業種別開業ガイド

ブリーダー

2022年 10月 19日

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ペット関連ビジネスは、コロナ禍以降も順調に成長

ペット関連ビジネスがコロナ禍を市場の拡大につなげた業種の一つであることは、業種別開業ガイド「ペットショップ」編でも解説した。一般社団法人ペットフード協会が2021年10月に実施した「全国犬猫飼育実態調査」の推計値によると、過去1年間に新たにペットとして飼われた犬は39万7000頭にのぼり、コロナ禍の需要増が顕著だった前年の41万6000頭には及ばなかったものの、コロナ前(19年=35万頭、18年=36万頭)に比べると、依然として高い数値を維持。一方、過去1年間に新たにペットとして飼われた猫は、前年の46万頭からさらに伸ばし、48万9000頭となった。当然、このうちの一定数は、ブリーダーから直接、あるいはペットショップなどを経由して販売されていると考えられる。近年のペット産業の成長ぶりは、ブリーダーのビジネスにも好影響をもたらしていると考えてまず間違いないだろう。

飼育総数は猫が上回るも、純血種の頭数では犬が圧倒

同じ調査で、2021年の全国の犬猫それぞれの飼育頭数(推計)は、犬が710万6000頭、猫が894万6000頭。2014年に猫が飼育頭数で犬を上回って以降、猫はほぼ横ばいを維持する一方、犬は年々減少傾向にある。ただし「純血種」と「雑種・わからない(以下、雑種)」の飼育頭数(推計)を見ると、犬は純血種が614万頭で雑種が96万6000頭、猫は純血種が165万5000頭で雑種が729万1000頭。多くのブリーダーが取り扱う「純血種」の頭数では、犬の方が大きく上回っていることがわかった。また、犬猫以外の小動物や鳥類、爬虫類、観賞魚、両生類などの生物を扱うブリーダーのほか、近年ではカブトムシなどを繁殖・販売する昆虫ブリーダーも注目を集めている。

犬猫それぞれの純血種と雑種の飼育頭数比較

「悪徳ブリーダー」を許さない。21年より法規制が強化

愛らしい生物を繁殖して健康に育成するのがブリーダーの務めだが、ここ日本でも悪徳ブリーダーの問題が明るみになることは珍しくない。特に犬の場合、多くのブリーダーが最小限の種類に絞って遺伝病や社会化期のケアをしながら健康な子犬の繁殖・育成に努める「シリアスブリーダー」である一方、多様な犬種を1カ所に集め、まるで機械部品のように子犬を生産する「パピーミル(子犬工場)ブリーダー」が少なからず存在しているのも事実だ。こうした問題を解決し、動物の自由や尊厳に配慮しながら人と動物が共生する社会の実現を目指す「改正動物愛護法」(動物の愛護及び管理のための法律)が2021年6月に施行された。これにより従業員一人当たりの飼育頭数や、飼育スペースおよびケージの規模などが明確化されたほか、雌犬の出産回数は上限6回に制限。またインターネットのみでの販売が原則禁止となり、22年6月からは犬猫の販売時にマイクロチップの埋め込みが義務化されるなど、多くの面で規制が強化された。新規参入者がビジネスとして成功を目指すにはハードルが格段に上がったことから、今後は家庭などで小規模に活動する副業ブリーダーの活躍を期待する声も高まっている。

ビジネスの特徴とヒント

ペットの種類は多様化が進み、副業ブリーダーも増加傾向

ブリーダーとは、ペットや家畜などの生き物を繁殖(ブリーディング)して育成し、販売などを行う職種の総称だが、ペットと家畜ではビジネスの中身が大きく異なる。その上「家畜の繁殖・飼育」を行える人となると対象がかなり限定されてしまうことから、本記事では基本的に犬や猫を中心とする「ペット」のブリーダーについて解説していく。

対象となる生き物としては、犬猫のほかに、前述のとおりウサギやハムスターなどの小動物、鳥類、爬虫類、両生類、鑑賞用の魚類、昆虫など多様化が進んでいる。販売先は、ペットショップや個人が考えられるほか、ショーなどで活躍する動物を育成するケースもある。仮に販売をメインとするブリーディングを行いたい場合、販売ルートを確保しておくこともビジネスを行う上で欠かせないポイントだ。「生体販売」以外にも多くの商品やサービスについて検討しなければならないペットショップに比べると、初期投資・運転資金ともに抑えられることが一般的で、近年では副業としてブリーダーに取り組むケースも増えている。多くの規制や繁殖可能期間後のペットのセカンドライフのことなども踏まえると、ブリーダーのビジネスはあくまでペットとの生活を楽しむ上での副産物と捉えた方が成立しやすいと考えられる。

想定外の事態を踏まえ、余裕を持ったビジネスを

ブリーダーの業務の中心は、遺伝子疾患などが発生しないような適切な管理のもと、法律に基づきペットを繁殖・飼育し、販売することになる。犬猫の場合は、犬は6歳までに6回、猫は6歳までという繁殖可能期間に、いかに健康な子犬・子猫の繁殖を成功させるかが、ビジネスの分かれ道といえそうだ。改正動物愛護法により生後56日までは原則販売禁止となったため、少なくともその期間は生体を育成する必要があり、その間のエサ代や光熱費、衛生用品などの消耗品代、予防接種や病気療養などによる医療費などの諸経費がかかってくることになる。また、人間に慣れさせるための訓練やしつけもブリーダーの仕事で、子どもだけでなく、産後に体力の落ちた親の方のケアも欠かせない。生き物を扱う以上、想定外の事態は起こり得るということを踏まえ、経費・リソース双方に余裕を持って臨みたいところだ。

