起業の先人に学ぶ

商品の形態ではなく、機能で勝負【株式会社ピギーバックス】

同じものでも、着目する点を変えることで新しい展開が可能になる。ピギーバックスの大川明伸社長は"洗顔石鹸"という競争が激しい製品市場で、"マッサージ洗顔"という機能をアピールすることにより、新しい需要の取り込みを狙う

株式会社ピギーバックス 社長 大川明伸
1967年4月生まれ。大阪府出身。大学卒業後、食品メーカー勤務を経て、化粧品メーカーに18年勤務。2010年3月退社し、同年4月ピギーバックスを設立。

"洗顔でマッサージ"をテーマに洗顔石鹸市場に参入

「ピギーバック」とは、おんぶや肩車の意味。「誰かを“支える”イメージから“女性が美しくなるのを支援したい”という思いをこめて社名に採用した」と語る大川明伸社長

——御社の事業は洗顔石鹸の販売ですが、この市場では後発です。他社との差別化のポイントを教えてください。

一般的には、石鹸、化粧水、乳液といったモノの形状で製品を区分けしますが、私は"この商品は自分に何をしてくれるのか"という機能面を重視しています。当社の商品は従来の分類で言えば石鹸ですが、当社が提供しているのは、"マッサージ洗顔"です。不純物のない石鹸なので、すぐにきめ細かい弾力性のある泡が作れ、それでマッサージ洗顔ができます。つまり、当社では単に洗顔石鹸を販売しているのではなく、"毎日の洗顔でマッサージができる"ことを提供しているのです。

——販売促進で工夫している点はありますか?

今は買ってくれといって買ってもらえる時代ではありません。この商品が好き、この会社が面白いと思ってもらえて初めて買ってもらえるのです。ですから、どうすれば消費者に選ばれるかを常に考えています。

たとえば、先日は当社の石鹸の泡を使って何かを作るというイベントをネット上で行ないました。当社の石鹸の泡はきめが細かく、くずれないのが特徴ですが、それをより分かりやすく伝えるために、美容ブロガーなどに石鹸の泡でわたあめやパフェなどを作ってもらい、それぞれのブログで作品の画像やコメントを紹介してもらったのです。

"石鹸でこんなことができる"ということを利用者自身が発信することで、商品の魅力についての説得力も高まります。今後もこうした楽しくかつ商品の魅力が伝わりやすいPRを通じ、ファンを増やしていきたいですね。

起業したからこそわかること、それを知りたかった

肌に張り、潤いを与え、引き締める成分が入ったビギーバックスの洗顔石鹸。ひとつ75gで、価格は1890円(税込み)

——ところで、起業する前は化粧品メーカーにおられたそうですね。

もともとは化学系の出身で、大学卒業後は食品メーカーで開発に携わっていました。そこに2、3年勤めた後、化粧品メーカーに転職しました。当初は開発だけが担当だったのですが、中小企業で人手も限られていたため、次第に製造や販売も見るようになりました。いろんなことをしなければならないので確かに大変でしたが、製品の開発から販売まで事業の全体を見たことは、起業するうえで大きな財産になりました。

——なぜ起業されたのですか?

化粧品メーカーには18年勤務し役員にもなっていました。仕事は面白かったし、やりがいもあり不満もありませんでした。また、昔から独立志向があったわけでもありません。ですから、起業した明確な理由はこれといってないのですが、あえていえば、起業しなければわからないことを経験したいと思ったからです。

著名な経営者の本などによく書かれている「不況はチャンスだ」といったことは、経営者の立場でなければわからないでしょう。また、会社に守られた立場ではなく自分の責任で事業を運営する立場になることで、見えてくるものもあるでしょう。そうしたものを知りたかったのです。

——同じ化粧品メーカーということで、勤務先から反対されたりはしなかったのですか?

勤務先にはとくに反対されることもなく、むしろ社長からは「面白いからやってみろ。何かあれば相談にのるよ」と応援してもらいました。そうしたことも起業を決意した理由のひとつだと思います。

技術の組み合わせやPRの工夫で新たな需要を開拓

ビギーバックスのホームページ。サイト上では利用者の声を掲載したり、利用者参加型のイベントを行ったりしている

——起業して大変だなと思うことはありますか。

会社設立などの手続きが面倒だと思うことはありましたが、苦労だと思うことはなかったですね。研究開発する場所を借りたり、製造を委託する先を探したりと、あちこちにお願いしなければならないことも多かったのですが、それがとくに嫌だということはありませんでした。

——逆によかったことはありますか。

起業したからこそ出会えた人たちがたくさんいることですね。仕事を委託する先は、独立してから付き合い始めたところばかりですが、そうした先の社長はこちらの要望に真剣に向き合ってくれます。たくさん足を運んだからということもあるでしょうが、リスクを覚悟して起業した仲間として認められ、協力しようと思ってもらえるのではないでしょうか。

——課題はありますか。

課題というほどではないのですが、"石鹸が長持ちしすぎる"ということは想定外でした。当社の商品は不純物を取り除いた石鹸なので、すぐに泡立ち、溶けることもないため、3カ月経ってもなくならないのです。消耗品を販売する事業で、長持ちしてお客さんに喜んでいただいているというのは、ちょっと複雑な気分ですね(笑)。

——今後の事業展開を教えてください。

今までにない全く新しいものを開発できるのは5年に1度あるかないかでしょう。しかし、既存の技術を組み合わせたり、製品のコンセプトや販売の方法などを変えたりすることで、新しい需要を開拓することはできます。そうした従来と異なるアプローチで新しい需要を掘り起こしていきたいですね。具体的な取り組みとしては、洗顔石鹸に続き、これ一本で肌のケアができるというような商品を発売する予定です。

企業データ

企業名
株式会社ピギーバックス
Webサイト
設立
2010年4月
資本金
980万円
所在地
〒550-0013 大阪市西区新町1-2-13 新町ビル2F
Tel
06-6532-5118

掲載日:2011年6月 7日