コロナ禍をきっかけに事業を見直し、再構築するための7つのステップ

第6回 ステップ(5) コロナ禍での事業再構築の方向性は大きく4つあります

2021年2月2日

第1回から第5回では、「資金を見通すこと」「売上だけでなく利益や資金から考えること」「自社の強みに気がつく方法」「世の中のニーズの変化を読み取ること」を考えてきました。このプロセスを踏まえて、第6回は事業再構築を検討する方向性について考えてみます。

第5回でご紹介した厚生労働省の「新しい生活様式の実践例」が浸透してくると、その生活様式に応じて様々なニーズが生まれてきます。
そのニーズがどんなものであるかによって、自社の強みの活かし方が変わってきます。

アンゾフの成長マトリックスの図

この図は、「アンゾフの成長マトリックス」といいます。事業の成長・拡大を図る際に用いられるフレームワークのひとつです。ビジネスモデルを「市場(顧客)」と「商品・サービス」という2軸で示し、さらにそれぞれを「既存」と「新規」で切り分けて事業を考えていくものです。

1.「現市場(顧客)」に対して「現商品・サービス」を掘り下げる『市場深耕』

「コロナ禍で売れなくなっているのに、従来からのお客さまに従来からの商品サービスで事業を見直すなんて無理でしょう」と思われるかも知れませんが、そんなことはありません。 例えば、コロナ禍前までは人気が高かったラーメン店のランチタイム営業で考えてみましょう。

ランチタイム営業は、限られた時間内に客数を捌く必要がありますが、もともと満席だった座席数をソーシャルディスタンスによって大幅に減らしてしまうと、客数が減少して大幅な業績悪化になります。このラーメン店のいままでのお客さまの動きが、

ラーメン店のいままでのお客さまの動きを表したフロー

であったとします。時間がかかるのは「何をオーダーするか悩む『注文』」と「レジ打ちや金銭のやりとりをする『会計』」です。そこで券売機を導入し、

券売機を導入したことで変化したラーメン店のお客様の動き

に変えたとします。客は入店前に食券を購入し店外に並びます。店は席が空きそうになった段階で客から食券を受け取って一部調理を開始します。客が入店し席に着くといままでよりも時間がかからずにラーメンが提供できます。既に会計が終わっている客は、食べ終わったらすぐに退店します。
当たり前のように思われると思いますが、このように見直すだけでも、客の店内での滞在時間は大幅に減少し、回転率を向上させる可能性が高まるのです。

発券機の写真

2.「現市場(顧客)」に対して「新商品・サービス」を提供する『新商品開発』

いままでのお得意様は、コロナ禍でどんなことに困っていますか?ここに応える「商品・サービス」を考えてみます。
高齢な患者さんが多い傾向にある接骨院・整骨院は、コロナ禍で厳しい局面にある業種のひとつです。患者さんご本人が通院を敬遠されるだけでなく、ご家族が反対するケースも多いとお聞きします。
一方、巣ごもり生活により身体のコリや痛みに悩む方は少なくありません。コロナ禍で自宅用の健康器具販売は活況を呈しています。接骨院・整骨院は国家資格である「柔道整復師」が施術する医療機関ですが、ある接骨院では最近自宅用健康器具としてブームとなっている「マッサージガン」(ピストルの形状をした電動マッサージ器)を販売し、限定公開のYouTubeで使い方の講座を開いています。ご近所の高齢者には訪問して使い方を指導しています。ネット上では様々な種類の「マッサージガン」が販売されていますが、「柔道整復師がオススメするもの」「その接骨院から買ったら使い方も指導してもらえること」がウケて、ネットでの販売価格よりも高いにもかかわらず購入者が増えているとのことです。

マッサージ器を使う女性のイラスト

3.「新市場(顧客)」に対して「現商品・サービス」を提供する『新市場開拓』

ネット販売やSNSの活用などは、新市場開拓でよく使われる手段です。その場合でも、漠然と「新市場」と考えてはいけません。どういうニーズ(困りごと)がどういう人たちに存在するのかを徹底して絞り込む必要があります。
特にインターネットを通じたネット販売では、少し大げさにいえば世界中の同業者が競合になります。そして、単にネット販売用のホームページをつくるだけでは、誰もそのホームページの存在に気がつきません。「当社・当店ならでは」の特長ある商品・サービスであることも重要な要素です。
多くの支援機関では、ネット販売やSNSを活用した新規顧客の獲得をテーマとする講座が開かれています。そういった講座をのぞいてみてから、戦略を考えてみましょう。

4.「新市場(顧客)」に対して「新商品・サービス」を提供する『多角化』

いままでとは異なる市場(顧客)に、新しい商品・サービスを提供するのですから、ハードルの高い戦略といえます。
身近な例では、家電メーカーのシャープによる不織布マスクの販売が挙げられます。

シャープ製のマスクの写真

もともとシャープは液晶パネルに強みを持っていましたが、業績不振により2016年に台湾の鴻海精密工業の傘下に入りました。鴻海精密工業も家電やパソコン部品等のメーカーですが、中国での新型コロナウイルス感染の広がりを受けていち早くマスク生産に参入していました。
そこでシャープは、鴻海精密工業のノウハウと自社製造ラインを活かし、政府からの支援も受けて日本国内でのマスク生産といういままでやったことがない分野に進出することにしたのです。

どの戦略にもいえることは、コロナ禍で生じたニーズに対して、自社の強み(第4回で考えた差別化ポイント)を活かしているという点です。そして忘れてはいけないことは、「利益・資金の視点を忘れない」ということです。

お一人で考えるのではなく、支援機関(中小企業基盤整備機構、よろず支援拠点、商工会・商工会議所・中小企業団体中央会、金融機関や顧問税理士などの認定経営革新等支援機関)に相談しながら、事業を見直し、再構築しましょう。

次回第7回は、「ステップ(6) 再構築の方向性を経営革新計画などで「見える化」しよう」をテーマに考えていきます。

文責

中小機構 中小企業支援アドバイザー 古川忠彦