開業のポイント

資格取得条件を満たさない場合、開業には時間やコストがかかる

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ブリーダーとして開業する場合、ペットショップと同様に「第一種動物取扱業」として都道府県知事等に登録を申請することが入口になる(両生類と魚類、昆虫類は除外)。この申請には、事業所ごとに常勤の「動物取扱責任者」を1人以上設置する必要があり、この動物取扱責任者になるには、獣医師などの資格あるいは特定業種での実務経験や特定の教育機関での学習経験等が必要だ(資格取得条件の詳細は各都道府県に確認)。ブリーダーになりたいと思っても、仮に今これらの資格取得条件をクリアしていないなら、条件を満たす人材を雇い入れるか、あるいは自ら実務経験を積んだり、教育機関での学習といったステップが必要になる。それなりのコストと時間、労力を要することは、始める前から頭に入れておくべきだろう。

強化された法規制と自社の事業計画の照らし合わせを

前述のとおり、改正動物愛護法によって、インターネットのみでの販売は原則禁止となった。そのため、ウェブサイトを販売の窓口にした場合でも、対面販売用のスペースを確保する必要がある。副業ブリーダーの場合は、自宅にこうしたスペースを設けることが一般的だが、その大きさなども細かく規定されているため、規制をクリアできるスペースを確保できるかどうかの事前確認は必須だ。そのほかにも自社の事業計画が法律的に問題ないか、開業前に入念なチェックは欠かせないステップといえるだろう。

併せて、個人で開業する場合は、個人事業主として税務署に届け出た上で、事業所得の届け出と納税が必要になる。当サイトの「起業マニュアルページ」や「個人事業の開業手続きページ」を参照するなどしながら、事業主としての必要ステップもしっかり把握しておきたい。

すぐに収入が上がるビジネスではない

ブリーダーの開業は、ペットショップに比べると初期投資・ランニングコストともに大きく抑制できることは間違いない。例えば犬猫の場合、一般的に最も初期投資が大きくなるのが繁殖用の雌犬・雌猫の購入になるが、いずれも一頭当たり30万円前後(種類によって異なる)からとなり、そのほか飼育用の設備投資に数万円程度、エサ代や消耗品代に加えワクチンや予防接種の費用などを含む年間の飼育費は10万円程度見ておけば十分まかなえる計算になる。このほかに必要な費用は「第一種動物取扱業」への申請が1件当たり1万5000円。病気・怪我などによる医療費がかかるケースもあるが、開業後確実に必要になる費用は、上記の通りだ。

ただ、初期投資が抑えられるとはいえ、その投資がすぐに収入に結びつくような職種ではないことは改めて念を押しておきたい。その上で、繁殖が上手くいかなかったり、頭数が想定より少なかったり、結局売れ残ってしまったりと、想定外の事態が多いビジネスともいえる。ただし、ペットを家族の一員として迎え入れ、その成長やペットのいる生活を楽しむことを第一目的とした場合には、諸経費は当然のものでありながら、運が良ければ収入を得られる可能性も出てくるわけだ。どのようなスタイルで事業を行うにせよ、動物を愛でる気持ちは欠かせない要素となりそうだ。

必要なスキル

資格取得のスキルに加え、取り扱う生物への知識と経験も

前述のとおり「第一種動物取扱業」の認可と、その申請のための「動物取扱責任者」の設置は必須条件で、この責任者になるための各種資格や、実務・学習経験なども必要スキルの一つといえる。それ以外では、取り扱う生物とその種類に対する知識と、これまでに繁殖・育成に成功した経験は、どれだけ持っていても無駄になるようなことはないだろう。最低でも、販売に際して対面説明が必要とされている18項目に関しては、生体による違いを含めて適切に把握しておきたい。開業後も、取り扱う生物への興味関心を保ち、その育成に有益な情報を吸収し続けながら、生まれてきた個体を観察して個体差を正確に把握する力も、優秀なブリーダーを測る上での判断材料の一つとなりそうだ。

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人と動物が共生する社会の担い手の意識を

動物愛護法が改正された主な目的は、心無い一部の人々に踏みにじられてきたペットの自由と尊厳を守るためだ。今後もその視点に則った法改正は重ねられていくことが予想される。ただ、あらかじめペットの自由や尊厳に配慮した視点でビジネスを展開しておけば、規制強化が必ずしも事業の継続や発展の障壁になるばかりでもないはずだ。動物と人が共生する社会を実現する担い手としての意識を高く持つことが、ブリーダーのビジネスにとって今後より重要になっていくと考えられる。

上記の記事は、作成時の情報に基づき、同業種における開業のヒントやポイントをまとめたものです。実際の開業にあたっては、より専門的な機関に相談することをおすすめします。

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