ビジネスQ&A

会社を従業員に承継するメリットはどんな点でしょうか。実際の手順や注意点も教えてください。

2026年 1月 16日

事業承継を検討していますが、従業員に承継するメリットはどんなことでしょうか。また、その場合の手順や必要になる手続き、注意すべき点も教えてください。

回答

事業承継には、「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」の3つがあり、従業員承継は後継者が自社事業・人間関係に精通している点で大きなメリットがあります。現経営者の理念や会社の実情を理解しているため、承継後の運営が比較的スムーズに進みやすいのが特徴です。また、後継者の選定においては、経営者としての資質・能力を見極めつつ、親族内承継より広い候補から検討できることも利点です。

1.事業承継の概要と従業員承継のメリット・デメリット

(1)事業承継の概要

事業承継とは、現経営者から後継者へ事業のバトンを渡すことです。人・物・金・知的資産など会社の多様な資産を円滑に引き継ぎ、承継後の経営を安定・継続させるために極めて重要です。検討にあたっては、株式(資本)の承継と事業(経営)の承継の両面を考える必要があります。

株式(資本)の承継

ここでは株式会社を前提に説明します。株式会社の最高意思決定機関である株主総会には、普通決議・特別決議などがあり、各株主の議決権(株式)の保有比率により意思決定への影響度が変わります。

  • 株式の過半数を保有:取締役選任(普通決議)を主導でき、資本と経営の一体運営が可能。
  • 株式の3分の2以上を保有:定款変更・合併等(特別決議)といった会社の根幹に関わる決定が可能。

一方で、株式には財産価値があります。業況良好な会社は、株式評価額が高額になりやすく、従業員後継者が取得資金を用意できないことが、承継のハードルになる場合があります。

事業(経営)の承継

地位・権限の移譲に加え、「取引先との関係の維持」「幹部・補佐人材の育成」など、目に見えにくい経営資源(知的資産)の承継が要点です。会社の強みの源泉である知的資産(経営理念、人材、技術、ブランド、ノウハウ、顧客ネットワーク等)は、貸借対照表に表れにくいため、後継者はその実態を十分に把握する必要があります。その把握に基づき、強みを伸ばし弱みを補う取り組みを行い、業績の向上へつなげます。

現経営者と後継者が互いの理解を深めるためには、知的資産の見える化が有効です。沿革・現状を整理し、将来像を経営計画としてまとめておくとよいでしょう。

(2)従業員承継のメリット・デメリット

従業員承継には、一般的に以下のようなメリット・デメリット(留意点)があります。

メリット
  • 自社理解・人間関係がすでに形成されているため、承継後の運営が円滑に行える。
  • 後継者が親族内に限定されないため、資質・能力を見極めた上で多くの候補から選出できる。
デメリット(留意点)
  • 親族などの心理的受容に時間がかかる場合がある。
  • 従業員側に株式取得資金が不足し、株式承継のハードルになりやすい。
  • 会社借入に係る個人保証の引き継ぎが難しいことがある。
  • 経営リスクを負う前提で入社していない場合が多く、育成・引き継ぎ期間が必要。

2.従業員承継の手順

従業員承継は、例えば共同創業者や番頭格の役員、優秀な若手従業員などが後継者候補となります。また、将来的な親族承継に向けた中継ぎとして、一時的に従業員承継が行われることもあります。一般的に、従業員承継は以下のような流れで行われます。

  1. 現状の把握(候補未定の場合は選定)
  2. 事業承継計画の策定
  3. 関係者の理解・後継者教育
  4. 実行(株式・経営の承継)

まず、1、2の要点は以下のとおりです。

(1)現状の把握

現状把握で要点となるのは、主に下表の5項目です。

現状把握の要点

(2)事業承継計画の策定

事業承継は、一般的に5年から10年の中長期で取り組みます。事業承継計画は、現経営者と後継者の間で認識を合わせていく経営の道しるべとなります。

事業承継計画の策定

3.従業員承継の留意事項と対応策の例

(1)承継タイミングの明確化

事業承継において特に重要なのは、「いつ承継するか」を明確に決めることです。現経営者は事業経営に忙しく、後継者への承継を先延ばしにする傾向があります。早い段階で承継する時期を明確にし、計画を立てることが大切です。

(2)利害関係者の理解

従業員承継の場合、利害関係者の理解を得るまでに多くの時間がかかることもあります。現経営者の親族の意向や、後継者候補の考え方などは、十分に確認しておくべきです。

利害関係者の理解

(3)株式の承継方法の検討

株式を承継する場合の主な選択肢は、譲渡、贈与、経営のみ承継の3つです。従業員には株式の取得資金がないケースや、贈与税などの納税資金を負担できないケースも多く、事業承継のハードルになることがあります。

株式の承継方法

(4)株式承継の対応策(例)

主な対策として以下の手法や支援策があります。自社に合った対策を見極めるには、専門家に相談することをお勧めします。

株式承継の対応策

(5)選択肢の再検討

従業員承継は、メリットがある一方、デメリット(留意点)もあります。事業承継の方針は、会社の現状、将来の見通し、現経営者の意向などを踏まえて、慎重に検討する必要があります。検討した結果、親族内承継や第三者承継(M&A)を選択する可能性もあると思います。事業承継は利害関係者が多く論点も広いため、専門家と十分に相談しながら、慎重に検討することをお勧めします。

回答者

中小企業診断士 蒔田 稚朗