業種別開業ガイド

カラオケボックス

2024年 5月 15日

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トレンド

カラオケは1960年代に日本で発明され、身近なエンターテインメントとして浸透した。今では世界中で「KARAOKE」の名で親しまれている。新型コロナウイルス感染拡大の影響により大打撃を受けたカラオケ市場も、2022年以降は回復傾向だ。

一般社団法人全国カラオケ事業者協会によると、2019年に4,650万人だったカラオケ参加人口(1年に1度でもカラオケを利用した人の数)は、2020年には2,620万人と激減した。翌2021年も2,590万人と低迷したものの、2022年には3,240万人と持ち直しの動きがみられる。

カラオケ参加人口とカラオケボックスルーム数の推移

利用者数が大幅に減少した理由は、政府からの3密(密閉・密集・密接)回避の要請や、店側の営業自粛、営業時間短縮、利用人数制限などがあったためである。

民間の調査では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「カラオケ店などの利用を控えた」「全く利用しなくなった」と回答した人が約47.6%という結果が出ている。しかし、自宅で家庭用カラオケ機器やスマホアプリでカラオケを楽しんでいたことが分かった。

さらに同調査で、コロナ禍を経てカラオケ店の利用目的について聞いたところ、歌う以外の目的がみられた。

カラオケ店の利用目的

歌う目的以外に、おしゃべりや食事など飲食店の代わりに利用する人が一定数いた。また10~20歳代の若年層は、ブルーレイやDVD鑑賞を目的に利用する人もいるようだ。そして、1人や少人数での利用が多く、これまで夜間が中心だった利用時間帯は、1日を通して分散するようになった。コロナ禍を経て、消費者のニーズは明らかに変化したと言える。

多様化する消費者動向を受け、歌う目的以外の需要も取り込めるよう各社さまざまな施策を講じている。例えば、テレワーク時に活用できるようWi-Fi通信を完備し、備え付けのモニターにパソコンを接続するHDMIケーブルや電源タップを無料で貸し出すなど、ビジネスユースを見込んだサービスが見られるようになった。

また、自宅では味わえない大音量・高音質で映画鑑賞やライブビューイングが楽しめるよう、音響設備を整えている店も多い。防音性能が高いので、楽器を持ち込んで演奏している人もいるようだ。自宅だと意外と音が気になるミシン作業がカラオケ店でできるよう、ミシン貸し出しサービスを提供したところもあり反響を呼んだ。

カラオケボックスは完全個室でプライバシーが守られ、業務上の情報漏洩の心配もない。仕事や勉強、作業に集中でき、疲れたら歌ったりドリンクバーを利用したりして休憩できる。サードプレイス(第3の場所)に最適な環境が整っており、さまざまな目的で使える空間として浸透し始めている。

近年のカラオケボックス事情

全国でカラオケボックスを運営している124社を対象に行った民間調査によると、2022年度の売上高は2,252億8,700万円(前年比38.5%増)で、3年ぶりに増収に転じている。また、当期純利益は2020年度から赤字が続いていたが、2022年度は106億3,000万円の黒字となった。

カラオケボックス業の業績

厳しい状況下でも、消費者のニーズを捉え積極的に事業展開した企業の力が市場を支えている。1人でも利用しやすいサービスや専用ルーム、SNS発信用の動画撮影ルームの設置、バーチャルリアリティ(VR)カラオケ機器の貸し出し、離れたカラオケルーム同士をつなぐパーティー機能やゲームコンテンツの提供など、各社新しいサービスを打ち出し続けている。

カラオケ店は、室料と飲食代の2つの収入源があり、いかに客単価を上げるかがポイントとなる。最近では、フレンチやイタリアン、アフタヌーンティーといった食事メニューを充実させた店が増えている。老舗ラーメン店とコラボして差別化を図る店や、「カラオケ付き個室レストラン」として記念日ディナーを提供している店もある。

ダーツやビリヤードを設置し「ダーツ投げ放題+歌いたい放題+飲み放題」をセットにして提供しているところもある。新たな収益源を確保しながらコストを抑えて運営できるよう、各社知恵を絞っている状況だ。

他方、カラオケの健康効果に着目し、新しい業務形態を進める企業も出てきた。歌うことは、口腔機能や肺活量の向上、ストレス解消、認知症予防などに効果があると言われている。親和性の高いフィットネスジムの中にカラオケボックスを設置し、1人でも気軽に利用できる施設を展開している。

また、スーパーマーケットにカラオケボックスを併設し、集客と売上アップを狙う企業もある。付随して、店舗が気軽に利用できるコミュニティスポットとなり、地域の活性化と利用者の健康増進につながる。このような社会的意義を見出せる取り組みが、事業全体の根幹を支える。

廃油リサイクル、制服のリサイクル・レンタル、店舗照明にLEDを導入、バイオマスストローの導入、再生紙トイレットペーパーの使用など、環境負荷低減に向けた取り組みを行っている企業もある。サステナビリティ(持続可能性)の考えは、消費者や社会に選ばれる店づくりの基本となり、カラオケ業界にも広がりをみせている。

カラオケボックスの仕事

カラオケボックスの仕事は「フロント」「接客」「キッチン」「設備管理」「清掃」「運営管理」に分類できる。具体的な仕事内容は以下の通り。

  • フロント:受付、会計、案内、電話対応など
  • 接客:客室からのコールへの対応など
  • キッチン:フード・ドリンクの調理、片付けなど
  • 設備管理:カラオケ設備・空調設備・電気設備の管理など
  • 清掃:店内の清掃
  • 運営管理:スタッフのシフト管理・教育、イベントの企画・運営、経理など
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カラオケボックスの人気理由と課題

