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内部留保のメリットとデメリットについて教えてください。

2025年 3月 21日

法人相手に電気工事を請け負う会社を経営しています。経営基盤の安定化を図るため、内部留保を増やそうと考えていますが、それによって問題もあるのでしょうか。内部留保のメリットとデメリットについて教えてください。

回答

内部留保とは、企業が生み出した最終的な利益(当期純利益)のうち、配当金や賞与として外部に出さず、企業内部に蓄積する資本のことを言います。主なメリットは、財務の安定性が向上し、様々な経営リスクへの対応力が高まることにあります。また、投資の原資となり、借入に頼ることなく企業の成長に向けた投資をすることができます。逆にデメリットは、内部留保を増やすと、配当や賃金の引上げが抑制される為、株主や従業員の心象に悪影響を及ぼす可能性があります。

1.内部留保とはなにか

(1)貸借対照表でみる内部留保

「内部留保」の定義は様々ありますが、基本的には会社が得た利益を内部に積み立てたお金のことで、「利益剰余金」として貸借対照表の純資産の部に記載されています。

貸借対照表上に表現される内部留保のイメージ

利益を上げて利益剰余金を積み上げていくことは、会社の資本を拡大させることに直結するので、会社を成長させていく上で非常に重要なプロセスです。

まずは、基本的な貸借対照表の読み方からご説明します。

貸借対照表は、左側の借方と呼ばれる部分と右側の貸方と呼ばれる部分の金額が必ず一致します。そして簡単に言ってしまえば、借方(左側)が事業を運営していくための資産、貸方(右側)がその資産を手に入れるための元手という読み方ができます。つまり、事業を運営する資産を手に入れるために、金融機関から借入をして手に入れているのか、それとも自らが稼いだ利益で手に入れているか、などの割合が分かるのが貸借対照表です。

そのため内部留保を増やして投資を行うという事は、自らが稼いだ利益を元手に成長していくという事になるため、企業を成長させるための基本でありながら重要なプロセスであるということが分かると思います。

また、補足として、図を見て頂くと分かるように、「内部留保=会社が現在保有している現金や預金」ではありません。万が一のために現金や預金などの資産として保有されている場合もありますが、多くの場合は機械設備や建物などの資産として保有されています。

(2)利益剰余金について

内部留保とされる「利益剰余金」は、企業が毎年積み上げてきた利益の累積であり、利益剰余金は下記のようにいくつかの種類に分類されます。

利益剰余金の内訳分類

【利益準備金】
配当や自己株式を取得する際に、債権者を保護する目的でその1/10以上を利益準備金として積み立てるよう会社法によって義務付けられている。

【その他利益剰余金】
利益準備金以外の利益剰余金のこと

【任意積立金】
企業が利益剰余金の一部を、設備投資や災害に備えて任意に積み立てることができる。目的のために積立金を取り崩す際や目的を変更する際は、株主総会の決議が必要になる。

【繰越利益剰余金】
配当や積立金に充てることなく翌年(翌会計年度)に繰り越す利益のこと

このように、利益剰余金は債権者を保護するための資金と、成長に向けた投資及び緊急事態のための積立金などを包括したものとなります。そのため、内部留保とされる利益剰余金は、企業財務の安全性や収益性の判断基準になっています。

2.内部留保の主なメリットの詳細

内部留保を蓄積することのメリットは、主に下記のようになります。

(1)財務基盤の強化が図れる

企業が資金を内部留保として企業内に留めておくことで、自己資本である純資産が増加します。そのため、財務の安全性を図る指標である自己資本比率が向上し、財務の安定性の確保を図ることができます。特に、コロナ禍を始めとした不況や市場環境の悪化が起きた際には、内部留保が企業の存続を支えるクッションとして機能します。

(2)投資への原資になる

内部留保を蓄積していくことで、企業は設備投資や研究開発、人材育成といった成長のための投資を計画的に進めていくことが可能になり、競争力の向上や市場シェアの拡大が期待できます。

株式や社債の発行によって調達した資本で投資を行う際は、ステークホルダーの増加という懸念事項が発生しますが、計画的に内部留保を行うことで、既存の経営陣の意思決定によって投資が可能です。経営者が描くビジョンに沿った投資活動を行うことができます。

(3)株主への間接的な利益還元が可能

内部留保を蓄積することは、配当として還元されない割合を増やすことにもつながるため、一見すると株主の利益を損ねるように見えますが、長期的視点においては株主にもメリットが存在します。内部留保の計画的な蓄積による企業の成長や安定性が確保されることによって、株価の向上が見込めることになります。

(4)財務コストの削減につながる

内部留保を蓄積しておくことで、外部からの借入を抑制できるため、支払利息などの財務コストの負担が軽減されます。

また、借入金の少ない企業は財務リスクが低く、信用力も高まる傾向にあります。さらに、借入を行う際も信用力が低い場合に比べて有利な条件を得ることができる可能性が高まります。

上記のように、内部留保は短期的な視点の利益追求よりも、長期的な視点で成長や安定を目指す企業において非常に重要な経営資源になります。

しかし、内部留保を蓄積していくことは一見いいことづくめのようにも見えますが、活用の仕方によっては少なからずデメリットも存在します。

3.内部留保のデメリットと注意点

内部留保単体で絶対的なデメリットはほとんどありませんが、企業が生み出した利益の他の使い道などと比較して相対的なデメリットが発生するケースがあります。

具体的には、以下の2点で、注意点も合わせてご紹介します。

(1)資金の運用が非効率的になる可能性がある

内部留保を蓄積しすぎると、資金を効率的に運用できないリスクが生じます。特に、投資機会が乏しい場合や経営陣の判断が保守的すぎる場合、内部留保は企業価値向上につながらない単なる資金の滞留となってしまう可能性もあります。

また、内部留保があることによって経営上の余裕が生まれ、それによって適切な経営判断ができずに不採算部門が存在し続けたり、成長性の低い事業への投資が続いたりする可能性もあります。

(2)ステークホルダーと関係性の悪化リスクがある

内部留保は会社が生み出した利益の分配先の一つであり、その他の分配先として株主への配当や従業員への賃金なども存在します。そのため、内部留保を過剰に蓄積しようとすることは、金銭的・人的資本を投じてくれている株主や従業員に対して、利益を還元していないともとられてしまうため、株主からの配当増加の要求や従業員の賃金に対する不満を引き起こす場合もあります。

内部留保のデメリットを回避するために

内部留保は、あくまで生み出した利益の分配先の一つであるため、他の使い道とのバランスが崩れることによってデメリットが発生します。

そのため、内部留保を蓄積する際のデメリットを回避する為には、そのバランスを保つために成長戦略を明確にし、株主や従業員の理解を得た上で進めていくことが重要です。

適切な内部留保の目安とは

内部留保の適切な量は、もちろん企業の状況や計画の方向性によって異なりますが、内部留保を不測の事態に備えるための資金として捉えた場合、内部留保の全てを投資に充てるのではなく、半年から1年分の固定費(人件費や賃料)などを手元資金として残しておくことが一般的です。

企業の規模によってもその傾向は分かれており、大企業は内部留保を投資として活用し、中小企業は貸し倒れなどによる資金繰りの悪化に備えて、現金や預金などの流動性の高い資金として残しておく傾向にあります。

回答者

中小企業診断士 五十嵐 透

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