ビジネスQ&A

「市場の細分化」は何のために行うのですか?

市場を細分化することは重要な営業戦略の一つと聞いております。しかし、細かく分けるとその分、市場が小さくなるので、逆にお客さまの層を狭めてしまうと思います。何のために細分化を行うのでしょうか?

回答

経営資源の少ない中小企業は、自社のもっとも得意とする分野に特化・差別化を図り、細かくわけた市場に資源を投入(集中)することが、経営戦略の中心となります。つまり、細分化された市場のその部分で、他社の追随を許さない地位を築くことが目標となるわけです。細分化で対象となる客層の全体(母集団)が減っても、優位な地位を使って、重要顧客のリピート率をあげることで、収益の向上(最終目標)を目指すことができます。つまり、市場細分化を一言でいえば、「収益向上のために、自社に見合った標的市場を選定する作業」ということになります。

大手企業と違い、中小企業は経営資源(ヒト・モノ・カネ)が非常に限られています。もし大手と同じようにあらゆる顧客層を相手にすると、経営資源があちこちに分散されてしまい、体力のある大手企業との競争には勝てません。中小企業が競争に勝つためには、自社のもっとも得意の土俵で勝負することが基本戦略になります。その土俵の選定が、市場細分化ということになります。

細分化された得意の市場で、他社にない差別化と得意とする分野に経営資源を集中特化して、その分野で誰からも一目置かれる存在になる(別の言葉に置き換えれば、ナンバーワンになる)ことが、リピーターを増やし、価格競争を回避して、収益や経営効率の向上を図る戦略になります。

ご質問にあるように市場を細分化すると、対象とする顧客が少なくなることは事実です。100万人対象の商品が、細分化することでその対象は5万人になるかもしれません。しかし大手も中小企業も多く存在する100万人のマーケットで、品揃え・品質・価格などの面でトップでない会社が、一体何人の方に他社品と比較検討した結果、選んでもらえるでしょうか? 

そのような市場環境のところに、コストをかけて販売促進を実施して「一体何人に買っていただけるか」ということを心配するよりも、5万人を対象としても自社がもっとも強い分野で勝負し、5万人のために細かいフォローをしていく方が、効率的で収益性もよく、また得意分野の市場環境の変化もいち早く分かるので、先手を打つことができます。

では、市場の細分化はどのようにすればよいのでしょうか?それはまず市場に同じようなニーズをもつ顧客を見つけ、そのグループごとに分けていくことです。細分化の仕方としては、

  1. 地域で分ける
  2. 年齢・性別で分ける
  3. ライフスタイルで分ける
  4. 消費者の利便性で分ける(アフターサービス重視など)

などがあると思います。切り口は自社の経営資源と市場特性を考慮することが重要ですので、これらの分け方にとらわれず(場合によっては複合することで)、細分化すればよいでしょう。

市場細分化の切り口の例 市場細分化の切り口の例
表1 市場細分化の事例(主な分け方)

次にその細分化された市場の中で、ナンバーワンの地位を築くことを営業戦略としましょう。なぜ市場でナンバーワンの地位を築くことが営業戦略になるのでしょうか?そのメリットとしては、以下のような点があげられます。

  1. 一番になればお客さんに覚えてもらえる(それ以外はなかなか覚えてもらえない)。
  2. 一番になれば収益性が上がる(それ以外は価格を下げる必要がある)。
  3. 一番になれば従業員の自覚と責任が生まれる(それ以外よりもそれらが高確率になる)。

以下、この3点を補足します。

まず、1. についてですが、身近な例として、日本で一番高い山は富士山ですが、2番目に高い山は?となると正解率が激減します。 つまり、知名度をあげるためには2番目でなく、ナンバーワンである必要があるということです。

そして、2. についてですが、買い手は同じような商品を購入する場合、特別な理由がない限り、価格が同等もしくは少しぐらい高くても、知名度のある(安心感のある)商品を選びます。だからナンバーワンは自分から安売りをする必要はありません。

最後に、3. についてですが、従業員のモチベーションがナンバーワンの自負で向上します(昔から「立場が人をつくる」という諺もありますね)。

ナンバーワンになるということは、市場細分化で対象となる地域(商圏)を限定し、その中で「○○○であれば、このお店」ということになればよいのです。それは何も品揃えに限ったことではありません。同じ商品でもサービスに特化するなど、工夫の仕方でもナンバーワンになることはできます。

たとえば、釣具屋さんの場合をあげてみます。まともにやっては、大手の販売会社の品揃えや価格には勝てません。だから、市場細分化で独自の地位獲得・その分野の専門店となる戦略をとります。立地が小学校の多い場所であれば、通常の釣り好きを対象とするのではなく、家族サービスをするためのお父さんという属性まで絞り込んで(市場を細分化して)、その専門店になれば勝機は訪れます。この場合は、品揃えよりもサービスの差別化(親子釣り大会や初心者のお父さんへの釣り教室の実施)で、「親子の釣具店」というイメージをつくり、その地域・その部分でナンバーワンの釣具店となることです。

このイメージのお店は、専門的な中・上級向けの釣用品は不要となり、経営資源もセーブできます。一方、夏休みの思い出になる魚拓作成教室など、マニュアル化された大型店ではできない展開をすれば、お店のファンができて、リピート率をあげる展開が可能となります。さらにファンによって口コミ効果が発生し、従来の商圏より外の顧客でもターゲットと同じ属性の方が来店することが期待できます。

いかがでしたでしょうか?身近な例をもとに市場細分化のメリットをあげてみました。自社の経営資源で対応できるような切り口で市場を細分化して、「得意分野で勝負し、そこに活路を見出していく」といったことのヒントにしてください。

回答者

中小企業診断士 秋島 一雄

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