆記・実技ともに70点以上で合格となる。JKCでトリマー資格取得後は、毎年開催される義務研修会またはトリミング競技会に参加が必須となり、どちらにも不参加の場合、トリマー資格者ではなく保持資格者となるので注意が必要だ。

(*3)JKC公認トリマーの詳しい情報は、こちら(一般社団法人ジャパンケネルクラブ)をご確認ください。

トリマーの資格はJKC以外にも、一般社団法人全国動物専門学校協会が発行する「AAV認定トリマー」や、一般社団法人全日本動物専門教育協会の「SAE公認トリマー」など多数あるので、就職したい店や今後の活動に合わせて取得するのが良いだろう。

開業資金と運転資金の例

トリミングサロンは「店舗型(独立・併設・移動)」と「訪問型」に分けられる。店舗型の方が家賃や内装費がかかるため多くの資金が必要になる。自宅を改装して開業すれば物件取得費を抑えられるが、建築基準法で用途地域が定められているため、自宅地域で開業可能か各自治体に事前に確認が必要だ。

開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内装工事費:電気工事、看板設置、防音・防臭工事、排水工事など
  • トリミング設備費:ドッグバス、犬舎、トリミングテーブル、チェア、ワゴン、ブロアー(ドライヤー)、消毒器、ハサミなど
  • 備品・消耗品費:シャンプー、タオル、事務用品など
  • 広告宣伝費:ホームページ制作費、SNS広告、チラシ印刷など

以下、開業資金と運転資金をまとめた(参考)

開業資金例
運転資金例

保険加入は必須ではないが、トリミングで預かっていたペットが逃げ出したり、トリミング中にけがをさせてしまったりした場合など、万が一のときのために保険に入っておくと安心だ。

また日本政策金融公庫では、創業やスタートアップ支援する「新規開業資金」の貸付制度を用意している。初めて開業する人や廃業歴があり再チャレンジする人に、有利な条件で貸付をしてくれる制度なので確認してみると良い。

<参考>

売上計画と損益イメージ

トリミングサロンを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

売上計画イメージ

年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

ペットブームの影響で、ペットサロンなどペットケアに関するサービスが増えているため、ライバルとの差別化や集客を強化する必要がある。

トリミングサロンを開業する際には、オンライン(ホームページ、SNS、集客アプリなど)とオフライン(新聞折込、ポスティング、地域の広報媒体など)をまんべんなく活用して、あらゆる年齢層にアプローチしていくと良いだろう。

来店してくれた顧客がリピーターとなるためには、トリミングの他にも価値を感じてもらえることが重要だ。ペットの全身ケアを行って健康状態を共有し、飼い主の気持ちを和らげることで信頼を獲得していける。

飼い主との会話の中からニーズを拾い出し、悩みを解消できるサービスやアイテムを提案していければ、売り上げにもつながるだろう。ペットと飼い主の伴走者として、安心できるサービスを提供し、選ばれるトリマーを目指していきたい。

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※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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