人気理由

  1. 年齢層に関わらず安定的な需要が見込める
  2. 幅広いサービスを展開でき施策を講じやすい
  3. 業務の難易度が低くマニュアル化しやすい

課題

  1. ネット予約・決済システムの整備
  2. 顧客満足度向上の取り組み(清潔さの保持、快適な温度管理、飲食サービス、接客態度など)

開業のステップ

ここでは、「個人事業型」と「フランチャイズ型」の例を紹介する。それぞれの開業ステップは、以下の通り。

開業のステップ

カラオケボックスに役立つ資格

カラオケボックスを開業するためには、以下の資格や許可が必要になる。

(1) 食品衛生責任者(必須)
飲食店であれば食品衛生責任者を各店舗に1名以上配置することが義務付けられている。資格の取得には、保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する。講習会では、衛生法規や公衆衛生学などの講習を6時間ほど受けるほか、受講料として1万円前後が必要になる。

(2) 飲食店営業許可(必須)
カラオケボックスを含む飲食店を開業する際は、所轄の保健所へ営業許可申請を行う必要がある。営業する店舗の規模や形態により必要な手続きや書類が異なるため、事前に保健所に相談すると良いだろう。

(3) 音楽著作物利用許諾(必須)
営業開始前に、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)へ音楽著作物利用許諾契約申込書やカラオケ歌唱室設置状況届出書を提出する必要がある。

(4) 防火管理者(必要な場合がある)
収容人員(従業員を含む)が30人以上の場合には、防火管理者の選任が義務付けられている。防火管理者の資格には甲種と乙種の2種類があり、用途と収容人数によって取得する資格が異なる。資格の取得には、3,000~8,000円の受講料を支払い、2日間の講習を受け、効果測定の合格が必要になる。

(5) 深夜酒類提供飲食店営業(必要な場合がある)
午前0時以降の夜間帯に酒類を提供する場合は、所轄の警察署の生活安全課へ深夜酒類提供飲食店営業の届出を行う必要がある。この届出を怠った場合は、警察から風営法違反として摘発を受けて営業停止となる可能性がある。

(6) 特定遊興飲食店営業許可(必要な場合がある)
店内にカラオケ・ダーツ・ビリヤードなどの遊具を設置する場合や、歌・演芸・ダンスなど興行を行う際は、所轄の警察署へ特定遊興飲食店営業許可の届出を行う必要がある。また各都道府県の条例によって定められた地域でのみ、特定遊興飲食店営業が行えるため、店舗を確保する前に該当地域なのか確認する必要がある。

開業資金と運転資金の例

開業にあたっては、以下のような資金が必要である。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 工事費:内外装、厨房設備、看板など
  • 什器備品、設備費:机、ソファ、食器、照明機器、カラオケ機器、音響設備、消防設備など
  • 広告宣伝費:ホームページ制作費、検索サイト掲載料、印刷費など
  • 求人費:求人媒体の利用費など

また、フランチャイズの場合には、別途加盟金や保証金、研修費がかかる。

個人事業型とフランチャイズ型とでは開業資金、運転資金が異なるため、それぞれについて例を示す。

開業資金例
運転資金例

開業にあたっては、金融機関の他、政府系の日本政策金融公庫も利用できる。創業を支援する「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」、認定支援機関の助言があれば金利が安価になる「中小企業経営力強化資金」などの融資制度がある。

売上計画と損益イメージ

カラオケボックスを個人開業した場合の、1年間の売上計画と損益イメージは以下の通りである。

<個人事業型の例>

営業時間:14時間/日
室数:5室
1室あたりの平均来店人数:3人
平均稼働率:40%(ランチやアフタヌーンティーなどのコースを設け稼働率を維持)
1室あたりの平均売上:1時間1,800円(室料:1人30分150円、フリードリンク:1人30分150円、別途料理代)
※((1,800円×5室×14時間)+飲食代60,000円)×稼働率40%=日商74,400円
※昼食代1,000円/人、夕食代2,000円/人、アルコール代1,000円/人とする。

<フランチャイズ型の例>

営業時間:24時間/日
室数:10室
1室あたりの平均来店人数:3人
平均稼働率:70%(フリータイムやキャンペーンで稼働率を上げる)
1室あたりの平均売上:1日21,000円(室料:フリータイム1人1,500円/9:00~18:00、2,500円/18:00~翌5:00、ワンドリンク制:1人500円、別途料理代)
※(21,000円×10室)×稼働率70%=日商147,000円
※昼食代1,000円/人、夕食代1,000円/人とする。

売上計画

年間の収入から支出(上表の運転資金例)を引いた損益は以下のようになる。

損益イメージ

個人事業型のカラオケボックスでは、1人カラオケ専門店として開業するのも1つの方法だ。比較的省スペースで運営できるため、家賃や人件費、仕入費などのコストを抑えられる。カラオケだけではなく、さまざまな用途に使えるサードプレイスとしても需要を見込める可能性がある。

一方フランチャイズ型は、本部のブランド力により集客を狙える。立地に合わせた経営戦略や新サービスの企画開発など、店舗運営のアドバイスをもらえるのは大きなメリットだ。運営ノウハウを身に付けられるのも、フランチャイズ型の魅力と言える。

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※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)