経営支援の現場から

観光で地元が潤う島を目指して「ぷからす交流商談会」:宮古島商工会議所(沖縄県宮古島市)

2024年 4月 25日

宮古島商工会議所の糸数優子経営指導員
宮古島商工会議所の糸数優子経営指導員

宮古島は沖縄の中でも屈指の人気を誇る観光スポットだ。白い砂浜に透明な青い海。その美しさは日本一、アジアナンバーワンとも称される。マリンスポーツやビーチリゾートを楽しもうと多くの若者や家族連れが島を訪れ、海外からは大型クルーズ船が来航する。人口5万5000人の島に訪れる観光客の数は年間100万人を超す。

そんな活況を呈する宮古島だが、観光客の増加が島内経済に波及せず、地元の事業者の多くはその恩恵を実感できないのが実情だ。県外から進出した企業が島外で仕入れた商品を販売し、地元にお金が落ちない、いわゆる「ザル経済」に陥っていることが大きな要因となっている。「この状況を何とか打破したい」と、宮古島商工会議所の一人の女性が立ち上がった。市や観光協会、地元事業者に働きかけ、手作りの「交流商談会」を開催し、地域経済の活性化や地元事業者の意識改革につなげている。

島ならではの個性的な商品がずらり

開会式であいさつする宮古島商工会議所の根路銘康文会頭
開会式であいさつする宮古島商工会議所の根路銘康文会頭

「この商談会は、ただの商談会ではなく、『交流会』でもある。交流を通じて付加価値の高い宮古島オンリーワンの観光品や特産品を作ってもらい、バイヤーの力で全世界に発信してほしい」。沖縄県宮古島市で2024年1月開催された「ぷからす交流商談会」で、宮古島商工会議所会頭の根路銘(ねろめ)康文氏は参加したサプライヤーとバイヤーたちにこう呼びかけた。

熱気に包まれた「ぷからす交流商談会」
熱気に包まれた「ぷからす交流商談会」

「ぷからす交流商談会」は宮古島商工会議所を中心に市や観光協会、伊良部島にある伊良部商工会、中小機構沖縄事務所などが連携し、地元で生産された農産物や食品、特産品などの販路拡大を目的に開催された。2023年1月の初開催に続き、今回が2回目。市の施設を利用した第1回のイベントから大幅にグレードアップし、市内のホテルに会場を設けた。参加者も大幅に増加。島内の事業者を中心にサプライヤーは36社、バイヤーは飛び込みの参加もあり40社以上にのぼった。

紅芋やゴーヤー、コーヒー、泡盛の酒粕で育てた牛肉、ゆし豆腐や島素材バターサンド、即席タイプの地元伝統味噌汁、泡盛職人が作ったラム酒、特産品の宮古上布や化粧水…。出展された商品は、宮古島ならではの個性的なものばかりだ。地元に進出した全国規模の量販店や高級リゾートホテルなどバイヤーとして参加。熱心に商品の説明を受ける場面が会場のいたるところに見られ、大きな熱気に包まれていた。

手作り感満載の商談会からスタート

イベント開催に奔走した糸数氏
イベント開催に奔走した糸数氏

このイベントの仕掛け人は、宮古島商工会議所経営指導員の糸数優子氏だ。

宮古島商工会議所中小企業相談部で補助金の申請や全国の展示会への参加など経営改善・事業成長に向けた幅広い支援を担当している。2021年に沖縄市内で開催された商談会「果報庭(かふうなぁ)」に地元事業者に同行参加したことが大きなきっかけとなった。

「果報庭」は、内閣府沖縄総合事務局が主催する事業者交流イベントで、宿泊や飲食、小売などの県内観光事業者と県内サプライヤーとのマッチングを目的としている。参加した糸数氏はバイヤーを待っているサプライヤーが隣の別のサプライヤーと雑談している場面をみかけ、「それがいい」と思ったという。「事業者同士が他の事業者の商品をみたり、意見交換したり、作り方などを教えてもらったりといろいろヒントをもらっていた。これを宮古島でもやりたいと思った」と語る。

「ぷからす交流商談会」の大きな目的は、地元事業者同士の交流だ。バイヤーもサプライヤーも島内の事業者が中心。販路の開拓だけでなく、イベントを通じて地元の事業者同士がお互いを知ってもらう。交流の中で事業者同士が知恵を出し合って作り出した商品やサービスを観光客に販売し、宮古島の経済が潤う流れをつくることを狙っている。

「『ぷからす』は、宮古島で『うれしい』という意味。参加者の『うれしい』が数多く生まれるビジネスマッチングの場になってほしいという思いを込めた」と糸数氏は話す。

年間100万人も観光客が訪れているのになぜ地元は潤わないのか。逆に土地は高騰し、人手が足らなくなり、求人しても集まらない。物価は高くなる一方だ。「観光地になることはいいことなのか」。一部の事業者からはそんな不満すら聞こえてくる。糸数氏らが事業者たちから受けた相談の中から、その背景が浮かび上がってきた。

「地元の生産者は地元での売り先よりも送料を負担して県外に売っている。一方で島内のホテルは地元の仕入れ先が分からず、卸売業者を通じて県外産を仕入れている。観光客は宮古のものを求めているのに『なんでこうなっているの』と感じ、お互いをつなごうと思った」と糸数氏は語る。

「どうやったらできるだろう」と上司に相談。さらに市や観光協会とも意見交換を重ね、第1回「ぷからす交流商談会」を開催した。人手も資金もない中で、みんなで協力し合いながらの開催だった。「まずはやってみて、何が課題なのかに気付くための商談会だと思ってチャレンジした」と糸数氏。バイヤー・サプライヤーそれぞれ20社程度の参加を目標としていたが、ふだんから付き合いのある事業者などに声をかけ、目標を上回る参加をとりつけた。手作り感は満載だったが、参加した事業者から「また、やってほしい」と声をかけられた。

