雇用調整助成金

2020.6.30更新

1.雇用調整助成金とは

雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練または出向を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当(後述)、賃金等の一部を助成するものです。事業主が休業手当を支払った後、国に申請をして、後日助成金が給付されるという仕組みになっています。

過去にもリーマンショックや東日本大震災時などに活用されている助成金ですが、今回、国は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、本年4月1日から9月30日を緊急対応期間と位置付け、特例措置を実施しています。
以下、主に緊急対応期間に休業を実施した場合について解説します。

2.助成対象となる主な条件

(1)雇用保険の適用事業所であること。

(2)新型コロナウイルス感染症の影響を受け、休業した月の売上等が前年同月と比較して5%(ただし、休業期間の初日が3月31日以前である場合は、10%)以上減少していること。
なお、売上等の要件については緩和措置があります(※1)。

(3)労使間で事前に話し合い、その決定に沿って休業を実施したこと。ここでいう休業とは、「従業員が所定労働日に働く意思と能力があるにもかかわらず、労働することができない状態」を指します。有給休暇や疾病による休職等は対象になりません。
助成金の対象となる休業は、以下を満たすことが必要です。

  1. 雇用保険に加入している従業員の休業であること。ただし、雇用保険被保険者以外の従業員(週20時間未満の契約で働くパート・アルバイト等)でも、緊急対応期間は、要件を満たした場合、緊急雇用安定助成金の支給対象となります。
  2. 1.に示した従業員の休業の延べ日数が、所定労働延べ日数の40分の1(大企業は30分の1)以上であること。
  3. 休業期間中の休業手当の額が、労働基準法第12条に定める平均賃金の60%以上支払われていること
    【平均賃金とは】
    a.原則:直近3ヶ月間の賃金総額/その期間の暦日数
    b.最低保障額(日給制、時給制、出来高制の場合等):aと下記算式のいずれか高い方   
    直近3ヶ月間の賃金総額/その期間の実労働日数×60%

なお、休業は1日単位だけでなく、1時間以上の短時間休業も対象となります(※2)

3.支給申請までの流れ

(1) 休業の計画を立て、協定を締結する

休業・縮小営業を決めたら、誰にいつ休んでもらうか、それに対して休業手当をどの程度支払うか(60~100%)検討し、労使で協定します。協定例は「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)」(以下「ガイドブック」)p.14にあります(※3)。助成額の算定には、ここで決定した支払い率を用います。

(2) 実際に休業し、休業手当を支払う

出勤簿やタイムカード、シフト表などに所定労働日と休業日を記録します。給与明細や賃金台帳には、休業手当と、通常の労働日(時間)に支払われた賃金を明確に区別して記載します。

(3) 助成金の支給申請書を作成する

都道府県労働局・ハローワークに申請します。必要書類等は「ガイドブック」p.2に記載があり(※4)、様式はダウンロードできるようになっています(※5)。
申請期限は、通常は支給対象期間(毎月の賃金締切日翌日からその次の賃金締切日までの期間、原則として1ヶ月間)の翌日から2ヶ月以内ですが、5月31日までの休業については、特例として8月31日までです。

4.助成額

(1) 算定方法

事業主が従業員に支払った休業手当(相当額)に対して助成します。1日当たりの助成額は、
「事業所の1日の平均賃金額×休業手当支払い率(60%~100%)×助成率(下表)」
の算式で求めます。

区分

中小企業

大企業

新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主

4/5

2/3

解雇をしていないなどの上乗せの要件を満たす事業主

10/10

3/4

ただし、1日の助成額単価の上限は15,000円となります。
この単価に、従業員を休業させた休業延べ日数を掛けた総額が助成額になります。

この「1日の平均賃金額」は、通常は「労働保険確定保険料申告書」の金額から計算しますが、5月19日からは「所得税徴収高計算書」も使用できるようになっています。具体的な数字の記載については、「ガイドブック」p.20にある助成額算定書の解説をご覧ください(※6)。助成額算定書は自動計算機能付き様式となっているため、シミュレーションにも利用可能です。

さらに、従業員が概ね20人以下の小規模事業主には、実際に支払った休業手当に助成率を乗じて助成額を算定する方法も認められています(※7、提出書類もこちらに記載あり)。

(2) 遡及適用

6月12日に、上限額の引き上げ(8,330円→15,000 円)と中小企業の助成率の拡充(9/10→10/10)が決定しましたが、これは4月1日に遡及して適用されます。申請済み・受給済みの場合、差額(追加支給分)は手続きをしなくても後日支給されます。
一方、制度拡充のため、遡って従業員に休業手当を増額して支払った場合は、再申請により差額を受給することが可能です(※8)

5.最後に

以上のように、雇用調整助成金は大幅な拡充や手続き簡素化が行われています。以前申請を諦めてしまった企業も、ぜひ条件や手続きを再確認してみてください。

なお、この機会に労働者名簿、勤怠の記録、賃金台帳、就業規則・労働条件通知書などの書類の整備状況の確認をお勧めします。今回、簡素化により申請時に添付不要となったものもありますが、本来は労務管理上重要な書類ですし、今後の調査で求められる可能性もあります。助成金申請を、労務管理を見直すきっかけと捉えましょう。

【参考資料】

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文責

中小企業診断士・社会保険労務士
高橋 美紀

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