コロナ禍をきっかけに事業を見直し、再構築するための7つのステップ

第2回 ステップ(1) 資金繰りの見通しを立て、再構築に向けた自社の余力を知ろう

2021年1月7日

釈迦に説法ではありますが、事業にとっての血液は「資金」です。一時的に売上がなくなっても、一時的に赤字に陥っても事業を畳まざるを得ない状態には追い込まれませんが、資金だけは別です。中小・小規模事業者の場合、経営者から事業への貸付で資金の危機を凌ぐことが少なくありませんが、経営者自身の資金力が底を突けば、事業はどうにも回らなくなってしまいます。

昨年4月頃は、当時は得体の知れない状態だった新型コロナウイルス感染症が急速に拡大したために緊急事態宣言が発せられ、「ヒト・モノ・カネ」にパニック状態が起きました。昨年5月1日には「最短1週間で最大200万円(個人事業者は最大100万円)が給付される」という、前代未聞の大胆な「持続化給付金」事業が始まりましたが、この緊急輸血ともいえる制度に助けられた、特に小規模事業者は数知れません。私は数多くの小規模事業者の皆さまからの経営相談に対応していますが、売上ではなく「資金」として給付されたことでパニック状態から心を落ち着かせることが出来た事業者は数多くおられます。
さらに、新型コロナウイルス感染症対策として、政府系金融機関や民間金融機関からの実質無利子・無担保融資も急速に拡大しました。しかし今日では、目先の資金繰りに目処がついたとして「ホッとして立ち止まっている」だけの事業者が少なくない現状もあり、大変危機感をもっています。

1.資金的余裕とは何かを考えましょう

皆さまは「資金を調達する」という意味をどのように捉えておられますか?私は、例えば融資であれば「借入で資金的余裕を確保することで、事業を見直したり再構築したりする時間的余裕を確保する」という意味で捉えます。
さらに、今般の新型コロナウイルス感染症対策としての融資の多くに「据置期間」(元本返済猶予期間)が設定されています。「据置」とは、例えば1000万円を10年で借入し、据置期間を4年で設定した場合には、4年を経た後の6年間で10年分の元本を返済するという制度です。
元本返済が猶予されている間に、最低限、元本返済開始時に耐えうるレベルで事業を見直し、再構築しないと、5年目からは大変な事態に陥ることがおわかりいただけると思います。

借入期間、据置期間、返済期間のイメージ図

再構築した事業を収益化し、元本返済に耐えうるまでの状態にもっていくためのリミットは、最大で据置期間終了時だということを受け止めましょう。
借入とは「時間稼ぎ」なのであって、時間を稼いでいる状態に安住してはなりません。

2.では今の段階でなすべきことは何か

まずは資金繰り計画表をつくりましょう。この局面では、精緻な売上計画を立てることがむずかしい事業者はおられますが、資金繰り計画は「わからない」と逃げなければ、充分に立てることが可能です。
売上があってもなくても出ていく資金(地代家賃、雇用調整助成金でカバーできない人件費、リース料、納税資金、借入金の元本返済)などを洗い出して月別に展開します。その上で「売上による資金流入」「仕入や外注による資金流出」を洗い出して月別に展開します。売上は、前年同月比で「楽観」「ありそうな感じ」「悲観」の3つで考え、3種類の資金繰り計画表をつくりましょう。そうすれば、今ある手持ち資金が、どういう場合ならいつまで底をつかないかがわかります。
資金繰り計画表のフォームは日本政策金融公庫国民生活事業のホームページから、記入例も含めてダウンロードして活用しましょう。

資金繰り表のイメージ図

わからなければ、会計事務所やメインでお世話になっている金融機関、商工会・商工会議所に聞きながらでも挑戦することが大切です。
資金繰り計画表が出来れば、いつ手元資金が底をつくのかという時間軸での現実を直視することで、いつまでに再構築事業を採算化させなければいけないかがわかります。

3.なぜ「宿泊業」や「飲食サービス業」にダメージが大きいのか

このコロナ禍では、宿泊業や飲食サービス業などへのダメージが大きいといわれます。下記の表は、少し乱暴な言い方をすれば、業種別に「いま持っている現預金等で、例え売上がなくなっても何年間資金的に持ちこたえられるか」を表したものです。宿泊業や飲食サービス業の事業規模の小さな事業者に体力が少ないことがわかります。

財務省「法人企業統計調査年報」
(注)流動性の高い手元資産(現金・預金+受取手形・売掛金)+年間固定費(役員給与・賞与+従業員給与・賞与+福利厚生費+支払利息など+動産・不動産賃借料+租税公課)。流動性の高い手元資産で年間生じる固定費の何年分に相当するかを見たもの。

しかし、コロナ禍が長引けば、いまは好況の建設業やダメージの少ない製造業にも、より深刻な資金的影響が出ることは明らかです。特に建設業は、これほど膨大なコロナ禍対策の財政支出を国・都道府県・市町村が行っている中では、今後、財政悪化で公共事業は縮減していくと考えておいた方が賢明です。
現状に立ち止まることなく、資金に余力がある段階で事業を再構築しましょう。

次回第3回は、「ステップ(2) 売上だけではなく、利益と資金から再構築を考えよう」をテーマに考えていきます。

文責

中小機構 中小企業支援アドバイザー
古川忠彦