業種別開業ガイド

宅配食

2021年 8月18日

トレンド

(1)拡大続く中食市場

共働き世帯や少人数世帯の増加、高齢化、労働の長時間化などを背景に、弁当や惣菜などの調理された食品を購入して家で食べる「中食」需要は拡大傾向にある。2019年の惣菜市場規模は10兆3,200億円と10年連続でプラス成長を続けている(出典:日本惣菜協会『2020年版惣菜白書』)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で来店客が激減している飲食店では、テイクアウトやデリバリーへ注力する動きを強めており、中食における業者間の競合は今後強まるものとみられる。

(2)ダイエットに宅配食

近年、健康意識の高まりから糖質制限ダイエットなどが注目を集めているが、正しい知識に基づいて食事管理を継続することが難しいと感じている人も多い。そのようなニーズに特化し、ダイエットやボディメイクのための栄養バランスを考えた宅配食が人気となっている。栄養だけでなく、味やメニューの豊富さにも気を配り、美味しく食べながらダイエットが継続できるようになっている。

(3)「ゴーストレストラン」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、デリバリーに特化した「ゴーストレストラン」が注目されている。キッチンだけの店舗で調理し、「出前館」や「Uber Eats」などのデリバリー業者に配達を依頼する。初期投資が少なく開業が容易であることから、今後こうした業態も増加してくることが予想される。現在のところ宅配食とは顧客層が異なる様子であるが、これからの展開によっては影響を受ける可能性も考えられる。

ビジネスの特徴

宅配食は、調理済みの弁当や惣菜セット(冷蔵または冷凍状態)を指定された日時に顧客の自宅に届けるサービスである。基本的に会員登録による定期購入となるが、1食からの注文が可能な場合もある。高齢者向けの宅配弁当や糖尿病・腎臓病の療法食などがよく知られており、味と栄養バランスに配慮がなされている点が特徴である。こうしたヘルシーさが人気となって、最近ではダイエットを目的に宅配食を注文する顧客も増えており、そのような顧客をターゲットにした宅配食サービスも出てきた。また、多忙な共働き世帯の利用も拡大している。
冷蔵状態での商品を宅配する場合は商圏が限定されるが、低コスト・小規模からの開業が可能である。冷凍状態であれば全国配送が可能だが、製造設備など一定の規模を要するため、コストを吸収し収益を上げられるのか、開業に際してビジネスモデルの検証が必要である。

開業タイプ

(1)フランチャイズ加盟型

高齢者向けの宅配弁当サービスのフランチャイズを展開している企業は複数あり、これらに加盟しての開業も可能である。フランチャイズの持つ知名度やノウハウを活用し、業界未経験でも参入できる。また、製造工場から届けられた調理済みの食材を容器に盛り付けるだけなので調理スキルは不要であり、設備投資も抑えられる。

(2)独立型

自身のコンセプトに基づき、対象としたい顧客のニーズに応えられる食事を提供することができる。レシピやメニューの作成、食材の調達、調理・盛り付け、配達など全ての日常業務のほか、顧客開拓のための営業・広告活動も行う。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業ステップのフロー

(2)必要な手続き

宅配食を開業する際に必要な手続きは基本的に以下の通りである。自治体により基準が異なる場合もあるので、必ず管轄の保健所に確認する。

a.食品衛生責任者
食品を扱う店舗ごとに必ず1人必要。
b.飲食店営業許可
飲食店の開業をする場合に必要。
c.惣菜製造業許可
調理した惣菜を包装し、インターネット販売や卸売りする際に必要。

食品衛生責任者は、都道府県が実施する食品衛生責任者養成講習を受講することで取得できる。調理師、栄養士などの有資格者は講習が免除される。
飲食店営業許可及び惣菜製造業許可に関しては、内装工事着工前に管轄の保健所に事前相談に出向き、施設基準の確認を行っておく。工事完了までに必要な書類を提出し、店舗完成後の検査で基準を満たしていれば営業許可が下りる。
このほか、冷凍状態の弁当や惣菜セットを販売する際には、「食品の冷凍または冷蔵業」の営業許可が必要となる。
また、個人開業の場合は、営業許可を得た後に税務署への開業申請を行う。

メニュー、商品の品揃えなど

おかずだけのメニュー、ごはんをセットにした弁当のメニューの2種類がある。数食から10食程度をセットにしたコースで提供している業者が多く、1食あたり概ね500円前後~600円台が通常とみられる。飲食店のデリバリーサービスが拡大している中、宅配食サービスは管理栄養士など有資格者がメニュー作成に携わるなど、栄養やカロリー、味付け、食材の品質に配慮し、バランスの取れた健康的な食事であることが大きな訴求ポイントとなる。また、高齢者を対象にしたサービスでは咀嚼・嚥下しやすさも重要となる。
最近では冷凍状態での宅配食が多くなっているが、味や触感の点から冷蔵宅配のニーズも高い。

必要なスキル

代表者が管理栄養士などの有資格者である必要はないが、利益を上げるためには原価管理などをはじめとした経営知識、顧客や提携先を開拓する上で営業スキルは必須である。また、マーケティングや広告手法にも通じていることが求められる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

【社員1人、パート2人、アルバイトを1人雇用して、半径3~5km圏内で宅配食サービスを開業する場合の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

売上計画例の表

b.損益イメージ

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益イメージ例の表

※標準財務比率は持ち帰り・配達飲食サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

開業に先立ち、ターゲットとなる顧客と、提供するメニューのコンセプトを明らかにすることが重要となる。メインターゲットが高齢者なのか、子育て家庭なのか、ダイエット目的なのかによってメニューや価格設定、提供形態など訴求ポイントは全く違ってくるため、ニーズを押さえ事業計画を立てることが必要である。また、商圏設定も重要であり、競合業者の有無も含め事前の立地調査は入念に行う。
受注や広告の上でwebサイトの構築は必須であり、SNSによる発信やサイトへの誘導も欠かせない。注文用のページは、顧客が利用しやすく、わかりやすいシンプルなものとなるよう心がけたい。

初期投資額を抑える工夫とともに、想定通りの売上が得られなかった場合のことも考え、軌道修正ができる形での開業が望ましい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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