中小企業とDX

IT・DXで「新しいオフィスを創造する企業」へ進化を続ける老舗【株式会社イシマル(長崎県長崎市)】

2026年 1月 19日

新しいオフィスを創造するイシマルの石丸太望社長
新しいオフィスを創造するイシマルの石丸太望社長

140年以上前に創業した文具店を源流とする株式会社イシマルは、事務機器やITソリューションを手掛け、新しいオフィスを創造する企業へと進化した。インターネット黎明期からいち早くIT事業に舵を切り、デジタル人材育成にも注力している。2021年にリニューアルした本社オフィスでは自らDXを実践すると同時に、働き方改革を推進した。進化を続ける老舗企業として、その存在感をさらに高めている。

1883年創業の文具店からB to Bの商社部門を分社独立

1910(明治43)年当時の石丸文行堂
1910(明治43)年当時の石丸文行堂

長崎市の中心部から車で15分ほどの長崎卸センター(長崎市田中町)。もともとは流通・卸売業者が集積する卸団地の愛称で親しまれてきた。時代の変化とともに、その後、多種多様な業種が進出してきたことを受け、現在は「長崎Bizセンター」の愛称を持つ総合企業団地になっている。

その一角に1996年から本社を構えるイシマルは、2021年7月にオフィスを全面リニューアルした。ABW(Activity Based Working=業務内容や活動に合わせて働く場所を自由に選択できる働き方)の考え方を導入した広々としたオフィスは、「快適」「交流」「集中」などをコンセプトに設計され、「働き方研究所」と呼ばれている。「多くのお客様が見学に訪れるショールームでもある」と、同社社長の石丸太望氏は力強く語る。

同社の歴史は、石丸國吉氏が1883年に創業した文具店に始まる。その後、石丸文行堂として法人化。戦後の高度成長に伴い、コピー機やファクスなど法人向けの事務機器を取り扱う事業が拡大したことから、1973年に商事部門が独立してイシマルが設立された。創業140年・設立50年の節目となった2023年、石丸氏は3代目社長に就任した。

インターネット普及でIT化を推進

2021年に全面リニューアルされた本社屋
2021年に全面リニューアルされた本社屋

事務機器やオフィス家具などの販売だけでなく、ネットワークやシステムの事業にも乗り出したのは、国内でインターネットが広がり始めた1990年代のことだ。2代目社長の利行氏(石丸氏の父、現会長)は、社長就任から3年後の1998年、21世紀に向けた経営指針「Vision21」を発表。パソコンやネットを基幹事業の一つに位置づけた。

社内のIT化も積極的に進め、2006年にはIT経営百選の最優秀賞企業に選ばれている。これは、中小企業のIT活用を促進することを狙いに、目標となる企業を経済産業省などが選んで表彰するもの。同社の取り組みが“お墨付き”を得た格好で、利行氏も受賞後、「自らIT活用を実践し、その効果を顧客に提供する姿勢が認められたことはうれしい」と述べていた。

事業内容が大きく変貌するなか、石丸氏は2009年に入社。当初はキヤノンのグループ企業へ出向し、続いて中小企業大学校東京校(東京都東大和市)の「経営後継者研修」を受講した。将来の経営者としての修業を積んだうえで、設立40周年にあたる2013年からイシマルでの実務を本格的にスタートさせた。

強みは社員の専門性と技術力

有資格者の掲示板は年2回更新
有資格者の掲示板は年2回更新

「当社の強みは、ITに関する社員の専門性と技術力」と石丸氏が強調するように、同社はデジタル人材の教育・育成に力を注ぐ。とくにIT関係の資格取得は強く奨励しており、「情報セキュリティマネジメントとITパスポートは絶対に取ってほしい」と社員に呼び掛けている。石丸氏自身も情報セキュリティマネジメントを取得した。

取得者には奨励金を授与するほか、人事評価でも加点される。さらに、資格取得への意欲を高めようと、有資格者の氏名を社内に掲示するようにもなった。資格取得者は着実に増加し、なかには難関資格といわれる中小企業診断士も登場している。かつては掲示板の更新は年1回だったが、現在は年2回に増えた。「社内ではモチベーションの向上につながるし、オフィスを見学に来られるお客様の信頼と安心をかっている」と石丸氏は胸を張る。今では、休業日の土曜午前に社員が自発的に集まり、資格取得に向けた勉強会(一部はオンライン参加)を開催している。

