ビジネスQ&A
一時的に融資してくれるような制度はないでしょうか。
2025年 1月 22日
現在は資金繰りが厳しい状態ですが、近い将来に業績が回復する見込みです。一時的に融資してもらえるような制度はないでしょうか。
回答
資金繰り改善のための支援制度は複数存在します。これらの制度を戦略的に活用することで、一時的な資金不足を乗り越え、経営の安定化を図ることができます。重要なことは、自社の状況を客観的に分析し、適切な制度を選択することです。また、単なる資金調達だけでなく、経営改善策と連動させた返済計画を立てることで、より効果的な経営改善につなげることができます。そのためには早期の対応と準備、そして必要に応じて専門家のアドバイスを受けることも成功の鍵となるでしょう。
1.資金繰り支援制度の概要と選択のポイント
2024年9月現在、新型コロナウイルス感染症に端を発する中小企業向け資金繰り支援策は、そのほとんどがコロナ前の水準に戻り、経営改善や再生支援に重点を置いた施策への転換が図られています。しかし、円安などに伴う原材料やエネルギーコストの高騰に影響を受け、今なお資金繰りに苦しむ中小企業も少なくないでしょう。
今回紹介する「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」「中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)」「小規模企業共済制度」の3つの制度は、資金繰りの改善に寄与する一時的な融資制度を備えています。まずは、各制度の特徴を簡単に説明します。
(1)経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
- 一時的な業況悪化に対応する緊急融資制度
- 売上高の減少幅に関係なく利用可能
- 他制度に比べ融資額が大きい
(2)中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)
- 取引先の倒産リスクに備える共済制度
- 掛金を積み立て、必要時に貸付を受けられる
- 税制上のメリットあり
(3)小規模企業共済制度
- 退職金準備と緊急時の資金調達を両立
- 個人事業主や小規模企業の役員が対象
- 掛金の全額所得控除や共済金の優遇税制あり
これらの制度を選択する際のポイントは、以下の通りです。
(1)現在の経営状況と将来の見通し
- 一時的な資金不足なのか、構造的な問題なのかを見極める
- 将来の回復見込みを具体的に検討する
(2)必要資金の額と用途
- 運転資金なのか、設備投資資金なのかを明確にする
- 必要額を正確に算出し、過不足なく調達する
(3)返済能力と期間
- 将来のキャッシュフローを予測し、無理のない返済計画を立てる
- 短期的な資金需要か、中長期的な資金需要かを見極める
(4)税制上のメリット
- 掛金の損金算入や所得控除など、税制面での優遇措置を考慮する
- 資金調達だけでなく、節税効果も含めて総合的に判断する
これらのポイントを踏まえ、自社の状況に最適な制度を選択することが重要です。例えば、一時的な売上減少に直面している場合はセーフティネット貸付が適しているでしょう。一方、取引先の倒産リスクが心配な場合は経営セーフティ共済が有効です。また、個人事業主の方であれば、小規模企業共済制度で将来の備えと緊急時の資金調達を両立させることができます。
2.各制度の詳細と活用方法
それでは、先ほど紹介した3つの制度について、より詳しく見ていきましょう。
(1)経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
セーフティネット貸付は、一時的に業況が悪化している中小企業を対象とした融資制度です。
【制度詳細】
融資限度額:中小企業事業で7億2,000万円、国民生活事業で4,800万円
返済期間:設備資金15年以内(うち据置期間3年以内)、運転資金8年以内(うち据置期間3年以内)
金利:基準利率(一定の要件を満たせば特別利率が適用)
【申請の流れ】
- 日本政策金融公庫への事前相談
- 必要書類の準備(財務諸表、資金計画書など)
- 正式申し込みと審査
- 融資実行
【活用事例】
製造業A社は、半導体不足と国際的な原油価格高騰による原材料費の急激な上昇に直面しました。セーフティネット貸付を活用することで、運転資金を確保し、生産体制を維持しながら代替材料の研究開発に取り組むことができました。
(2)中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)
経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
【制度詳細】
対象:1年以上事業を継続している中小企業者・個人事業主
月額掛金:5,000円~20万円(5,000円単位で設定)
積立限度額:800万円
貸付限度額:掛金総額の10倍(上限8,000万円)
借入条件:無担保・無保証人、無利子(貸付額の10分の1に相当する額を控除)
【メリット】
- 掛金は税制上、全額が損金または必要経費に算入可能
- 取引先の倒産いかんを問わず、臨時に事業資金が必要な際には一時貸付金制度が利用できる(別途借入条件あり)
【活用事例】
小売業B社は、主要取引先の突然の倒産により売掛金の回収が困難になりました。経営セーフティ共済に加入していたため、速やかに共済金の貸付を受け、資金繰りの悪化を防ぐことができました。
(3)小規模企業共済制度
