業種別開業ガイド
Web制作代行業
2020年 7月 31日
トレンド
(1)市場は拡大基調
企業から個人まで自らのWebサイトを構築したいといった需要は根強く、コンテンツ制作のアウトソーシングの市場規模は2015年度で650億円、前年比159.3%(矢野経済研究所調べ)まで拡大。以後もインターネット新技術の反映もあって伸張傾向は続き、市場規模は既に1,000億円台にのせている公算が大きい。
(2)小規模、零細業者やフリーランス中心
業界を寡占化するような目立った専業大手はなく、制作担い手の多くは小規模、零細業者やフリーランスにて構成される。開発が一巡した大手企業などはシステム開発部門を擁し、自社内で運用までを手掛けるケースが多い。このため、小規模以下のWeb制作業者にとっては中小企業や一般個人が主なターゲットとなる。
(3)受注ルートの多様化
従来は口コミや紹介といった受注ルートで顧客を確保することも多い業界であった。しかし、近時ではクラウドソーシングサービス経由で顧客サイドとマッチングし、案件ごとに受託するケースもみられている。ただし、参入障壁が低く、フリーランスを含めた業者数はやや飽和状態でもあり、簡易な案件の単価は値崩れといった様相もうかがわれる。
ビジネスの特徴
Web制作代行業とは、顧客よりWebサイトの構築を請負う開発業者のことであり、企業ホームページなどの戦略策定から企画、コンテンツ作成、設計、デザインから運用までを事業領域とする。一方で、対応分野としてはWebサイト構築のみならず、ネット販売窓口の実装、関連アプリやゲーム開発、IoT対応などとIT技術の進歩によって広がりをみせている。
Webサイト構築代の相場は仕様やページ数、ネット販売システムの導入有無などによって異なるが、フリーランスによる簡易なサイト構築で15万円超、中小業者で30~100万円、大手クラスの業者で100万円超となる。その収入から開発者の人件費、外注費などを賄う仕組みとなる。
開業タイプ
(1)独立型
IT業界にて経験を積んだ開発技術者が独立するケースで、自宅での開業も可能である。競合の厳しい中にあっても、受注を集めることのできる専門性と技術力を有していることが好ましい。
(2)他業種からの参入型
印刷業やデザイン業、広告関連企業などが兼業として参入するケース。母体となるグループの知名度、取引網に基づいた顧客基盤を有している点に強み。ただし、専業ほどの技術力がなく、下請けに外注に出す必要が生じる分、やや高めの価格設定になってしまうことがある。
開業ステップ
(1)開業のステップ
特別な資格も必要とせず、自宅での開業も可能なため、開業ステップはさほど煩雑ではない。
(2)必要な手続き
Web制作代行業を運営するにあたって法的には資格、手続きなどは必要としない。
なお、Webサイトやプログラム、データベースなどは技術的な著作物として認められている。よって、複製権や私的使用に関わる問題、または引用などの制約事項に精通している必要がある。
メニュー、商品の品揃えなど
独立して開業する場合、数多くの同業他社と差別化を図るため、専門領域を明確にするなど法人としてのコンセプト提示が重要となってくる。戦略から企画、コンテンツ作成、設計、デザインから運用といった領域のうち、戦略や企画、マーケティングに強みを有するのか、デザインに特徴があるのかなど。得意ではない分野がある場合は、連携して協業できる人的ネットワークを擁しているかが鍵となろう。
必要なスキル
経営者個人として資格はとくに必要ない。ただし開業当初、経営者自身が開発者として従事する以上、設計技術については一定以上の能力が求められる。加えて、大口案件の場合は、それぞれ担当分野を割り振った外注業者などを束ねるケースもあり、プロジェクト管理者としてのコミュニケーション能力も重要なスキルと云えよう。
また、あくまでも代行業という性格を考えると、顧客の要望を的確に掴み、そうした要望をWebサイトに確実反映させるようなスキルが要求される。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【独立型、郊外に26平米の事務所を構え、1名で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
経営者前職の人脈より一定顧客を備えて開業。
b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、インターネット利用サポート業に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
※経営者への報酬は売上原価に180万円、販売管理費に180万円を計上。
c.収益化の視点
TSR中小企業経営指標によると、インターネット利用サポート業の売上総利益率は36.7%となるが、開業当初はスタッフを抱えず、経営者1名にて運営されるものとして、上記損益イメージでは、経営者への役員報酬360万円を売上原価、販売管理費における人件費に折半して計上している。取り立てて事務所なども必要なく、自宅内での開業も可能といった業態であり、昨今は開発用PCも高額ではないため、初期投資は抑えられる。よって、投下資金の短期回収も可能ではあるが、その前提として開業当初より損益分岐点を上回る受注を確保することが必要となる。際立った技術力がない場合は単価競争にさらされることもあるが、独自の専門性や技術力が評価されれば零細規模でも単価の高い受注を得られることがあり、ある意味、技術一つで生き残ることのできる業界とも云えよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)