業種別開業ガイド

フードトラック(キッチンカー)

2022年 8月 17日

トレンド

2020年、都内の「飲食店営業の自動車数」は前年比1割超の増加

フードトラック(キッチンカー)は、コロナ禍で大打撃を受けた飲食の領域にありながら、密を避ける社会的なニーズなどを巧みに捉えて成長している業種の一つだ。全国レベルのまとまった数字があるわけではないが、東京都福祉保健局の令和3年版「食品衛生関係事業報告」によると、都内の「飲食店営業の自動車数」は、2019年の3381件から2020年は3794件に増加。外食大手チェーンや人気店なども続々と参入している。また、お昼時にオフィス街やタワーマンション周辺に出店するフードトラックの多さと、提供メニューの豊富さこそが、その隆盛ぶりを物語っているといえるだろう。

図a)東京都の飲食店営業施設数と「自動車」施設数の推移

※東京都福祉保健局の「食品衛生関係事業報告」各年度版を基に作成

フードトラック業界の成長を後押しする三つの要因

コロナ前後の変化が際立つフードトラックだが、図a)の通り、実はコロナ以前より継続的に成長してきた業種でもある。その要因として考えられるものが、大きく分けて三つある。一つ目は営業車両の手配が以前に比べて容易になった点だ。かつては高額なコストを要していた専用車両が、リースやレンタルサービスの登場、あるいは中古車市場の充実などによって、比較的手頃な価格で手配できるようになった。二つ目が、フードトラックを運営する上での大きな課題の一つである「出店場所の確保」に関して、そのマッチングをサポートするサービスが登場したことだ。スマホアプリを使って出店場所を探し、さらにそのアプリで情報発信も行えるというサービスは、フードトラックの新規参入者にとって心強い存在となり得るだろう。そして最後が、フードトラック開業の際にも活用できる国や自治体の各種支援制度の存在。しかもこのコロナ禍により、打撃を受けた小規模事業者に対する支援拡充の動きが広がったことも、業界拡大の追い風となったといえそうだ。

ビジネスの特徴とヒント

来客を「待つ」のではなく、客先に「出向く」スタイル

フードトラックイメージ01

固定店舗で来客を待つのではなく、顧客の多い場所に自ら出向いて料理などを提供するスタイルの業種。たこ焼きや焼きそばといった昔ながらのメニューから、ケバブやタコス、ビビンバなどの多国籍系、クレープやアイスクリームなどのスイーツ系、さらに固定店舗の人気店などによる本格派料理など、近年は提供されるメニューのさらなる多様化が進んでいる。出店場所が変わるごとに管轄保健所の認可が必要であるなど規制はまだまだ多いが、多くのフードトラックを集めるイベントも豊富にあるほか、大規模商業施設や大型スーパーなどがテナント料をとって出店スペースを貸し出すというケースも増加傾向にあるようだ。

自由に移動できる一方、「出店場所の確保」が課題に

固定店舗に比べると、テナントの保証金や内装費などの初期投資はもちろん、テナント料、光熱費、人件費などのランニングコストも比較的低額になるケースが多く、その分販売単価を下げることができる。販売単価が下がれば、集客が期待できる上に、少々馴染みの薄いメニューなどを提供し、ニッチなファン層の獲得を目指すといった方向性にも挑戦しやすいだろう。また、許可なく営業ができないとはいえ、基本的に移動は自由にできるため、季節や時間、あるいはその日の天候などによって、より良い場所やスタイルでの営業を選択することも可能だ。一方で、固定店舗にはない「出店場所の確保」という業務が発生することになり、好立地は競合他社と取り合いになるケースも少なくない。さらに、固定店舗以上に天候に売上が左右されやすいというデメリットもある。ビジネスとしての持続性や発展を求めるなら、こうしたメリット・デメリットを慎重に吟味することをおすすめしたい。

開業のポイント

固定店舗と同じく食品衛生責任者の資格と保健所の営業許可が必要

調理営業を前提としたフードトラックで開業する際には、通常の飲食店と同じように食品衛生責任者の資格取得と保健所の営業許可が必要になる。この営業許可は、都道府県によって許可が及ぶ範囲が異なる場合もあるため、営業予定地域の保健所に早めに相談・確認しておく方がいいだろう。そして当然、自動車を運転するには自動車免許も必要だ。そのほか、営業車両の準備、出店場所の確保、販売メニューの企画・考案、資金調達、事業計画の立案などが開業時における検討事項となりそうだ。

