業種別開業ガイド
バッティングセンター
2024年 6月 7日
トレンド
バッティングセンターは、野球のバッティング練習の他、アミューズメントとしても楽しめるのが特徴だ。友人や家族と一緒に、あるいはひとりでも、国民的スポーツである野球を気軽に楽しめる施設として、根強い人気がある。しかし近年では、老舗バッティングセンターの閉店が相次いでいる。施設の老朽化や、経営者の高齢化、後継者がいないといった理由があり、黒字でも閉店を余儀なくされ深刻な問題となっている。
バッティングセンターが日本で初めて設立された1965年は、プロ野球が活況を呈していたこともあり、一気に日本全国に広がった。その後、ボウリングブームやJリーグ開幕によりバッティングセンターは下火となったが、プロ野球のスター選手が登場し活況を取り戻したという歴史がある。野球の人気は、バッティングセンターの存続に大きく関わっている。
近年の野球人気の状況をスポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」で確認すると、野球は観戦するスポーツとしての人気は高いが、実際に野球をする人は少なくなっていることが分かる。さらに、民間調査の「スポーツライフ・データ(スポーツライフに関する調査)」では、年1回以上野球をした推計人口をみると、2000年は597万人だったが、2022年は268万人となり、約20年で300万人以上減少している。
また、中学校や高校の部活動で野球部に所属する生徒も減っている。スポーツ庁によると、少子化とともに運動部活動数、運動部員数は減少し続け、ピーク時の2009年から2048年には約30%が減少、チームスポーツは半減以上になる見込みだという。特に、野球部の減少率は高い。
野球離れの原因として考えられるのは、スポーツの選択肢が増えたことや、時代にそぐわない指導スタイルなどが挙げられる。野球界や教育界では、子どもの能力を最大限に発揮できる場になるよう、改革を進めている。
野球はさまざまな動きをすることで運動能力を高め、考える力や協調性も身に付けられる。2011年には、野球やソフトボールを体育の教材にする「ベースボール型」授業が小学校で必修化された。一般社団法人 日本野球機構(NPB)では、ベースボール型授業の教材作成や研修を開催している。また、公益財団法人 日本高等学校野球連盟やプロ野球の各球団も野球教室を運営するなど、野球の普及と振興の支援を行い、子どもの野球離れに歯止めをかける。
野球に関心を持つ子どもを増やすことは、バッティングセンター業界の発展にもつながるため、今後も注視したい。
近年のバッティングセンター事情
野球人口に比例して業界全体では右肩下がりの状況だが、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)開催時期は多くのバッティングセンターの売り上げが伸びたという。バッティングセンターの利用目的は、野球の試合に向けた打撃練習や、ストレス発散、娯楽として楽しむなど多岐にわたる。
民間の調査によると、サービス業の約6割がIT(情報技術)をすでに導入もしくは導入を検討しており、バッティングセンターも例外ではない。
例えば、コンピュータを内蔵したピッチングマシンと大型スクリーンによって、野球対戦体験ができるものがある。ユニフォームや難易度が選べ、甲子園球児やプロ野球選手になりきってバッティングを楽しめる。投球を打ち返せば、高性能センサーによって打球の飛距離や角度が自動計算され、試合進行が前面の大型スクリーンに映し出される。
また、ピッチャー体験ができるものもある。スクリーンに映し出されるストライクゾーンにボールを投げ込み、高性能センサーでスピードとコースを測定、スクリーンに反映されピッチャーさながらの臨場感を味わえる。
VR(Virtual Reality)技術を取り入れたアトラクションを球場に設置し、ファン交流に活用している球団もある。ゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイを装着すると、実際のバッターボックスに立った気分で球団選手の投球を体験することができる。
都市部では、サラリーマンや学生が仕事帰りや学校帰りに立ち寄り、一人でも楽しめるスポーツ施設として、バッティングセンターは人気がある。少ないスペースでもバッティングを楽しめるように、ITやVRを導入した施設が増えてきている。プロ野球選手のバーチャル映像で、リアルなバッティングが楽しめるところも多い。開放感のある半野外のバッティングセンターを大型商業ビルの屋上に設置したり、屋内型スポーツ施設として、ボウリングやゴルフ、ボルダリング設備を併設したりしているところもある。