第2回開催、中小機構が後押し

交流商談会の出展者と談笑する中小機構沖縄事務所の越智稔之所長
交流商談会の出展者と談笑する中小機構沖縄事務所の越智稔之所長

手ごたえを感じた糸数氏。第2回「ぷからす」の開催を目指したが、なかなか思うようには前に進まなかったそうだ。前回の反省を踏まえ、ホテルの宴会場での開催にこだわった。ホテルで開催すれば、会場も広くなり、試飲や試食が可能になる。言葉だけで説明するよりも食品や飲料を直接口にしてもらった方がバイヤーへのアピール力は大きく変わるからだ。

思い悩んでいた糸数氏の背中を押したのは、中小機構沖縄事務所所長の越智稔之氏(肩書は取材当時)。中小機構が展開する「地域経済振興支援事業」の活用を提案した。「宮古島商工会議所が市や観光協会などを巻き込んで課題解決に取り組まれている姿勢を見て、中小機構としても、皆さんと一緒に地域全体の活性化に貢献できるのではないかと感じた」と越智氏は語る。

中小機構の後押しを受けて、商工会議所も第2回の開催に向けて本格的に始動。市や観光協会などと調整し、前回よりもスケールアップした形での開催にこぎつけた。

中小機構沖縄事務所は、「果報庭」事業にも携わっており、展示会や商談会開催のノウハウは豊富だ。第1回「ぷからす」でも開催に向けたアドバイスを提供していた。第2回のイベントでは、アドバイザーやスタッフを派遣。商談会の運営や会場の設営などを後方から支援したほか、東京・大阪・沖縄から3人のバイヤーを招き、交流商談会に参加してもらった。

今回、参加してもらったバイヤーについて、越智氏は「地域の事業者との連携を大切にし、地域の魅力をビジネスとして発信するような取り組みをされている方々をお呼びした」としている。バイヤーからの商品に関する評価や改善点などもフィードバックし、事業者の今後の商品開発などに役立ててもらう考えだ。東京から参加したバイヤーは「売り手・買い手ともにこんなに熱心なイベントはなかなかない」と感心しており、「出展した商品も売りにつながるような実力を持った商品群になっている」と評価していた。

「今回は交流商談会だが、それ以外の場面でも中小機構の強みを生かした支援ができる。市や商工会議所、商工会と連携して、地域の活性化プログラムを構築していきたい」と越智氏は話している。

事業者間の交流、さまざまな成果生む

会場入り口には、出展したサプライヤーの笑顔を写した写真が展示された
会場入り口には、出展したサプライヤーの笑顔を写した写真が展示された

糸数氏によると、今回の商談会には、ふだんから県外の商談会や展示会などに参加している“ベテラン”の事業所にも、たっての願いで参加してもらったそうだ。商品の展示の仕方や説明の仕方もこなれている。初めて参加した事業者にその様子を学んでもらおうという思いからだった。

前回に比べ、参加企業は10社ほど増えたが、「まずはチャレンジしよう」と説得したり、商品の情報などを書き込む商談会シートの作成を手伝ったりと、いろいろと手を尽くしながら、前向きではなかった事業所も乗り気にさせた。「こうした事業者がベテランの事業者との交流を通じて、『次はもっとこうしよう』『こんな工夫をしてみよう』と考えてもらえれば、さらにビジネスチャンスが生まれてくる」と糸数氏は目を細めた。

また、今回の商談会には障がい者の就労支援施設の事業者も参加。障がい者が製作した商品を展示する一方、サプライヤーとの交流の中で「箱詰めなどの軽作業なら施設で引き受けられる」という提案をしたという。島内には、人手不足に悩む事業所も多く、「出会えてよかった」と活用に前向きな声も聞かれた。

参加を予定していなかった地元の高級リゾートホテルの関係者も当日、飛び込みでバイヤーとして参加。思わぬ交流の輪も広がった。

交流会を通じてみえてきた課題は深刻な人手不足と島内物流の脆弱性。いい商品を作っても、その商品を箱詰めする人材が確保できない。商品を輸送する手段がなく、在庫を保管する倉庫を確保できない。商工会議所だけでは解決が難しいテーマで、市と連携して勉強会を開催するなど少しずつだが解決に向けた取り組みも始まった。リスクを恐れず初めての事業に挑戦する人をファーストペンギンという。ペンギンの群れの中から最初の海に飛び込む勇気のあるペンギンに例えたものだが、島が抱える課題に果敢にとりくむきっかけをつくった糸数氏のチャレンジもそれになぞらえる。

国内外から多くの観光客が訪れる宮古島は、日本全国ひいては世界につながるマーケットでもある。観光客が宿泊したホテルや立ち寄った飲食店で口にした地元の食材や小売店や土産物店などで購入した地元の商品が口コミで広がれば、島外に広く流通する期待は高まる。その意味でも事業者たちは恵まれた環境に置かれている。サプライヤーやバイヤー、島民や観光客…。島にかかわる多くの人々が「ぷからす」になる日に向けて、糸数氏の今後の活躍が注目される。

支援機関データ

支援機関名:宮古島商工会議所


Webサイトhttps://www.miyakojima-cci.jp/


設立:1975年4月


会員数:1764事業所


代表者:根路銘康文氏


所在地:沖縄県宮古島市平良字西里240‐2 琉球銀行ビル3階

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