業種別開業ガイド
ペットショップ
2022年 9月 16日
トレンド
コロナ禍による在宅時間の増加もあり、ペット関連市場は拡大傾向
ペット関連市場は、年々堅調に拡大している市場の一つだ。矢野経済研究所の調べによると、2019年度の市場規模は前年度比101.7%の1兆5705億円。翌20年度は同103.4%の1兆6242億円と見込まれており、その拡大傾向が21年度、22年度も継続すると予測されている。多くの産業にとって転機となった新型コロナウイルスの感染拡大は、ペット関連市場にはプラスに作用。コロナ禍の外出自粛によりペットフードや猫砂などの消耗品の買い溜め需要が発生したことに加え、在宅時間の増加が新たなペットを迎え入れるきっかけになったり、ケア用品などペット関連グッズの消費拡大につながったと考えられる。
飼育頭数は「犬」が減少傾向で、「猫」は横ばい
日本は希少な動物を好む傾向があり、ペットとして扱う動物の種類も年々多様化しているが、ビジネスとしても、ペット愛好家のニーズの大きさでも、その中心はやはり犬と猫といえるだろう。一般社団法人ペットフード協会の調べによると、近年、犬の飼育頭数は減少傾向にあり、21年は約710万6000頭と推計されている。一方の猫は、2014年に飼育頭数で犬を逆転した後は微増微減を繰り返しながらほぼ横ばいを維持。21年は約894万6000頭となっている。ただし、ペットにかける1ヶ月の飼育費は犬猫ともに増加傾向にあり、21年の平均支出額は犬が1万4814円、猫が9138円となった。
「改正動物愛護法」の施行で生体販売の規制がよりシビアに
ペットにかける月々の支出額が増加傾向にあることからもわかるように、迎え入れられれば家族同然に大切に扱われるケースが多くなったペットだが、その一方で売れ残ったペットの殺処分や、悪徳ブリーダーによる劣悪環境下での多頭飼育、飼い主の責任放棄など、ペットビジネスの裏側にある問題は長年議論されてきた。こうしたことの改善を目指し、2021年6月に施行された「改正動物愛護法」(動物の愛護及び管理に関する法律)では、出生後56日を経過しない子犬や子猫の販売が原則禁止となり、インターネット販売や移動販売の規制は強化されたほか、ペットショップにおける従業員一人あたりの飼育数、ケージの大きさなどの基準も明確化。さらに22年6月以降は、犬や猫へのマイクロチップ装着も義務付けられた。これらを含む法規制に違反した場合の罰則も強化されており、ペット業界参入のハードルはひと昔前に比べて確実に高まっている。
ビジネスの特徴とヒント
規制を遵守しながらいかに事業継続の見通しをつけるか
ペットショップを開業するには、まず「第一種動物取扱業」として都道部県知事等から許可を受けなければならない。その上で動物愛護法に基づく動物の管理の方法や、飼養施設の規模や構造に関する細かい基準を遵守する必要がある。さらに1店舗に1人以上、動物取扱責任者の設置が義務付けられており、この責任者になるには獣医師などの免許や特定業種における実務経験などが必要だ。そして、初期投資額は1000万円以上、ランニングコストも100万円以上と比較的高額になるケースが多い。このような事業環境でビジネスを成功させていくには、「動物が好き」などといった気持ちだけでなく、事業継続に対するシビアな見通しや、生物の命を扱うことに対する相当の覚悟をもつことも必要になってくるだろう。
ブリーダーやオークションで仕入れるか、自ら繁殖するか
ペットショップの事業を展開する上で、ペットの仕入れは欠かせない。仕入れの方法としては、購入するか、自ら繁殖するかという大きく分けて2つある。前者の場合、その仕入先として考えられるのは、「ブリーダー」「オークション」「専門卸売業者」「輸入業者」など。いずれの場合も、健康な生体を見極める力が必要になってくるだろう。自ら繁殖させる場合、中間マージンが発生しない半面、繁殖数が読めないことや、育成にもコストがかかる点がビジネスとしてのデメリットといえる。自ら繁殖する方法を選んだとしても、思うようにペット数が確保できない場合に備え、購入も併用できるようにしておくことが事業継続にとって重要なポイントだろう。
生体販売だけでなく、関連商品・サービスの提供も視野に