一方、郊外や都市部から離れた地域では、広い土地を活かして多目的フィールドを作り、プロ野球選手経験者を招いたコーチングやスクールを開催して、野球人材の育成を支援するバッティングセンターもある。
バッティングセンターは、本格的な野球練習施設として、またアミューズメント施設として、さらにファンサービスにもつながる商業施設として、さまざまな可能性に満ちている。ITやVRを導入し、話題性のある取り組みを行うことが集客に直結するだろう。
バッティングセンターの仕事
バッティングセンターの仕事は「受付」「メンテナンス」「店舗管理」「広告宣伝」に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下の通り。
- 受付:顧客対応、電話応対、設備案内など
- メンテナンス:設備の点検・整備、ボールの回収、館内の清掃など
- 店舗管理:総務や経理、購買、店舗運営、従業員のシフト管理など
- 広告宣伝:イベントの企画や運営管理、宣伝活動など
バッティングセンターの人気理由と課題
人気理由
- スポーツや娯楽など多様な切り口の事業展開が可能
- 年齢や性別問わず需要が見込める
- 運動機会の創出と野球界の発展に貢献できる
課題
- 初期投資が大きく回収までに時間がかかる
- 事故防止の管理体制の強化とトラブル発生時の対策
- 競合との差別化と集客のための仕掛け
開業のステップ
バッティングセンターの開業ステップは、以下の通り。
バッティングセンターでは、騒音とボールの飛行に関する対策が必須だ。周辺に住宅地がある場合は、事前確認や配慮を怠らないようにしたい。
バッティングセンターに役立つ資格
バッティングセンターの開業にあたって特別な認可や資格は必要ない。
自身に野球経験があるなら、公認野球指導者(*)の資格を取得すると事業の幅が広がるだろう。所属団体の有無や硬式・軟式などのカテゴリーはなく、18歳以上であれば誰でも取得可能だ。
5つのコースがあり、いずれも動画講習と確認テストが行われて終了後、登録申請することで資格登録証が発行される。ただし資格には有効期限があるので注意しよう。
(*)公認野球指導者の詳しい情報は、こちら(一般財団法人 全日本野球協会)をご確認ください。
開業資金と運転資金の例
開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。
- 土地取得費:土地代、手付金、登記費用、印紙代、仲介手数料、ローン手数料・保証料、測量費など(土地保有の場合は不要)
- 建築工事費:打席、防球ネット設営、電気工事、空調設備工事など
- 設備費:ピッチングマシン、バーチャル映像システム、娯楽設備など
- 什器備品費:カード販売機、ボール、貸出用バット、テーブル、椅子など
- 広告宣伝費:ホームページ制作費、SNS広告、チラシ印刷・配布料など
- 求人費:求人媒体の利用費など
以下、開業資金と運転資金を表にまとめた(参考)。
運営にもITを活用することで、人件費や固定費の削減につなげたい。例えば、トラブル時に備えて緊急ボタンを設置し、固定人員を減らしたり、使っていない打席は照明をオートオフにする機能を活用したりするのも良いだろう。
売上計画と損益イメージ
バッティングセンターを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
営業時間:10時~23時(13時間)
月間営業日数:30日
打席数:7打席
料金:1ゲーム300円
1時間あたりのゲーム数:5ゲーム
平均稼働率:40%
※1時間5ゲーム×@300円×7打席×営業13時間=136,500円
136,500円×稼働率40%=日商54,600円
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
施設が半野外の場合、季節や天候によって稼働率が下がる可能性があるため、全天候型の屋内施設にするのも1つの方法だ。軟球だけでなく硬球やソフトボールが打てたり、他スポーツのゲームマシンを設置したりして、年代や性別問わず楽しめる工夫をして集客につなげたい。
ITやVRを採用した最新マシンの導入は、開業資金や初期の運転資金を圧迫するリスクがある。事業がある程度軌道に乗った時点で、話題作りのために導入するのも戦略だろう。定期的なイベント開催や打ち放題時間の設定など、稼働率を上げる施策を打ち出したい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)