本社リニューアルで「働き方研究所」

ABWの考え方を導入した「働き方研究所」
ABWの考え方を導入した「働き方研究所」

「事務機器のイシマル」から「IT・DXのイシマル」への脱皮を進める同社の新しい姿を具現化したのが、2021年の本社リニューアルで登場した「働き方研究所」だ。自社オフィスにDXを導入し、日々の業務の中で実践している。なかには、導入したシステムやソフトがうまく機能しなかったケースもあるが、「自分たちが直面した課題を解決することで、顧客に対して、より実践的で有用性の高いソリューションを提案できる」と石丸氏は話す。

DXだけではない。その名が示すとおり、働き方の実験場でもある。リニューアルに向けて2018年にスタートしたプロジェクトでは、時間や場所に縛られないワークスタイル、誰とでも仕事ができるワークプレイスの創出を目的にABWの考え方を導入し、社員の働きやすさを追求した。また、社員の意識改革や社内の雰囲気づくりを進めるため、労働組合と連携し、労使双方が参加する衛生委員会が残業の多い部署に働きかけるなどして働き方改革を遂行。その結果、月平均20時間あった残業時間は13時間ほどになり、年次有給休暇の取得率も目標としている50%を大きく上回る78%に向上した。総務部(人事労務担当)主幹の平正生氏は「オフィスのリニューアルというハード面の変化をきっかけに社員の意識が変わり、今では午後7時までには帰るようになっている」と改革の進行ぶりを説明する。

働き方研究所は2022年、快適・機能的で創造性を高めるオフィスを表彰する「日経ニューオフィス賞」で九州・沖縄地域の奨励賞を受賞した。

“ムーンショット”は「事務機器がないビジネスシーンをリード」

2024年10月開業の長崎スタジアムシティでオフィス棟の一部を手掛ける
2024年10月開業の長崎スタジアムシティでオフィス棟の一部を手掛ける

「ムーンショットを定めよう」。2023年からの中期経営計画で、石丸氏は社員にこう呼び掛けた。ムーンショットとは、1961年にケネディ米大統領(当時)が打ち出したアポロ計画に由来する。人類を月に着陸させて帰還させるという、実現不可能とも思われた壮大なプロジェクトが、米国の研究開発と産業競争力の向上につながったといわれており、昨今では研究開発や企業経営のキーワードになっている。

石丸氏が掲げたムーンショットは、「2050年までに事務機器がないビジネスシーンをリードしよう」というものだ。AIなど技術の進歩は驚異的に加速しており、「半年、1年ほどで大きく変化している。10年、20年後に今のような事務機器が存在しているかどうかも分からない」と石丸氏は語る。「社会がどんな姿になっていたとしても『イシマル』が存在し続けていけるように、専門性と技術力を継続的に向上させていかなければならないという心構えだ」としている。

地域のリーダーとして未来を切り開く

石丸利行会長(左)と石丸社長は2代続けて中小企業応援士
石丸利行会長(左)と石丸社長は2代続けて中小企業応援士

地域への貢献にも積極的だ。同社は2018年、地域経済の中心的な担い手として経済産業省から「地域未来牽引企業」に選出されたほか、利行氏と石丸氏が2代続けて中小機構から「中小企業応援士」を委嘱されている。地域のリーダーとして大きな期待が懸かっている存在だ。歴史を振り返れば、創業者の國吉氏は、長崎市屈指の繁華街・長崎浜市商店街の前身となる商店会設立メンバーの一人でもある。「(國吉氏は)お店単独では成長に限界があるという考えから、地域の人たちと力を合わせて商店会をつくった。店が集まり、そこへ人が集まり、まちができあがっていった。そのDNAは現在のイシマルにも受け継がれている」と石丸氏は話す。

長崎では近年、西九州新幹線の開業、サッカースタジアムやホテル、オフィスなどからなる大型複合施設「長崎スタジアムシティ」のオープンといった大規模プロジェクトが進む一方で、人口流出といった社会問題が深刻化している。「地域に活力があれば人が集まってくる。それに向けて、当社は地域が抱える困り事を解決し、みんなが笑顔で働けるような場所になるよう貢献していきたい」と石丸氏。創業以来のDNAを継承し、地域の人々とともに未来を切り開いていく考えを示した。

企業データ

企業名
株式会社イシマル
Webサイト
設立
(創業)1883年3月
資本金
5000万円
従業員数
189人
代表者
石丸太望 氏
所在地
長崎県長崎市田中町587番地1
Tel
095-834-0140
事業内容
オフィスの総合商社、事務機器・事務用品・文具通販、オフィス空間設計・施工、AI/ICT、システム開発・セキュリティサービス、DX支援、ネットワーク・メンテナンス・サポート