ペットショップといえば「生体販売」と考えられがちだが、実はペット関連ビジネスの中心は「ペットフード」「動物医療」「ペット用品」だ。この3分野で全体の約4分の3を占めるともいわれている。法規制への対応や都道府県知事の許諾、仕入、繁殖など、生体販売への対応に追われる中でも、それ以外の商品の販売・サービスの提供で、継続的な売り上げを確保していくことも欠かせない視点だ。例えば、動物病院、ペットホテル、トリミングサロン、動物カフェ、ペットと一緒に楽しめるレストランなどを併設しているペットショップは多い。なお、こうしたサービスを提供する場合、「第一種動物取扱業」の申請項目が増えることも忘れないようにしたい。また、ウサギやハムスターなどの小動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類など、取り扱う動物の種類を多様化させていくパターンと、いずれかの種類に特化して専門店化するパターンがある。自社の事業ビジョンと照らし合わせながら適切に判断すべきだろう。
開業のポイント
新たに店舗を構えるか、自宅を活用するか。
改正動物愛護法によって、ペットの販売をインターネットのみで行うことは禁止されたため、どのような事業スタイルであれ、対面販売用の店舗は必要になる。ここにも「新たに店舗を用意する」「自宅を活用する」という二つの選択肢があり、前者の場合は、集客に有利な立地を選べるなど可能性も広がるが、動物販売に理解を示すオーナーがなかなか見つからないといったことも少なくない。その上、毎月の賃料が高額になるケースが多い点もデメリットだ。自宅を活用した場合は、初期費用とランニングコストが抑えられるメリットはあるが、匂いや騒音等で周辺住民とトラブルにならないよう、最新の注意と丁寧な説明は怠らないようにしたい。
フランチャイズという選択肢も
いずれかの方法で店舗は構えた上で、経営に関してはペットショップの「フランチャイズ」に加盟してそのノウハウを活用するという手段もある。フランチャイズの知名度による集客などが期待できるほか、確立された仕入れルートやデータ管理システムなどを活用できるため、オーナーにとっては自分の業務範囲を限定できる点が大きなメリットだろう。ただし当然、加盟するフランチャイズによって金額の差はあるものの、一般的には保証金や加盟料がかかるほか、毎月のロイヤリティ負担も決して小さくはない。フランチャイズを利用するにしても、自社の事業の方向性や計画を具体化した上で慎重に検討することをお勧めしたい。
必要なスキル
犬と猫の販売や繁殖には「犬猫等販売業者」としての追加義務も
ビジネスの特徴とヒントでも触れた通り、ペットショップを開業するには「第一種動物取扱業」の登録が必要になる。この取扱業は「販売」「保管」「貸出し」「訓練」「展示」「競りあっせん業」「譲受飼養業」という7種に分かれており、自社の事業領域に応じて一つ一つ申請・登録することが必要だ。また、動物の中でも犬と猫の販売および繁殖を行う場合は、「犬猫等販売業者」として「犬猫等健康安全計画」の策定と遵守、獣医師との連携の確保といった追加の義務が課せられる点も忘れないでおきたい。さらに、この第一種動物取扱業の登録申請の段階で、前述した「動物取扱責任者」を用意しておかなければならない。この責任者になれるのは、獣医師免許あるいは愛玩動物看護師免許の取得者か、特定業種における一定期間の実務経験を持つものや、専門学校の卒業者など(詳細は各都道府県に確認)。もし自分が責任者の資格取得条件を満たしていないようなら、外部人材を採用するなど、なんらかの方法で開業前に確保しておく必要がある。
「関連法令」と「動物」に関する知識を
生物の命を扱う業種であることを踏まえると、今後も法規制は時代の流れに応じて変化あるいは強化されていく可能性が高い。そのような変化に対応しながらビジネスを継続していく柔軟性の高さは、常に求められることになりそうだ。また海外からの輸入で希少動物も扱うのであれば、ワシントン条約なども意識する必要がある。さらに、動物そのものの生態に関する知識や、日々進化する関連商品の知識などをインプットし続ける姿勢も重要だろう。自社の事業に関わる話題に対して、常にアンテナを高く張っておく必要がありそうだ。
上記の記事は、作成時の情報に基づき、同業種における開業のヒントやポイントをまとめたものです。実際の開業にあたっては、より専門的な機関に相談することをおすすめします。