小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などを対象とした、積み立てによる退職金制度です。掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できます。
【制度詳細】
月額掛金:1,000円~7万円(500円単位で設定)
共済金の受け取り:退職・廃業時に一括または分割で受け取り可能
借入条件:事業継続中に、掛金の範囲内で最高2,000万円まで、無担保・無保証人、低利での借入が可能
【メリット】
- 掛金全額を課税対象所得から控除できる
- 共済金の受け取りは退職所得扱い(一括受取の場合)
【活用事例】
サービス業C社の経営者は、コロナ禍での売上減少に直面した際、小規模企業共済の一般貸付を活用しました。これにより、無担保・無保証人で低利の資金を調達し、事業の継続に必要な運転資金を確保することができました。
これらの制度は、それぞれ異なる特徴と利点を持っています。自社の状況に応じて最適な制度を選択し、必要に応じて複数の制度を組み合わせることで、より効果的な資金繰り対策が可能になります。
3.制度活用における戦略的アプローチ
資金繰り支援制度を効果的に活用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、制度活用における戦略的アプローチについて解説します。
(1)返済計画の重要性
支援制度を利用する際、最も重要なのは現実的な返済計画の策定です。
・将来の売上予測に基づいた計画
楽観的すぎる予測は避け、保守的な見通しを立てましょう。また、複数のシナリオ(最悪、最良、中間)を想定し、経営環境の変化に対し常に柔軟に対応できるように準備しておくことが重要です。
・経営改善策との連動
単なる資金調達に留まらず、経営改善策と連動させた計画策定が効果的です。コスト削減、業務効率化、新規事業展開など、具体的な改善策を盛り込んで検討すると良いでしょう。
【具体例】
製造業D社は、セーフティネット貸付を利用する際、過去3年間の財務データを分析し、今後3年間の売上と経費を保守的に予測しました。同時に、新規設備導入による生産性向上計画を策定し、返済原資の確保につなげました。
(2)複数制度の組み合わせ
一つの制度だけでなく、複数の制度を組み合わせることで、より効果的な資金繰り対策が可能になります。
・短期的な資金需要と長期的な備えのバランス
自社の経営状況を客観的に判断し、短期的な資金繰りだけでなく、中長期的な資金計画を検討しましょう。
例えば、
a. セーフティネット貸付で当面の資金を確保しつつ、経営セーフティ共済で将来のリスクに備える
b. 小規模企業共済に加入して、退職金の準備と緊急時の資金調達手段を確保する
などが考えられます。
・組み合わせることでメリットを最大化
各制度には税制上のメリットが存在します。まずは制度を理解した上で、必要な場合は税理士などの専門家に相談し、最適な組み合わせを検討するのも良いでしょう。
【具体例】
サービス業E社は、セーフティネット貸付で運転資金を確保しつつ、経営セーフティ共済にも加入しました。さらに、経営者個人で小規模企業共済に加入することで、会社と個人両面での備えを強化しました。
(3)早期の対応と準備
資金繰りの問題は、早期発見・早期対応が鍵となります。
・経営状況の定期的なチェック
自社を取り巻く経営環境は、刻一刻と変化しています。月次での財務分析を習慣化するなど、最新の経営状況は常にチェックしておきましょう。その際に資金繰り表を作成し、先々の資金需要を把握することも重要です。
・平常時こそ制度加入の検討を
経営セーフティ共済や小規模企業共済は、平常時から加入しておくことができます。緊急時に備え、各制度の申請手続きや必要書類を事前に確認しておきましょう。
【具体例】
小売業F社は、毎月の経営会議で資金繰り状況を確認する体制を整えました。その結果、売上の減少傾向を早期に察知し、速やかにセーフティネット貸付の申請準備に着手することができました。
(4)専門家への相談
資金繰り対策は専門的な知識が必要な場合も多いため、専門家に相談することが重要です。
・中小企業診断士や税理士などの活用
中小企業診断士は経営全般に関する診断・助言を行う「経営の主治医」です。自社だけでは解決困難な経営課題に対して、財務分析や事業計画の策定などを通した伴走型支援を行います。また、税制面でのメリットを最大化するためには、税理士への相談も有効です。
・地域の商工会議所や中小企業支援センターの利用
商工会議所・商工会や中小企業支援センターでは、中小企業の経営課題解決に向けた各種支援を行っています。これらの機関が開催する各種経営セミナーや相談会にも、積極的に参加してみてはいかがでしょうか。
【具体例】
製造業G社は、地域の商工会議所が主催する経営相談会に参加し、中小企業診断士からアドバイスを受けました。その結果、自社の強みを活かした新規事業計画を策定し、セーフティネット貸付の申請時に活用することができました。
さて、今回は一時的な融資を受けられる3つの制度を紹介しました。重要なのは、自社の経営状況を客観的に把握し、「何のために融資を受けるのか」という目的を明確にした上で適切なアプローチを取ることです。専門家の助言を得ながら検討してみてください。
- 回答者
-
中小企業診断士 佐合 和行
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