レンタルやリース、中古車、カスタマイズと車両手配の選択肢は多数

多くの場合、最もコストがかかるのが「営業車両の手配」だが、前述のとおり1日数万円程度〜のレンタルサービスのほか、一定金額の頭金を払った上で月々数万円程度〜を支払うリースサービスなどが登場している(途中解約の可否などは要確認)。また、昨今はフードトラックの中古車市場も充実傾向にあり、こちらはものによって価格に大きな差があるが、仮に予算が200万円であれば、選べる車体の種類は少なくなさそうだ。あるいは、新車を購入して自分好みに1からカスタマイズしたいといったニーズに応えるサービスもある。自己資金や事業計画と照らし合わせて、自分にとって最適な1台を用意することが事業成功の近道になるのは間違いないだろう。

営業の基盤は「自動車」。その維持管理コストへの意識も

注意点として、あくまでビジネスの基盤が「自動車」にあることを忘れないようにしたい。車両の保険や車検費用、ガソリン代、駐車場代に加え、故障による修理費といった思わぬ出費などを含め、それなりの維持管理コストがかかってくることも頭に入れておくべきだろう。また、店舗で運営する飲食店と同様、食中毒など万一の事故に備えて、PL保険(生産物賠償責任保険)などの各種保険への加入も押さえておくべき検討事項の一つだ。なお、起業・創業に関わるそのほかの情報に関しては、本サイトの「起業マニュアル」ページを、また、個人事業主として開業する場合の手続きに関しては、「個人事業の開業手続き」ページをそれぞれ参照。

必要スキル

豊富な調理経験より、厳選メニューを繰り返し調理した経験

フードトラックイメージ02

一般的に、1台のフードトラックで提供されるメニューの種類はそう多くない。トッピングや組み合わせのバリエーションで豊富な種類を提供しているケースもあるが、それでも積載できる在庫や作業スペースなどの関係で、固定店舗に比べれば提供メニューを厳選するケースが多いと考えられる。その場合、多様な料理の調理経験は必ずしも必要というわけではなさそうだ。むしろ自分が提供するメニューだけを何度も繰り返し調理してきた経験の方が、味や作業効率の面でも好影響となる可能性が高い。

全てが自分次第であるからこそ「自己管理能力」は必須

フードトラックの魅力の一つはその自由さだ。前述のとおり諸々の課題は少なくないものの、基本的に「いつどこで何を提供するか」は全て自分次第。その日の気分で売るものを変えることだってさほど難しいことではない。それ故に、自分で物事を考え計画する「プランニング」の力と、それをきちんと遂行できる「自己管理能力」は、フードトラックをビジネスとして持続的に発展させていく上で必須の能力の一つといえる。

ホームページの開設やSNSによるプロモーションも

今の時代、インターネットの活用は、プロモーションの側面だけでなく、ユーザーの信頼感アップの上でも欠かせない。自社サイトがあれば、提供メニューの特徴やこだわりなどについて発信する良いツールになると考えられる。予算的に厳しいという場合でも、せめてSNSなどで専用ページを作っておくことはビジネスを進めていく上で必要になるだろう。また固定店舗に比べて、天候や自動車の不具合などによる「想定外」の事態も多くなることが予想されるフードトラック運営では、そのような最新情報を自社サイトやSNSなどを通じてこまめに発信することも、ファン獲得には必要な業務の一つと考えられる。

提供スピードや「コミュニケーションの瞬発力」も

フードトラックでは単価を下げて販売個数を上げるというビジネスモデルが比較的多い点、また屋外でのテイクアウトが中心で、限られたランチタイムでの購入のケースも多いことを踏まえると、提供スピードの早さはより重要な条件になるだろう。また、固定店舗に比べより多くの顧客と接することが予想される分、短いやりとりの中で好印象、信頼感を与えるコミュニケーションの瞬発力も重宝される能力の一つになりそうだ。

上記の記事は、作成時の情報に基づき、同業種における開業のヒントやポイントをまとめたものです。実際の開業にあたっては、より専門的な機関に相談することをおすすめします。

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