ビジネスQ&A

企業(法人)向け販売と、消費者(個人)向け販売では、売り方はどのように違うのでしょうか?

製麺業をしています。これまでは、食品卸売業への納入のほか、ラーメン屋、うどん屋、レストランなどに直接納入する形態で販売しておりました。しかし、最近売上が伸び悩んでおり、新規事業として、製麺工場の一部を改装してラーメン店を開店しようかと考えております。消費者(個人)向けのサービスはしたことがないのですが、企業(法人)向けの商売との相違点、または留意点などを教えてください。

回答

法人は経済合理性や当事者間の関係性を重視して購買の意思決定をするのに対し、個人は多様な感性や環境によって消費の決定を行います。個人向けはよりいっそうのマーケティング活動への注力が必要です。新規事業のリスク管理にも心がけることが望ましいでしょう。

個人向けのビジネスと、法人向けのビジネスとでは、顧客のニーズや特性もまったく異なるために、営業方法、価格設定、顧客サービスなどあらゆる点で異なるアプローチをしなければなりません。

商品が近いものであっても、ビジネスモデルはまったく異なるものを用意しなければならず、このケースの場合、売上回復策として消費者向けビジネスに打って出ることが妥当であるかの検討を十分に行わなければなりません。ここでは、行うという前提のもとに、注意点などを見ていきます。

まずは、法人がどのような意思決定によって購買活動を行っているかを確認してみましょう。法人は、営利目的の経営活動の一環として購買を行うので、商品力や取引条件などの収益に対する影響をもつ要素が、もっとも重要視されることになります。また、基本的には安定的な供給を受けるという観点から長期的な取引関係を志向しますので、法人間や担当者間の良好な関係を築くということも重視されるでしょう。

つまり、法人の購買においては、経済合理性と当事者間の関係性、歴史がものをいうと考えられます。

それに対して、個人の消費はどのように決定されるのでしょうか。まず個人は、十人十色の価値観をもち合わせます。経済合理性は、価値観の一つに過ぎません。金銭感覚や嗜好、センスなどさまざまな要素を織り交ぜて、自らの満足度が高い商品を購入するということができます。法人の購買に対して、個人の消費は感性、感情や環境がものをいうということができます。

このように個人の消費と法人の購買とは、まったく意思決定のシステムが異なり、また個人のほうが不確定要素の多いなかで意思決定を行っているので、消費を促すことを期待する企業としては、法人向けのビジネスにも増して、よりいっそうマーケティング活動を熱心に行っていく必要があります。

また、いままで法人向けのビジネスのみで活動してきた企業が、個人向けビジネスを始めようとする際に問題となるのが、組織風土、文化の問題です。いままでとまったく違うアプローチを行わなければならないのですが、法人向けビジネスの歴史、文化で育まれた組織から真新しい発想を産むことは困難であると言わざるを得ません。

 法人向け営業と個人向け営業の違いの一覧  法人向け営業と個人向け営業の違いの一覧
表1 法人向け営業と個人向け営業との基本的差異

この対処法としては、まったく新しい人材を外部より調達し、新しい文化を導入し浸透させること、あるいは新規事業の組織を既存事業の組織から分離して、新しい文化を創り出すことのどちらかが考えられます。組織を分離することは、経営資源の適正配分、調達や構成員の処遇など、検討する課題を多く抱えることとなりますが、新規事業の立ち上げにはそのくらいの準備や心構えが必要なのではないでしょうか。

また、今回のケースですと、自社施設を改装しての出店ということですが、店舗を構える個人向けビジネスの場合、出店コストや施設の維持費用、人件費など新たな固定費負担が発生することがほとんどでしょう。ですから、粗利益の高さに魅力を感じて進出した個人向けビジネスが、固定費を賄う売上をあげることができずに、投資回収はおろか営業利益さえあげられないといった事態に陥らないように、事前に収益計画は綿密に立てておくことが肝要です。

これらの注意点、留意点を総合的にとらえ、商品の関連性があるとは言え、法人向けビジネスの経験しかない企業が消費者向けビジネスを行うことには、大きなリスクが伴うことを認識していただきたいと思います。

リスクを踏まえたうえで、新規事業に挑戦する場合の留意点は、投資をなるべく小さい形で始めることと、専門家の助言を受けることの2点です。「小さく産んで大きく育てる」スタイルで取り組むことと、経験やノウハウがある専門家と協働することによって、リスクをできるだけ小さく抑えていくことが不可欠と言えます。

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回答者

中小企業診断士 櫻井 正人

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